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第139話 国王ウォルトワズウィード・ヴルト・フォートラントの胸の内




 王は、ウォルトワズウィード・ヴルト・フォートラントは悔しかったのだ。


 彼は輝かしい道を約束され、それを歩いて来た。道中、フォルフィズフィーナという傲慢な女性との婚約もあったが、アリシアとの出会いもあり、それは一層な光を彼に与えてくれた。だが、そこから彼の想像しえなかった未来が始まった。



 次に出会った時のフォルフィズフィーナは、以前と同じ高飛車で、違う笑顔を浮かべていた。横にいたフミネ・フサフキと肩を並べ、堂々と、騎士の証をしかも特級を得て去って行った。


 その次に出会った時には、ライドが変化していた。あれだけ中央寄りであり、姉と王との結婚に反目していた彼だったが、真っすぐな目で姉を大公に立て、自分はそれを補佐すると明言したのだ。その目は真っすぐを向いていた。両親を喪ったことで変わったのかもしれない。だが、それ以上にフォルフィズフィーナとフミネ・フサフキの存在が大きく感じられた。


 気付けば、アーテンヴァーニュもケットリンテも、フォルフィズフィーナの傍にいた。あんないけ好かない女であるのに、彼女の周りには人が集まった。あまつさえ、アリシアさえも彼女を尊敬している節が見受けられた。心に黒い物が宿る。


 そして、戦争に敗れた。正面戦力を考慮すれば、5倍以上の戦力差で完膚なきまでに敗北した。彼の中で、何かが壊れた。



 ◇◇◇



「聞いているのか、陛下よ。いやウォルト!!」


「あ、いや、これは」


 広間にライドの罵声が響いているを思い出し、王、ウォルトは我に返った。そして、フィヨルトの逆鱗に触れてしまったことに、遅まきながら気が付いた。アリシアを引き合いに出され、自らの発言がフォルテの片翼をもぎ取る事を意味していることに戦慄した。


「待たれよ、大公弟殿! これは手違いなのだ」


 必死に宰相が取り成す。どこが手違いなのだろうか。


「どこが手違いなのだ?」


 カブっているが全くである。そこに横からため息が聞こえて来た。


「まったく、陛下もライドも、もう学院時代とは違うのですよ。このお二人はすぐにこうでしたから」


 シャラクトーンがインターセプトしてきた。これにはもう、周りも乗るしかない。


「ライド、謝罪を」


「……シャーラ」


「謝罪を」


「申し訳ございません、陛下。此度の件、私の首ひとつでご容赦を」


「いや、いいんだ。私も安易な事を言った」


 シャラクトーンの嗜めに、二人はある程度冷静さを取り戻すことが出来た。オカン状態である。



「ここでは何ですから、席を移しませんかな?」


 ハンカチで汗を拭う宰相が提案した。当然、全員が乗った。



 ◇◇◇



「もう一度申し上げます。申し訳ございませんでした、陛下」


「よい。私も間違っていた」


 なんと、ウォルトが謝った。場所は移って、最高格式の応接室である。だからこそ謝罪ができた。大広間で王が頭を下げるなど、出来るはずもない。


「そうなのだな、フミネ・フサフキはフォルフィズフィーナの翼、だったのだな」


「はい。見ているこちらが、羨ましくなるほどです」


「シャラクトーンの前でいう事か」


「……失言でした」


 そして、二人はふっと笑う。男の子であった。



「宰相。先ほどの条件で、1年の停戦合意だ。3国もよろしいか」


「フィヨルト全権大使として確約いたしましょう」


「ヴラトリア公国も同じです」


「サウスダート王国も見届けました」


 応接テーブルの上に革張りのバインダーに収められた外交文書が置かれ、4者が順にサインを入れていく。これにより、後に『第1次フォートラント騒乱』と呼ばれる戦争は、一応の終わりを告げた。



 ◇◇◇



「だが、ライド。時間はこちらの味方だぞ」


「そうでしょう。ですからこちらは、質で補うことになるでしょうね」


 調印の終わった後でのまったりとした空気の中、歓談が行われていた。


「この際だから、はっきりと言っておこう。我が治世でフォートラントは帝国化を目指す」


「承知しております」


「認めるか?」


「私からは何とも言えません」


 そもそも言質など与えるはずもない。


「ですが、姉である大公ならば、どう答えるか。まあご想像の通りでしょう」


「であろうな」


「しかも、独立独歩がフィヨルトの気風です。独立の経緯を鑑みれば当然かと」


「君もそう思うか?」


「以前までの私であれば、帝政化に賛成もしていたかもしれません。自治権さえ調整出来れば、利点も大きく思いますから」


「そうよな。どうも帝国化と言うと、中央による悪政が連想されるらしい」


 ちょっとメタいウォルトの発言であった。



 ◇◇◇



 その頃、噂をされていたフォルテは、別にくしゃみなどはしていなかった。


「それにしても、山を一つ越えただけで、文化は違うものですわ」


「そうだねえ。元は同じ国だったはずだけど、やっぱりフィヨルトは修羅っぽいしね」


「それは褒めているのですの?」


「個人的には褒めてるよ」


 あっけらかんと返すフミネに、フォルテは苦笑を見せる。こういうところが心地よいのだ。


「国境線なんて地図に書いてあるだけで、実際に歩めば乗り越えられると思っていましたわ」


 現在、フィヨルトを悩ませているのは、クロードラントの住民たちとの価値観の違いであった。ああ、例のボンクラ貴族は関係ない。あれは何処に差し出してもクズだった。


 以前にやって来た、ヴラトリア公国とクロードラントからの移民はまだ良かった。しっかりと希望者を募り、その上で言い含められた上で同意した者たちであったし、少数であるが故に朱に染まってくれたのだ。だが、今回は違う。


「一国2制度なんて御免ですわ」


「不平の温床以外の何物でもないね」


「当面はクロードラントにフィヨルト法を適用するけど、人的交流は最小限ですわね」


「フォルテらしくない消極的さだけど、仕方ないね。悪役令嬢会議やる?」


「シャーラが戻ってからですわ。こういうのは彼女が一番得意そうですわ」



 こんこんと扉がノックされた。


「どうぞ」


 フミネが即答する。誰だかは分かっていたからだ。


「お邪魔します」


 ケットリンテが入って来た。


「視察ご苦労様ですわ」


「ううん、こっちこそ迷惑かけて」


「気にしていませんわ、で、どうかしら」


「えっと、……森に逃げ出して4人行方不明」


 凄まじく言い難そうに、ケットリンテが目を逸らした


「野盗になれる根性も無いでしょうし、行方不明死として処理してくださいな」


「わかった」


 村に火を付けてしまいたい衝動に駆られながらも、ケットリンテが頷く。


「そんなことより、ケッテ」


 行方不明者をそんなことと言うフミネを、周りは当たり前に受け止めた。


「なに? フミネ」



 そうして悪役令嬢3人は、文化融和について頭を絞り始めるのだった。ああ、ちゃんと国務卿とかにも相談しているので、お忘れなく。



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