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第164話 ご親征と来たものだ




「只今、戻りましたわ」


「おかえり」


 フォルテとフミネを出迎えたのは、ケットリンテだった。ここはクロードラント領都であった、クローディアの城である。現在、要塞化は最終段階に入っており、さらには地下通路を張り巡らせ、情報部の人員の出入りに使われている。脱出経路? 断じてそうではない!


「どうだったの」


 ライドが聞いてきた。彼もここに常駐している。というか、フィヨルタに残っているのは、国務卿、農務卿くらいのもので、外務卿に至っては、未だにヴァークロートだ。流石に血族ともあって、ヴラトリア公国の調略は完了していた。故にシャラクトーンもここにいる。そして、ファインもフォルンもだ。


 事ここに至り、フォルテも双子が前線に出ることを止めなかった。彼らとてフィヨルトの戦士なのだ。しかも専用の大型甲殻騎を持つ、大公一家の一員だ。止める理由が無い。


「存分に言い含めて来ましたわ。これでも戦争に参加するなら、わたくしが城を堕として来ますわ」


「怖いこと言うね。やれちゃいそうなところが、また」


「当然やれますわ」


「姉さん……」


 実際にやったら『大公閣下の国堕とし』なんて伝説になるんだろうなあ、とライドは韜晦した。



「戻りました」


 そんな時に執務室に入って来たのは、情報部長エィリア=クノイチ・スーン・トラパータであった。


「エィリア。ヴァークロートはどうなりましたの?」


「恙なく」


「ではドーレンパートは?」


「外務卿は人質として残りました」


「そう……。エィリア」


「はっ」


「勝って、迎えに行きますわよ」


「畏まりました」


 エィリアは顔色を変えない。瞳の輝きも変えない。だが、一瞬だが、身体に力が走った気がした。


「加えて、ご報告があります。フォートラント王国第5連隊が北方へ移動しています」


「北?」


「甲殻素材収拾のためと考えます」


 フォートラント王国は安定が故に、甲殻素材を集めにくい国でもある。大きくは北方と西方辺境となるのだが、先の戦いでクロードラントが堕ち、西方辺境を失った。また、フィヨルトからの素材が止まったため、その影響が出ているようだった。だからこその北方遠征か。


「何にしても、これで3個連隊と領主軍が、主敵ということですわね」


「増援がなければですね」


 明るい材料に、シャラクトーンは釘を刺した。視野を狭めるにはまだ早い。


「分かっていますわ」


 ツンとフォルテが顔を背けたが、半笑いである。そういう発言が欲しかったのだ。


「さあここからはケットリンテ、あなたの戦場ですわ」


 穢れなき笑顔でフォルテがケットリンテに指示を出した。


「うん」



 ◇◇◇



 停戦期限の10日前、当然ながらフォートラント王国軍も進軍していた。現在位置は、旧クロードラント国境付近である。そして、彼らの行軍は全て監視されていた。空にはニンジャ部隊のハンググライダーが舞い、地上では迷彩された情報部員たちが多数いる。


 フォートラント軍は、主に3つの経路で進軍を行っていた。簡易的に北、中央、南からそれぞれ西を目指す。特に南方経路は、道中でサウスダート領を経由するためか、数は多くなかった。あくまで主力は、北方と中央である。さらに言えば、北方軍は北西戦線から第5連隊が合流する可能性もあるため、注意が必要であった。


 そして最後に大問題。中央軍のど真ん中に、とんでもないものが存在していた。情報部員も我が目を疑い。複数人で確認したほどだった。



「フォートラント=ヴァイがいた?」


「5重で確認が取れた、あ、いや取れました。間違いありません」


 情報部副長、アレッタ=フサフキ・プロンプトが断言した。


「まさか、ご親征とは恐れ入りましたわ」


「ねえねえ、フォルテ、それって?」


「フォートラント=ヴァイは『王騎』ですわ。フォルフィナファーナ様が造られ、友好の意味でフォートラントに贈ったとされている騎体ですわ」


「伝説の甲殻騎かあ、燃えるね。ってことは、王様が出て来てるってこと?」


「それしか考えられませんわ。実際に最強戦力であるのも事実ですわ」


 そうだ、国王ウォルトと王妃アリシアが組めば、そして王騎が第5世代改修を受けていたならば、最強の個体足りうる。


「ケッテ。想定出来ていましたの?」


「さすがにムリ。近衛もいると思う。修正はするけど」


 騎士団長ではなく、王直轄の護衛騎士団たる近衛騎士団。その数は50に満たないが、練度は高いとされている。


「全部は無い。だけど30は見た方がいい」


 ケットリンテが淡々と、敵戦力の増加を告げた。すでに彼女は思考の海へと意識を移していた。



 ◇◇◇



「戦争は怖いか? アリシア」


「はい。怖いです」


「そうだな、俺も怖い」


 誰の耳も無いフォートラント=ヴァイの操縦席で、二人が会話をしていた。


「あちらは違うのだろうな。日頃から甲殻獣と闘争し、ヴァークロートとも、我が国とも戦争をして、殺し殺された」


「そう、なんですね」


「何が西の蛮族だ。奴らは強い。力とか技ではない。戦う心そのものが強い」


「はい」


「アリシア、それでも行くか?」


「行きます。ウォルトの左翼騎士はわたしですから」


「そうか、心強いな」


 この度の親征については、反対意見も多かった。だが、ウォルトはそれを押し切った。王としての自分には代わりが居る。前王の子はウォルト一人ではあったが、叔父の子たちがいる。王位継承権など50位くらいまではナンバリングされているのだ。ならば憂いはない。


 何より敵の最前線には、必ずフォルフィズフィーナが現れる。王として、ライバルとして、負けるわけにはいかない。それはもう、男の意地だった。


 参謀としてガートラインが、僚騎としてクエスリングも付いてくれている。そして何より、アリシアがいる。ならば戦える。



 ここに来るまでにウォルトはアリシアと共に、兵たちを慰労した。同じ食事を食べ、道中の村々では極力徴発などをせぬように通達も出した。


 平民にも兵たちにも優しい王、それは彼自身の理想であった。仮にそれが高みから見下ろしたものであったとしても、問題は無い。それが普通の王の姿、いや、フォートラントとしてはお人よしの部類に入る王だったからだ。事実、兵たちの士気は上がり、近衛たちはそんな王の姿に感銘を受けていたのだ。


 そして彼は今日も、野営地を歩いていた。そんな王の姿を見て、兵たちは作業の手を止め、膝を付いた。


「よい。作業を続けよ」


 軽く手を振り、気さくな王を演じる。いや、少なくとも王立騎士学院に居た頃から、ウォルトはそんな存在だった。


 そして彼の隣に立つ、アリシア・フィッツ・ランドール=サラストリア=フォートランである。王国では平凡な髪色ではあるが、才気煥発にして可憐な空気が兵士たちを圧倒していた。噂される王国最強の特級左翼騎士、それが彼女であった。


「勝てるだろ」


「ああ、負けるわけがない」


「フォートラント万歳!」


「王陛下、王妃殿下万歳!!」



 フォートラントの兵士たちは、数で勝り、士気で勝り、そして個で勝ると、そう信じていた。その時が来るまでは。



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[一言] >フォートラントの兵士たちは、数で勝り、士気で勝り、そして個で勝ると、そう信じていた。その時が来るまでは。 どうなっちゃうんでしょうねー?
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