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第124話 どうしても難癖を付けたいわけだ




「招待状? 誰からですの?」


「それが、その、陛下からでございます」


「逃げ帰るつもりでしたのに」


 家令の差し出した封筒を手に、フォルテはため息をついた。そして乱暴に開く。格式なぞ知ったことかといった風情であった。



「わたくしとフミネをご招待ですわ」


「召喚?」


「まあ、そうですわね」


「何だと思う?」


「さてはて」


 フォルテとフミネが顔を見合わせて、口調とは裏腹に苦い表情を見せた。ああ、面倒くさいことになりそうだ。



 ◇◇◇



「急な呼び出しに応じてもらい、感謝をしている。また、大層立派な贈答品にも」


「陛下にお声を戴き、感動しておりますわ」


「先日の無礼な行いをお詫びいたします」


 それを示すかの様に、二人は軍装のまま会談に訪れた。


「やめよう。この場はまあ、ぞろぞろと護衛はいるが私的な懇談だと思ってもらいたい」


「感謝いたしますわ」


「ありがとうございます」


 宰相と護衛騎士を10人も引き連れて、なにが私的なのだろう? スンとフォルテが鼻を鳴らす。


 談話室というか応接室というかは、フィヨルトと違い豪奢だった。が、嫌味を感じない。ここらへんはそこらの田舎貴族とはわけが違うのだろう。王族という存在を感じさせられる。フォルテは平然としているが、フミネは中々に気圧されていた。


「アリシアの事をどう思っている?」


 それは唐突な質問だった。王の顔は優れない。まるで怯えているかのようだ。


「わたしは、1度しか対面していないので、なんとも」


「それではわたくしですわね。正直にはっきりと言いますわ」


 フミネは遠慮し、フォルテは突撃した。


「王妃陛下はわたくしと違い、真っすぐで、素敵な方ですわ」


「フォルテ、あんただって真っすぐじゃない」


「いいのですわ、フミネ。繰り返しますわ陛下、アリシア陛下は素晴らしいお方だと、わたくしが断言致しますわ。陛下にはもったいないくらいですわ」


 モロに不敬な発言であるが、周りは動かない。フォルテとフミネのソゥドがそれを許さない。


「ではなぜそのような圧を放つのだ?」


「話の続きを言わせていただくためですわ。そして約束したからですわ」


「約束?」


「ええ、どのような形であれ、決着をつけると」


「いつの間にそのようなことを」


「強者同士は、目で語り合う事が出来るのですわ」


 王はフォルテの表情を覗き込む、そして彼女が大マジであることを知った。故にため息をつく。


「そうか……、アリシアは君にそう思われていたのか」



 ◇◇◇



「陛下、そろそろ本題を」


 宰相がせかした。フォルテとフミネとて分かっている。アリシアについての個人的な話題に、宰相が立ち会う必要などないのだ。


「どうぞ、なんでもおっしゃってくださいまし」


「では」


 フォルテの堂々とした言葉に、こちらもとばかりに宰相が噛みつく。


「フィヨルトには利敵行為の疑惑がありますな」


「身に覚えに無いことを言われましても、返答に窮しますわ」


「先のドルヴァ紛争。最後の戦いに置いて、意図的に敵を逃がしたと、我々は判断しているのです」


「なるほど。とても大きな誤解ですわね」


 宰相の追求にフォルテは全く動じていない。むしろそれがフィヨルトに利がある行為とすら言い放つ。


「天秤ですわ。左右どちらに傾いても、大事を招き、大きな誤算を生みかねませんわ。だから、心だけをへし折って、装備がありながらも二度とフィヨルトに近づく気にもならない様、対処したまでのことですわ」


「しかしその時、完膚なきまでに叩き潰せば、後顧の憂いは絶たれたのでは?」


「これは異なことを。フォートラントは、本気でヴァークロートとの全面戦争を望んでいたともでも。南のフィヨルトに叩きのめされたヴァークロートが向かうは東。自棄になった彼らが、何を考えてしまうのか、わたくしは判断付きかねたため、此度の処置を行いましたわ」


 フォルテのソゥドが膨れ上がる。


「わたくしとフミネの父母の恩讐を抑え込んで!」


 まるで部屋に暴風が吹き荒れたかのようだった。フミネもフォルテに合せる。王陛下がなんだ、宰相がなんだ、その後ろにいる10人の近衛が何だというのだ。



「落ち着け」


 王が一喝した。


「確かに、大公の言う事に理が無いわけではない。しかしだ、我が国に対する北西戦線が厚みを増したことも、また事実なのだ」


「士気におかれましては?」


「現場判断としか言いようが無いな。そこでだ、フィヨルト側からつついては貰えなだろうか」


「……その間に、王国が我が領土を侵犯しないとお約束していただけるならば、考えも致しますわ。ですがわたくしどもは、北の領地を欲してはいませんわ」


 フォルテから発せられたのは、連邦への明らかな不信と、国策の違いであった。


「弱敵を敢えて逃がし、その上で連邦の方針に従えないと、そうおっしゃるわけですな」


「大変な勘違いですわ、宰相殿。我らにはヴァークロートに攻め込む力はございませんわ。フィヨルトは、我が領土を維持するのに精一杯に戦う、戦士たちの国ですわ」



 ◇◇◇



「平行線であろうな」


 王が討論を打ち切った。


「だが、フィヨルトに利があろうとも、連邦北西戦線に負担をかけたという事実は覆されぬ。それだけは心にせよ」


「弱小国家の身の上、申し訳なく思いますわ」


 これまで静かにしていたフミネは、なるほどと思う。これは大義名分だ。最初から作られていて、押し通すための会談だ。こいつらは、フィヨルトを潰すなり、併合するなり、何かやらかすつもりなんだ。



「大公義姉殿は何かありますかな?」


 フミネの表情を読んだ宰相が言う。


「なにも。但し言っておきますね。わたしは異界から渡って来た所謂『聖女』です。しかも自称『悪役聖女』です。殴りかからればカウンターをぶち込み、相手を叩きのめす覚悟はキマっていますよ」


「かうんたー?」


「その意味を知る時には、世界はどうなっているんでしょうね。楽しみで仕方ありません」


 フミネのその言葉の圧に、宰相が一歩後ずさる。


「わたしが締めるのもアレですが、最後に一言だけ。わたしとフォルテを甘く見ていると、酷い目に会いますよ」



 そうして、会談だか圧迫面接だか、良く分からない会談は終わった。これはまあ、決裂なのであろう。



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