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第110話 服属成功




「フィヨルト傘下になるまでには、まだ猶予がありますわ。そうですわね、2週間。これからの2週間のわたくしたちを見て判断してくださいまし!」


 宴会の最後を締めくくったフォルテの言葉であった。



 翌日から3日。3騎の甲殻騎は村近隣の甲殻獣を狩りまくった。さらに4日かけて、村の周りの木を伐採しまくった。さらに1週間、3つの村のまわりに柵を作った。伐採した後の土地は、歩兵たちが総出で耕そうとして、フミネがちょっと待ったをかけた。代わりに歩兵たちは地引網の方と、塩田の拡張に回り、なんだかんだで塩田を5倍にしてしまった。


 結果としてつまり、一応甲殻獣の危機は去り、村々は柵に囲まれ、塩田が拡張され、広大な草地が出来上がったと、そういうわけだ。


「この結果に異論反論、ある方は申し出てくださいませ」


 フォルテが堂々と村人たちに言った。どうしろと。


「傘下となれば、ここはフィヨルトが守護するべき土地となりますわ。1個小隊を常駐させますわ。氾濫でもない限りはまず大丈夫でしょう」


「当面は物々交換になるでしょうけど、こちらが必要とするのは塩と干物、後は魚醤と昆布です! 提供できるのは小麦や酒なんかでしょうか、甲殻素材も出せると思います」


 フォルテとフミネが良いことばかりを言って懐柔を計る。だが、それだけではダメだ。


「当面、税に該当する物は考えていませんが。ですが、ひとつ」


 来たかと、村人たちが身構える。


「フィヨルトは戦士を必要としていますわ。正直に申しましょう。先日、北方の国、ヴァークロートが侵攻してきましたわ。完膚なきまでに叩き潰しましたが、こちらも少なくない数の兵を失いましたわ」


「それを俺たちで補いたいってことかなぁ」


 ゴパッドが言った。


「だったら、俺は行くぜぇ。あんたらの所行ったら、もっと強くなれるんだろう?」


「まだその時ではありませんわ」


 ぴしゃりとフォルテが返す。


「わたくしたちと交代で、わたくしが動かせる、飛び切りの強者を送りますわ。まずはこの村で学んでくださいまし」


「い、いいのかよぉ、それじゃああんたらに得が」


「ありますわ。一つは将来への投資。もうひとつは、さきほどフミネがさらりと言いましたけど、塩ですわ!」


「やっぱり言っちゃうのかあ」


 フミネがぼやく。



 ◇◇◇



 実はフィヨルトでは塩が取れない。ごく少量の岩塩はあるのだが、とても供給が追い付いていないのだ。言うまでも無く塩は最大の戦略物資の一つだ。フィヨルトはそれを輸入に頼る形になっている。あからさまな連邦に対する弱みでもある。そして連邦側から送られてきている塩の原産国がどこかと言えば、連邦南部の海に面する国、すなわちサウタード王国である。


「そういうわけで、わたくしたちは塩を欲しているのですわ。そして、この村に目を付けた。服属を求めたくなるのも当然という事ですわ」


 村人たちにも理解が及び始めた。自分たちが強力なカードを持っているということを。それを安売りして良いのか、とも。だが、相手はあれほどの強さを持つ国だ。逆らう事など出来る訳も無い。


「そこで皆さんに朗報ですわ。フィヨルトがこの村から塩を得られるようになれば、輸入量を減らすことが出来ますわ。さて、それで損をするのは何処の国かしら?」


 答えは一つ、サウタード王国だ。村人の先祖を罪人として流刑に処した国。


「中には、政治犯、思想犯までもがいたそうですわ。とは言え建前で、政敵の隙を暴いてでっち上げて、そうしたのでしょうね。みなさん、どう思われます?」


「……ふふふ、あははははは!!」


 笑い出したのは村長さんだった。つられて他の村人たちも笑いだす。意味も分からないが子供たちまでもが。そしてフィヨルト側の人間も笑う。



「いや、感服いたしました。見事な飴と鞭。われらはフィヨルトに服属いたします」


 3つの村の村長が首を垂れた。周りの村人たちも同様にする。


「面を上げてくださいまし! わたくしの治世に加わると言うならば、もう安穏とした生活とは決別してもらいますわ! ここにある3つの村が連なり、ひとつの街となり、繁栄を謳歌するまで働いてもらいますわ!! おほほほほっ!!」



 ◇◇◇



「あの土地だと小麦は無理かもね。むしろ放牧地にしたほうがいい」


 帰り道で、フミネは自分の考えを説明していた。どうしたって、潮風はきつい。だから耕すのを止めたのだ。ちなみに草は刈るなと伝えてある。


「牧畜だよ。馬とか牛とかを育てよう。ああ、甲殻猪とかもいいかも」


 思い立ったフミネが頭を回転させ始める。


「そうなると人員ですわね?」


「うん、人が足りない。回せる人員っている?」


「あの村は大きくなりますわ。少しづつ回したところでどうなるか。育成施設の農業要員を少し回すので手一杯ですわね」


「あとは『金の天秤団』くらいかあ」


 フィヨルトには、定番となるスラムとか孤児院は無い。強いて言えば、親を亡くした子供たちを育てるために、公立の育成施設があるわけだが、半分は軍に、もう半分は農業系に流れるパターンになっているのだ。『金の天秤団』に所属している者も、育成施設に多い。


「フォートラントからの引き抜きは無理だね。ヴァーニュの件もあるし。ああ、村におくるのって、ヴァーニュなんでしょ?」


「ええ、あとは、ファインとフォルンもですわ」


「いいの?」


「あの子たちには、戦と関係のない所で、力を付けてもらいたいのですわ。それに海も見せてあげたいですわ」



 両親を喪った双子は、当初酷いものだった。ファインはただ泣き、フォルンは自分の力の無さをなじった。12歳の子供が戦場で知ったことは、あまりに過酷な現実だった。だからフミネも『悪役令嬢の会』に参加させたり、色々と気を回していたのだが、次があればどうなるか。


「『天秤団』から年の近い子たちを何人か着けましょう。ヒューレンくんもいますわ」


「そうだね、それもいいかもね。説得はフォルテがやってね」


「手こずりそうですわ」



 フォルテはため息をついた。



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