スターフィッシュ
都市伝説をテーマにした短篇だよ!
「ゆっきー。 【ミドリさん】って知ってるか」
「え? 何ですか柿原さん」
イベントスペースの会場の受付。既に会場では同窓会は始まっており、主催者側に代わり受付をしている暇そうな男女スタッフが会話をしていた。
「あーそうかゆっきーはまだ入ったばっかだし知らないか。【ミドリさん】ってのはな、まあこのイベントスペースにまつわる噂、都市伝説みたいなもん」
「初めて聞きました」
男は少し声のトーンを落とす。
「昔な、とある高校の卒業生がここで同窓会をやったんだ。丁度二十歳になってお酒を飲めるようになってからな。その時に受付をしていたスタッフが妙な事に気付いたんだ。聞いていた人数より、一名多かったんだよ」
「よくあることじゃないですか。どうせ主催者側の数え間違いか、飛び入り参加とか」
「そう。よくあることなんだ。でもな、名簿を見ると、全員が来ている。飛び入り参加も無しだ。なのに一人多い」
「え、まってそれ怖い」
「そう。それを伝えたら主催者側は酔っていたせいか面白がって、点呼をしたんだ。名簿を見ながらね。全員を一箇所に集めて、呼ばれたら移動する。そんなゲーム」
「それで?」
「ああ、それでな。つぎつぎに点呼していったわけだ。そうすると、一人残った。名簿に載っていない誰かが」
「幽霊!?」
「それは一人の女性だったんだ。さっきまでみんなと喋っていた女性。当時のクラスの話をみんなとしていた女性。そこで、ようやく、みんなが思い出したんだよ。“そういえばクラスで卒業前に事故死した子いたね”と」
「その子だ!」
「そうすると、その子は、急に、血みどろになって、首がぽろりと取れたんだ!」
「うへーきもー」
「そして、思い出してくれてありがとうと言って消えたそうだ。その子の名前が【ミドリ】だったんだ」
「ミドリ?」
聞き返した女に男がにやりと笑った。
「さて、ここからが、本番だよ。いつからかな、こういう噂が広まりはじめたんだよ。ミドリって名前の人がこのイベントスペースに来ると不幸になるらしいって。ゆっきー、吉田先輩のこと知ってるだろ?」
「ああ突然辞めた人ですよね。わたしが入ってすぐ。確か奥さんが入院したとか」
「そう、その奥さんは吉田先輩の勧めで、ここで同窓会を開いたそうなんだ。そしてその同窓会の直後に、交通事故にあったとか」
「もしかして」
「奥さんの名前は翠っていうらしい」
「うそ……」
二人が今日の同窓会の名簿を覗く。そしてその後ようやく、誰かが急いで階段を上がってきていた事に気付いた。
「すみません、遅れました!」
息を切らすその人物が招待状を差し出した。
記載されている名前を見て、二人は驚愕し、声を出すのを抑えるのに必死だった。
そこに書かれていた名は――
☆☆
あーあ馬鹿みたいだ。
入ったことのないお店で勧められるままに買った薄緑色のVネックワンピース。初めて履いた高いヒールのパンプス。馬鹿高い美容院での髪のセットとメイク。その全てが、あたしの欺瞞のようでヘドが出る。何を期待しているんだあたし、何を求めているんだあたし。たかが同窓会だ。
自己嫌悪が吐き捨てられたガムのようにしつこく張り付き、あたしを苛立たさせる。先程までいた美容院の鏡に映っていたあたしは、確かに綺麗だった。もう二十五歳だというのに、化粧もろくにしてこなかったあたしは素直に感動したのだった。おお、すごい、と。
こんな格好でいけばクラスの連中はさぞかし驚くと思う。高校の時のあだ名を思い出す。女番長、漢女……別段気にしてはいなかった。周りが化粧やオシャレに気を遣う中、あたしはめんどくさいという理由だけで、髪はショートカットにしていた。バレー部にいたせいもあったと思う。さすがに卒業してからは伸ばしていた。そんな風に無造作に伸ばし、自分でてきとうに切っていた黒髪は綺麗に整えられ、ふんわりとソフトクリームみたいにカーブを描いていた。
