表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/180

第128話 口合戦とて負けるわけがない




「今までありがとう」


「こちらこそ、ありがとう」


 そして当日、ターロンズ砦駐屯部隊の部隊長同士の挨拶であった。思い返してみれば、3回目は空からスルーされてしまっていたが、それでも2回、フォルテたちが宴会を繰り広げ、両者は笑いあっていた。普段から、何度も顔を合わせた。それが今この瞬間を持って敵同士となる。


「では、お互いに」


「ああ。健闘を祈る」


 そうして両者は背を向けた。戦争が始まろうとしている。



 ◇◇◇



 フィヨルトとフォートラントの両駐屯部隊は即座に撤退した。戦闘部隊は別に存在しているからだ。ただ、フォートラント側は門扉を破壊し、フィヨルト側は逆に堅く門を閉じていた。両者の戦争目的の違いであった。もちろん、砦内の非戦闘員はすでに撤収を終えている。残されたのは無人の砦に吹く風のみだった。


 そこに事前に配置されていた、フォートラント第6、第7連隊が突入してきた。開け放たれた門を潜り粛々と隊形を展開していく。対するフィヨルト側には、動きが見られない。


「いいかぁ、予定通りだ。地図は頭に入っているだろう。持ち場に急げ!」


 連隊長が叫ぶ。その声に突き動かされて、甲殻騎の進軍は続く。およそ200騎が砦内に侵入しつつあった。



「さて、舞台は整いましたでしょうか?」


 そんな女性の声が響いたのは、フォートラント軍が砦の半分程度まで押し寄せた時だった。


 そうだ。我らの主人公の登場だ。


「準備は出来ましたかー!」


 妙にお気楽な声も届く。


 さらに『悪役聖女』のお出ました。



 いつの間にか、フィヨルト側の城壁の上に30騎程の甲殻騎が並んでいた。まるで、最初からそこにいたように、飄々と堂々と。


「まずはご挨拶をいたしましょう。わたくしはフォルフィズフィーナ=フィンランティア・フィンラント・フォート・フィヨルト。フィヨルト大公にして最強を名乗る者ですわ」


「わたしは、フミネ・フサフキ・ファノト・フィンラント! フォルテの片翼です」


 二人が名乗りを上げる。その勢いに敵軍が思わず聞き入ってしまっていた。だが、それに付け込むフィヨルトではない。そんな無粋な真似はフォルテが許さない。


「ふぅ、まったく。わたしの名は、クーントルト=フサフキ・ジェイン・トルネリア! 一応フィヨルトの軍務卿をやらせてもらっているよ!」


「リリースラーン・ジェイン・サーパス。第4騎士団長です」


「フォルフィズフィーナ様の槍、ラースローラ・ジェイン・シュッタートだ。第6騎士団長を拝命している」


 クーントルトを始めとして、続々とトップたちが名乗りを上げていく。とは言え、彼女たちは友情出演だ。第8騎士団だけでは示しがつかないと、強く強く立候補をしてこの場にいた。団長騎が単独で参加しているから始末に悪い。



「第1中隊長、バァバリュウ・ケルド・シャクドラ」


「第2中隊長、アーテンヴァーニュ・ササノ・サイゾゥだよっ!」


「第3中隊長、ファインヴェルヴィルト・ファイダ・フィンラント!!」


 第8騎士団の中隊長たちも名乗っていく。ファインがいるならば、当然フォルンもいるわけで、この場には、ライドを除くフィンラント家の4人が揃っていた。これがフィヨルトである。



 ◇◇◇



「名乗りはそれまでか! こちらは蛮族どもに名乗る名など持ってはいない。時代錯誤かっ。とっとと掛かってこい!!」


「あらあら、余裕のないことですわ」


 敵指揮官の煽りを、さらりと流すフォルテである。こういう会話になった時点で、フォルテとフミネの独壇場だ。相手は舞台に立ってしまっていた。


「ねえフミネ、こうやって数に任せてワラワラとやってくる甲殻騎の群れ、何かを思い出しますわ」


「ああ、アリンコとか、そういう?」


「まあっ、敵対する相手をアリ扱いとか酷いですわ」


「そっちが振ったんじゃない!」


 二人の煽りが始まった。



「黙れ黙れ! 騎士失格だったものを、たまたま左翼を見つけたからと、つけ上がるな!」


「……ちょっと、ムカっときましたわ」


「まあまあ、相手の隊長さんは、わたしたちが特級騎士だって知らないんでしょ。フォートラントの情報ってどうなっているのかな」


「仕方ありませんわね。ですがまあ、これからの戦いでそれははっきりするでしょう」


「貴様らあ!」


「落ち着け。言葉に踊らされるな」


 敵指揮官の同僚なのか、副官なのかは不明だが、そんな感じの人物が嗜めに入った。


「時間稼ぎでもしようというのかな?」


 そして彼もまた、舞台に上がってしまった。


「まさかまさか。フィヨルトに小出しにするような戦力はありませんわ。まったく、こちらの全戦力の同じくらいを引き連れて来て。下品としか言いようがありませんわ」


「なんでも情報だと、300騎くらい来てるんでしょ。10倍だよ10倍。クーントルトさんも何か言ってあげて」


「ふむ。10倍で負ければ、とんでもない恥になるねえ。そういう立場になる覚悟は出来ているのかな? 出世どころか、人生を棒に振りかねないよ」


 煽り担当にクーントルトも加わった。彼女の場合、素でイケるから怖い。


「たった30騎で戦うつもりか。確か第5世代だかを名乗っているようだが、驕ったか」


「あらまあ、こちらが30騎だけだといつ申し上げました?」


「先ほど小出しにする戦力など無いと、言ったではないか!」


 比較的冷静っぽい副官らしき人物と、煽りをモロに受け入れる指揮官が、それぞれ頭に血を登らせていく。


「さあ、どうでしょう。わたくしは悪役令嬢。もしかしたら城壁の背後に100騎くらい隠れていて、それを知った上で嘘を言っているかもしれませんわよ」


「戯言を!」



「大公閣下、いい加減にしようよ。口喧嘩もいいけど、時間の無駄じゃないかい?」


「クーントルトさん。口喧嘩は大切なんですよ」


「フミネ様、そりゃどういう?」


「まったく、かーちゃんの教えはどうなっているんだか。クーントルトさんだってフサフキなのに」


 フミネがため息をつき、最後の煽りにかかる。


「いいですか、会場にお集まりの皆さん。フサフキは全部で勝つんです。力でも速さでも技でも、心でも、頭でも。そして口先一つでも、勝つんです。全軍、心がけろ!!」


『了解!!』


「流石はフミネ、良い訓示ですわ。では皆さま、戦いのお時間ですわ。お覚悟はよろしいですわね?」


 フォルテの声色が変わる。獰猛な甲殻獣が笑みを浮かべるような、そのような姿が幻視出来る。あり得ないのに出来てしまう。



「では参りましょう。フィヨルト第8騎士団」


「それと愉快な仲間たち」


「出撃ですわ」


『ですわ!!』



 フィヨルト第8騎士団、すなわち『暴風の騎士団』が突撃を開始した。以後、フィヨルトの戦士たちの代名詞となる突撃の掛け声、『ですわ!』と共に。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