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第127話 真っ当な宣戦布告




「動く、動く。とにかく動く! それが第5世代の真価だよ!」


 フミネの威勢の良い言葉が飛ぶ。ロンド村南の第8騎士団訓練場では、相も変わらず訓練が続いていた。当人としては『ムーヴィン、ムーヴィン』と叫びたいが、一応自重はしているようだ。


 ある程度第5世代に慣れて来た騎士たちに与えられた課題、それは規定動作だった。急加速、急制動、短距離跳躍、等々。大雑把に動くだけなら誰でもとは言わないが、出来るようにはなった。ならば次はと問われれば、緻密な動作である。



 そこでフミネは考えた。あれだ、斎藤フィールドアスレチック。自分を鍛えたあれこそが、騎士たちを育てるのだと。その話を聞いたフォルテを始め、第8騎士団の面々は訓練場にフィヨルト名物、丸太を多数、そして複雑に配置していった。


「記録更新ですわ!」


「よっしゃあ」


 砂時計で大雑把な計測であるが、オゥラ=メトシェイラがこれまでの記録を更新していた。とは言っても、2位から10位まで全部フォルテとフミネが叩きだしたタイムだ。昔のゲーセンで、ランキングの欄に同じ名前しか表示されていない、アレだった。容赦も手心もそこには無い。



「ドルヴァ砦の方も頑張っているのかなあ」


「あちらにはクーントルトも行った様ですし、きっと大丈夫ですわ」


 これらの訓練は完全に秘匿され、公都では行われていない。ドルヴァ砦とここ、ロンド村に出張をする形で持ち回りで実施されている。さらに言えば、ニンジャ部隊と飛空艇に関しては特に厳重な扱いを受けていて、現状ロンド村南部でしか訓練は行われていない状況だった。



 ◇◇◇



「迷彩ですか?」


「そうだよ、とにかく森と山で目立たない軍服を作って、なんなら2種類」


「はぁ」


 乗り気でなさそうな担当者を、メガネの下からケットリンテが睨む。この時代、迷彩の概念は薄い。むしろ、各国がそれぞれのイメージカラーとともに、紋章を高々と掲げ進軍するのが普通である。しかしケットリンテは聞いてしまっていたし、見ていた。フミネによってもたらされた迷彩の概念をである。空を行く飛空艇の下面は空色に塗られ、下から見上げればもはや区別がつかない。その効果を考察し、ケットリンテはこれが非常に有効であると判断していた。


「勝つためには、生き残るためには、なんだってやる」


 以前、甲殻騎と歩兵連携による効率的な甲殻獣への対応なんて論文を書いた彼女には、つど最適な戦法があるならば、名誉も誇りも後回しという革新的気質があった。


 もし、直前になってクロードラントが先鋒にされたなら、それ以前に第6、第7連隊が破れたならば、お鉢が回って来る可能性はある。ならばそれに備えなければいけない。


「今頃フォルテたちは、装備を整えて訓練を積んでいるはず。もしかしたらボクの知らない、新しい何かをフミネが思いついているかもしれない。真正面から甲殻騎でターロンズ砦を堕とせるわけがない」


 自室のソファーに座り、ブツブツと呟くケットリンテ。侍女は見て見ぬふりだ。


「甲殻騎では堕とせない。政治や策謀で出来れば最善だけど、相手がフォルテにライド様やシャーラが付いている。無理。なら……」


 人で堕とせばいい。


 ケットリンテの思考は続く。



 ◇◇◇



「相手は、ピョンピョンと飛び回る甲殻騎だ。速い上に、こちらの想定以上の運動をしてくるだろう。だが、それだけだ!」


 王都、ケースド=フォートラン近郊にある訓練施設では、王国第4、第6、第7連隊による合同訓練が行われていた。実に500騎近い甲殻騎たちが立ち並び、行軍や戦闘陣形などの確認が為されていく。


 フォートラントとフィヨルトでは当然ながら軍制が違う。集団戦闘を旨とする王国では、4騎で小隊、15騎で中隊、50騎で大隊、そして160騎で連隊という編成となっている。ちなみにフィヨルトの全戦力は第8騎士団まで含めても、27個中隊、300騎を越えない。これでも復旧した方なのだ。


「良いか、陣形だ。陣形を維持すれば寡兵など、圧殺することは容易い!」


 さながらファランクスを思い出させる陣形だ。数に任せてフィヨルトを舐めてかかっているわけではないらしい。甲殻についても重装甲を施し、大楯を装備するという念の入れようだった。



 ◇◇◇



 そして8月、麦刈りが始まる頃に、ついに最後の外交会談が行われた。


 ヴォルト=フィヨルタの応接室にて行われた会談には、フォートラント側から外交官3名、フィヨルトからは、フォルテ、ライド、外務卿が出席していた。


「残念ですが、物別れですわね」


「私も無念に思っております、閣下」


 フォートラント代表は、本当に悔しそうに言った。


「では、提示を」


「……こちらになります」


 外務卿の促しに、外交官が一通の封書を差し出す。これが最後の役割であった。すなわち、宣戦布告である。


 外務卿がそれを開封し、中を改めた後、フォルテに手渡す。そして、それにフォルテが目を通した。


「20日後、正午を持ってフォートラントはフィヨルトに宣戦を布告いたします。両者の健闘を祈るとの陛下からのお言葉です」


「かしこまりましたわ。陛下には良しなにお伝えくださいませ」


「賜りました。必ずや」


 文書の一番下にさらさらとサインをした女大公が、獰猛にほほ笑む。


「フィヨルトの戦士たちの戦いっぷり、直にお見せに出来ないのが残念ですわ」


 言下に、王自身は正面に出てこれないんだろう? と皮肉を述べた。


「閣下は、ご出陣なさるので?」


「当然ですわ。お約束いたしましょう。一番槍は当方の秘蔵っ子にやらせるとして、わたくしも最前線に立ちますわ。それがフィヨルトですわ」


「感銘を、述べさせていただきます」


 静かではあるのだ。だが、その心の内の激情は伝わってくる。フォートラント外交官は汗を拭う事すら出来ない。これがフィヨルトか。外交官は間違った道を選んでいるのではないかと、どうしても疑問に思ってしまっていた。


「それともうひとつ、421中隊ですわね。お帰りいただくしかないのでしょう」


「ええ、私から直接伝えましょう」


「ではお伝えください。貴方たちは立派に役目を果たしたと。彼らは立派に駐屯軍としての役割を全ういたしましたわ。わたくしからの感謝とそして今後の健闘を祈ると」


「勿体なきお言葉、必ずや伝えることをお約束いたします」


 外交官は震えた。ここまで評価された駐屯軍と、そして宣戦布告をされたばかりだというのに、平然と相手を称えることのできる大公に。



「では、お互いに戦の準備ですわ! そちらから仕掛けて来たのですよ? 今更になって許しを乞うても遅いですわ。やるからには勝たせていただきますわ!」



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