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機動悪役令嬢フォルフィズフィーナ  作者: えがおをみせて


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第20話 フミネの演説




「わたくし、悪役令嬢を極めることにいたしましたわ!!」


 朝一番、朝食の席でのフォルテの発言であった。


「そ、それはどういう意味なのかな?」


 震える声で大公が質問する。ドン引きで。


「わたくしの魂が叫んでいるからですわ!!」


 大公の言葉は、テンションの上がりまくっているフォルテには届かない。


「すまんがフミネ殿、説明をしてもらえるかな」


「は、はぃい」


 マズい。その場にいる全員の目がフミネに注がれる。フォルテはキラキラと、それ以外の面々からは「おまえ、フォルテに何を吹き込んだ」と。目は結構語れるものなのだ。


 マズい。まさかこの場で本当の事を言ってしまうのは、酔っぱらった勢いで悪役令嬢なんて単語を出して、やっちまったと思って、適当な格好良さそうな単語を並べて、フォルテをその気にさせてしまった、などと言えるはずもない。フミネは必死に考える。


 そして考えることの代わりに、自分を納得させることにした。この世界には、この世には、『格好の良い嘘』だって存在するのだ。フミネの格好良さの柔軟さとキャパの大きさには、家族から太鼓判を押されるほどの定評があった。格好良さの引き出しの多さに置いて、フミネは聖女をも上回るのだ。


「そもそも悪には悪の美学が、矜持があります」


 ニヤリと笑いながらフミネが語り始める。一世一代の大芝居だ。


「正義が正義であることを、悪が悪であることを決めるのは誰でしょう。それは他者です。そしてそれは誰も保証できません」


 何を言っているんだコイツという目線が集まる。


「確かに誇りを取り戻すために、悪の名を返上する必要があるときもあるかもしれません。しかし同時に、悪と呼ばれた本人が、悪で上等、それがどうしたという気概を持つことも、強さではないでしょうか。今、フォルテが目指しているのはそれです」


「しかしだな」


 思わず大公がツッコミを入れようとする。だが。


「しかも中央は、フォルテが、フィヨルトが汚名を返上しようと、名誉を取り戻そうと動くことを期待しているのではありませんか?」


 フミネの中では確定事項だ。単なる王太子のわがままだけで国家間で結ばれた婚約が、ああも簡単に破棄できるはずがない。多分、二つや三つの策謀が込められているはずだ。


「そ、それは確かに」


 これについては、さすがに大公も納得してしまう。


「敢えて悪の名を持って、雌伏するのです。いえ悪のままで結構!!」


 フミネは叫ぶように言う。


「昨夜フォルテにも語りましたが、日本では『悪役令嬢』が活躍する物語が多くあります」


「ニホンで……」


 お妃、メリアが呟く。フィヨルトにおいて『ニホン』という国のネームバリューは絶大だ。


「理不尽な理由、しかしある程度事実でもある濡れ衣を被せられた『悪役令嬢』。彼女たちは受け止め、成長し、勝利します。悪のままで」


 フミネの舌が滑りまくる。絶好調だ。


「『悪役令嬢』とは、傲慢で高飛車で、だけど真っすぐで力強く歩む者の代名詞です。なんの遠慮が必要なものでしょうか。そこらの誹りがなんだというのでしょうか。『悪役令嬢』たるもの、そんな有象無象は踏みつぶし、蹴散らすのです」


 ゴクリと、誰かが喉を鳴らした。


「悪役令嬢フォルフィズフィーナ!! 格好良い響きだとは思いませんか? わたしはとても力強く、凄く眩しく、格好良いと思いますよ!」


 フミネの謎演説に、いつしか場は静まり返っていた。



 ◇◇◇



「聖女が弁舌に長けるというのは、本当のことだったようだね」


「まったくですわ、わたくし、目の前が開けたかに思いましたわ!」


「フォルテ……。もう少しその、いや、いい」


 大公は完全には騙されてはいなかった。フミネは心の中で舌打ちする。もっとたっぷりと騙ってやれば、いや語ればよかったかと。


 逆に双子は大喜びだった。フォルンは自分も悪役令嬢になると言い出し、ファインは悪役令息ってないのかと必死になっていた。メリアは、フォルテが前向きになってくれたなら、それでいいとフミネに告げた。懐が深い。


「大丈夫ですよ。悪役令嬢には信頼できる友人とか、侍女がつくのが定番ですから。それと大抵、兄弟が味方になります。ね、フォルンちゃん、ファインくん」


「うん!」


「もちろんですわ!」


 双子が元気よく返事をする。セバースティアンとオクサローヌも心持ち頭を下げた。


「そしてわたしがフォルテの片翼になるのは確定事項です。この座は誰にも譲りませんし。それにふさわしい存在になってみせます。悪役令嬢の友として!」


「フミネ……」


 フォルテが目をウルウルさせる。しかし、そこに百合の気配はない。


「まあ、大公家そもそもの意向が不戦であり、フォルテの名誉は回復したいが、正直中央とは距離を置いた方が良いのも事実だ。そうなると問題は、ライドだな」


 ファーレスヴァンドライド・ファイダ・フィンラント。通称ライド。本来王妃となるフォルテに代わり、フィンラント大公家を継ぐべき者である。が、例の婚約破棄騒動時、あまつさえ王太子側に付き、実の姉を非難する側に回った。卒業は来年であるため、今も学院にいる。


「私とメリアから諫める手紙を送ろうと思うが、言う事を聞くかどうか。しかし今は考えてもしかたあるまい」


「そうですわ。今は強くなる時ですわ! フミネ、フサフキの基礎を鍛え直してくださいませ」


「うん、メリアさんもですよね」


「お願いするわ」


「じゃあわたしは、ファインくんとフォルンちゃんと一緒にソゥドを鍛えようかな。メリアさんはそれでいいですか?」


「ええ、構いません」


「さあ、皆で強くなるのですわ!!」



 ポジティブな悪役令嬢、フォルフィズフィーナの声が響いた。



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