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第131話 手のひらの上の勝利




 フォルテとフミネが砦の外で戦っている頃、作戦は第2段階へ移行していた。


「門、開け!」


 第8騎士団副団長バァバリュウの掛け声と共に、フィヨルト側の門が開け放たれた。そこから満を持して登場したのは、第4、第6騎士団で構成された、フィヨルト混成6個中隊、52騎だった。100には到底及ばないが、フォルテのハッタリは、あながち嘘でもなかったのだ。むしろ嘘だと思わせる言い方こそが悪役令嬢の悪役たる神髄である。


「我らが騎士団長は最前線で戦っておられる」


「後になって、貴様らは何をしていたと言われてはたまらん。行くぞ!」


 第4と第6騎士団副団長が叫ぶ。



 勿論あえてここで増援を送り込んだことには意味がある。第4、第6騎士団は隊長騎を除き、スレイヤー型が配備されていないのだ。新型甲殻腱と背部にスラスターを装備はしているものの、簡易スレイヤー型でしかない。その名もジム・スレイヤー型。命名者は言うまでもないだろう。


「先に第8騎士団が掻き回してくれた。ここで遅れを取り返せ!」


「閣下が門を落としました。敵は混乱しています。各個撃破を狙ってください」


 第4騎士団副団長の言葉に、バァバリュウが被せる。


 最初から一緒に突撃していれば、如何に性能優位であろうと損耗が予想された。よって、無理は承知で第8騎士団プラスアルファで敵の壊乱を狙ったのだ。そしてそれは成功していた。


「地の利はこちらだ! 広場に出るな。路地で相手どれ!」


 この状況になると、数は利にならない。指揮系統はすでに寸断され、どこから出て来るか分からない敵に怯える戦いとなってしまった。



 ◇◇◇



「第8騎士団状況報告!」


 ある程度役割を終えたファインが、状況報告を要請した。


「第1中隊、大破1、中破2、騎士損耗なし!」


「第2中隊、大破2、中破2、騎士1名死亡……だよ」


「第3中隊は、大破2、中破1、1名死亡だね……」


 順に、バァバリュウ、アーテンバーニュ、フォルンである。スレイヤードライバーを2名失った。甲殻騎は直せる。新造だって出来る。だが人の命は戻ってこない。


「気を取り直せ! 5分休息。その後で、掃討に行くよ!」


 それでもファインは折れない。父母を失い、一度折れた心は強靭さを増していた。


「姉様たちは大丈夫かな?」


「大丈夫に決まっていますわ!」


 双子はここからは見えない門外に思いを馳せた。



 ◇◇◇



「ああ、あああ。何なんだ? 何なんだ貴様はぁ!?」


「あら、もう名乗ったはずですわ」


「そうではない! そういう意味ではない!」


「化け物扱い受けてるね。酷いなあ」


 ずいずいと連隊長騎にせまるオゥラ=メトシェイラに対し、放たれた言葉がこれだ。これには二人もお冠である。


「うおおぉぉ!」



 ばがあぁぁん!



「上官を守ろうとする気概や良しですわ」


 連隊長を守ろうと恐怖を振り払って飛び込んで来た護衛を、肘の一撃で核石を割ったフォルテが褒める。


「それに比べて、貴方はどうですの?」


「な、舐めるなああぁぁ!」



 ばぎゃぁん!



 馬鹿みたいに真っすぐ飛びかかって来た連隊長騎は、足元に潜り込んだオゥラ=メトシェイラに容易く左脚をもぎ取られた。穂先すら使わず関節技である。


「ねえ、連隊長ってこんななの?」


「連隊長になると、伯爵以上の格式が要求されるのがフォートラントですわ。王陛下の様に強い方が稀ですわね」


「格式ねえ」


 穂先で器用にキャノピーを剥がしながら二人は会話していた。周りは動けないでいる。



 だから隙が出来た。


 近くの森から10名の人影が現れ、連隊長と、その後ろに乗っていた騎士を奪い去っていったのだ。あまりに素早いその行動は、そういう訓練を受けた者であることを表していた。そしてさらに、その服装はと言えば。


「迷彩服!?」


「やられましたわ!」


 闖入者が着ていたのは、フミネの良く知る迷彩服に酷似していた。緑の濃淡を斑にした模様で、動き易さと隠ぺい性を重視しているのがよく分かった。


「第7連隊諸君、撤退せよ! 大公閣下は砦に戻るはずだ。後ろを向かず退け!!」


 人影が去って行った森の中から大声が響き渡った。


「ふぅ。やられた」


「やってくれますわね。聞いた通りですわ。手出しはしませんから、撤退なさいまし!!」


 フォルテもまた、同様に撤退を促す。


「そちらの連隊長さんは無事ですよ。あれはクロードラントです。攫われたんじゃなくて、救われたんですよ!!」


 答え合わせをしたのはフミネだった。


「こちらの負けですわ。撤退なさい!」


 そこまで言って、やっと第7連隊残存は撤退を開始した。とは言っても、隊列なぞ有りもしない遁走ではあったが。


「やってくれましたわね、ケットリンテぇ!!」


 フォルテの叫びが空に消えていった。



 ◇◇◇



 似たような現象は砦内でも起こっていた。どこから出て来たのか、100名以上もの森林迷彩服を着た兵士が、わらわらと現れ、擱座したフォートラント騎体から騎士たちを救出、搬送、撤退指示を出していったのだ。


「擱座した騎体に騎士が居ない? 隠れたとでもいうのか?」


 クーントルトが近くの騎士に問う。


「いえ、所属不明の兵士が騎士の救出、誘導を行っているようです」


「どこへ!?」


「それが、旧フォートラント側の城壁を目指しているようです」


「行き止まりだぞ?」


 首を傾げるクーントルトだったが、答えはすぐに出た。城壁付近の訓練場の一角に、穴が開いていたのだ。当然、甲殻騎が通れるサイズではない。だが、人間が逃げ出すには十分なものだった。



「それは、いざっていう時のために、予め用意していたってことだよね」


 クーントルトの報告に、ファインが首を傾げる。果たしてフォートラントがそんなことをするのだろうか。もしものため?


「奇妙な服を着ていたらしいよ。坊、お嬢、何か分かるかい?」


「……わかりましたわ!」


 フォルンが元気に発言した。


「ケッテですわ!」


「ああ、なるほど」


 思わずファインは納得してしまった。さすがはケットリンテ。彼は彼女への尊敬を新たにする。



 ◇◇◇



「道中を藪で覆って上から目隠ししたのか」


「うん。あと、見えにくい服も作った」


「それで最後に城壁の下に穴を」


「うん」


「そうか……」


 クロードラント侯爵は、娘の発想に愕然としていた。これではまるで、例の聖女の様ではないか。


 だがちがう。フミネのは地球からの持ち込みであるのに対し、ケットリンテはヒントこそあったものの、自ら考え出したのだ。例え消去法的であったとしても、それは彼女の才能を伺わせることに間違いない。


「そろそろ結果が出る頃だろうけど、どうなっているかな」


 と言いつつも、ケットリンテはフォルテとフミネが負けるなどとは思っていない。フォートラントがどういう負け方をするのかが重要であった。


「情報伝達が遅いのは、フィヨルトを知っちゃうとイライラするなあ」



 ケットリンテの心は既に、戦後の絵図を描く段階に進んでいた。



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