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機動悪役令嬢フォルフィズフィーナ  作者: えがおをみせて


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第144話 本気のフィヨルト




「いやあ、さっきの戦闘員8番が自分だったんですよ」


「おお、それはまた、お疲れさまでした。ささっ、どうぞ」


「どうもどうも」


 村でのイベントは宴会へとシフトしていた。楽団や合唱団が曲目を演奏し、歌い上げていく。当然彼らも参加者であるため、交代しながらであった。何にしても、アップテンポの曲が多い。フミネプロディースであるからして、アニソンの替え歌が多いのだ。文化侵略は着々と進行して行った。


「さあ、次は大一番ですわっ! 悪役聖女フミネ対勘当悪役令嬢アーテンバーニュの一戦ですわよ。刮目ですわ!」


 片や指をバキバキと鳴らしながら、片や愛用の槍をしごきながら、対峙する。宴会の余興のはずなのに、なんかこう、マジっぽい。村人にすら空気が伝わって、辺りはピリっとした雰囲気に包まれた。


「うおうりゃあああ!」


「そいやっさあ!」


 前者がアーテンバーニュ、後者がフミネの叫びである。ちなみにフミネはアーテンヴァーニュに対し、投げ技を敢行していた。芳蕗の技の幅を思い知るが良い。


「甘ぁい!」


 中空に浮かんだアーテンバーニュが、槍を地面にぶっ刺し、その上に立った。何と言うかこう、不必要な所作であるのだが。


「すげえ!」


「かっこいい!」


 観客のウケは最高だった。ふふんと胸を張るアーテンヴァーニュに対し、ぐぎぎとなるフミネがいる。そう来るかと、そういう戦いに持ち込むのならば、こちらにも考えはある。フミネが動く。


 地面に突き刺さった槍を、アーテンヴァーニュごと引っこ抜いた。当然アーテンヴァーニュは後ろに飛び退る。そこに対し、本気で槍をぶん投げるフミネであるが、相手はあっさりとそれを掴み取った。ここまでは織り込み済みだ。


「ちょいやあぁ」


 槍の後を追いかけるように深く低く踏み込んだフミネだが、相手はアーテンヴァーニュだ。織り込み済みとばかり、下段に槍の穂先が降ろされる。だが、すんででそれを躱し、頬から鮮血を流しながらフミネが繰り出したのは、左後ろ回し蹴りだ。しかも上段。完全に死角から降って来る踵が、アーテンヴァーニュの頭を掠った。それで十分だった。


「芳蕗が短打だけなわけ、ないでしょっ! もいっちょう!」


 回転の勢いをそのままに、今度は飛び上がっての右回し蹴り、こちらも頭を狙ったハイキックだ。アーテンヴァーニュが両手で槍を掲げガードはするが、それでも衝撃が通った。さらに言えば、槍を蹴った反動を使って、フミネは宙にいた。


「てんいむい!」


 その言葉は、芳蕗にて絶対。詰みと確信した時にだけ、発することが許される単語だ。


 落下してくるフミネに対し、アーテンヴァーニュはよろめきながらも、それでも顔面を槍でガードする。だがフミネの狙いは別の場所に変更された。どのように対応されても詰んでみせる。それが『てんいむい』なのだから。


「絡みつくんだよねぇ」


 フミネは頭を下にしたまま重力に任せ落下した。このままでは頭から地面に落ちると、観衆が幻視をするが、そうはならない。アーテンヴァーニュの腰には、フミネの脚が絡みつき、さらに両腕が足首を捉えて、そこで落下は止まっていた。


「どっこいしょお!」


 そしてそのまま、アーテンヴァーニュは俯せに組み伏せられ、足首を極められていた。



「負けだよ」


「よっしゃあ!」


 両者の声色が勝敗を表していた。


「くっそ、引き出し多いなあ」


「ヴァーニュこそ、ひとつの技を極めるって、怖いね」


 そんな両者のガチバトルに、村人たち並びにフィヨルトの連中が一応拍手を送っていた。かなり引いてはいたが。



 ◇◇◇



 余興はそれからも続いた。無難な組手、ソゥドをふんだんに使った雑技団のようなアクロバット、フィヨルト少年少女合唱団によるフォートラント並びにフィヨルト国家の斉唱、等々。


 村民たちは、フミネを始めとするフィヨルトの懐柔であることは分かっていた。分かっていたが楽しんでいた。これまで地方代官によって搾取されて来ていたのだ。それならば、フィヨルトの方がよっぽどマシだと、正直にそう思った。


「では最後に、今回のお祭りを提案して、実行に移した立役者をご紹介いたしますわ」


「ちょっ、フォルテ」


 日が落ちてしばらくがたち、子供たちがうつらうつらとし始めた頃、フォルテがフミネを引っ張り出した。


「ほらフミネ、ご挨拶ですわよ」


「……皆さん、今日はお集まりくださり、いえ、いきなり押しかけてごめんなさい。楽しんでいただけましたか?」


 おおおぉぉう!


 そうだ、楽しかったのだ。打算がそこにあったにしても、フィヨルトの連中は絶対に楽しませようと、ここにやって来てくれた。多分、歌も芸も一生懸命練習したのだろう。本来なら見ることも、触れることも許されない甲殻騎に、あまつさえ乗せてさえもくれた。


 端的に言えば、村人たちは絆された。フィヨルトの芸にではない。フィヨルトの本気に絆されたのだ。



「ありがとうござい、ます……」


 いつか、フミネは涙を流していた。


「企画して良かった。やって良かった。わたしたちは頑張りました。そして、皆さんがそれを受け止めてくれたから、こんなに楽しい場になったんだと、心からそう思います……。ごめんフォルテ、もうムリ」


「はい、交代ですわ」


 布で目を覆ったフミネが一歩下がり、代わりにフォルテが前に出た。


「よくもまあ、ウチのフミネを泣かせてくださいましたわね」


 何だかよく分からない言い掛かりに、一同はビビった。あれ? 良い話だったのでは。


「お見事ですわ!」


 手のひら返しにドン引きであるが、まあ、言いたいことは理解出来た。


「それでは今回のお祭りは、これでお開きですわ。また来年にご期待ですわ!」


 遥か遠方にいる国務卿の胃を破壊しそうなことを言って、祭りは終わった。



 ◇◇◇



「ごめん、本当にごめんなさい」


 翌日の朝、ケットリンテの台詞である。村長から徴税について説明を受けている途中、彼女もまた、昨日のフミネのように涙を流していた。有体に言って、搾取だった。ケットリンテはフィヨルタにいるはずの旧代官の粛清を本気で考えてしまった。


「えっと、ざっくりとですけど、3割は少なくなるはずです」


「はあっ!?」


 フミネの言葉に、村長は良い意味で腰を抜かした。


「まだまだ耕作地を広げる余地もあるし、森も近い。ここは発展しますよ」


「そ、そうですか。そうなんですか」


 村長もまた、涙を流していた。


「我々は心からフィヨルトに服属いたします。今後ともこの地の安寧をよろしくお願いいたします」


「賜りましたわ。ですが、依存はいけませんわ。わたくしたちと一緒に、あなたがたも努力を惜しんではいけませんわ。フィヨルトの同胞なのですから」


「は、はは、そうですな」



 こんなことを繰り返しながら『臨編フィヨルト慰撫宣伝部隊』は、フォートラントを練り歩き、ついでにフィヨルトの村々も訪問した。大きな街はまた今度の機会だ。



 そして、予定を越える2か月をかけてフィヨルタに戻った面々を出迎えたのは、怒れる国務卿であったとさ。



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