「髪も肌も綺麗で羨ましいですよー。ケアを丁寧にされている証拠ですね」
そんな御世辞を美容師は言っていたが、肌も髪も遺伝による要素がほとんどだ。あたしの努力なんてこれっぽっちもない。こんな捻くれた性格だからだろう、大学に進学せず就職する道を選んだあたしの周りに友人なんて誰も残らなかった。そこで初めてあたしは思い出した。文芸部の彼女たちは元気だろうか? バレー部だったあたしは彼女達と直接の接点はなかったが、クラスの上位層の女子達から軽いいじめを受けていると知ってから、仲良くするようになった。そうすると、あたしを恐れてか彼女へのいじめは止まった。
あれだけ仲良かったのに今の今まで彼女たちの事を思い出さなかった薄情な自分。正義の味方ごっこをしていた自分に酔っていただけで、それが終わってしまえばもう用無しとばかりにあたしは彼女達を忘れたんだ。
あたしはそんな醜い自分をせせり笑いながら夕暮れの大通りを歩く。ときおり、ふんわりと香るのは生まれてはじめて付けた香水だろう。どこか異国感を感じる甘い香りだが、今はそれがなんだか胸をムカムカさせる。
あたしはヒールで歩くのには慣れていない為、この人通りの多い道をぶつからないように歩くので精一杯だった。背が高いのも相まってまるでキリンみたいな歩き方。慎重に一歩ずつ足を繰り出すその姿は滑稽そのものだろう。あたしは急に周りの視線が怖くなった。動物園のガラスの檻に入っているような錯覚。ざわめきが嘲笑に聞こえる。慌てて目線を左手首に付けている時計へと移した。時計の針はまるで見ていたかのようにぴったり午後5時を知らせている。同窓会は7時から。あたしが浮足立っているのが分かりやすく表れている、この二時間の誤差。
大通りが嫌であたしは細い路地裏へと入っていった。路地裏に入ったすぐ横には、立ち呑み屋があった。既に顔を真っ赤にしたおじさんたちがこちらを舐めるように見つめていた。嫌悪感が肌を粟立たせ、あたしはいそいそとその前を通り過ぎた。見るな、見るな、見るな。
高校生の時は無敵だった。誰にも負ける気がしなかった。だけど、高校を出て社会に出た小娘を待っていたのは非情な世界だった。周りが大学生という華やかな世界で輝いている中、あたしは泥のような場所で犬のように働いた。次第に自分が歪んでいくのが分かる。もう、嫌だった。次第にあたしは、息を潜めるようになった。
見られない事には慣れていった。無視されるのが心地よかった。干渉されないのが救いだった。
なのに、あたしは。
路地裏を進む。小料理屋やスナックなどが並んでおり、横を通り過ぎる。行く宛なんてない。もう同窓会に行く気は既になくなっていた。ただ、一秒でも自分のいる空間から逃げたかった。泣きそうになりながら進むあたしの横目に、何かが映った。それはなんだか棘のようにちくりとあたしの心のどこかを一瞬刺して消えた。
足を止める。
路地裏の壁に、ぽっかりと穴が空いたような暗い通路があった。入口には鉄格子の門が付いており、まるで歓迎するかのように開いていた。門の上に古めかしいランプが一つ揺れている。
「なんだろ……」
奥を覗くも、暗く見えない。看板も表札も何もない。あたしは周りを見渡すも、やはりこの奥についての事は何も得られなかった。あたしはもう一度時計を見るも長針は少ししか進んでいない。門の上のランプが怪しく光る。
あたしは、その門へと一歩踏み出した。
人が一人通るのがやっとの通路が奥に続いている
あたしの頭上のランプだけが柔らかい光を放っており、ゆらゆらとあたしの影が揺れていた。
通路の奥へと足を進める。
先程までいた位置のランプが消え、今度は頭上のランプが点灯する。
あたしは少し楽しくなり足が軽くなるのを感じた。まるでスポットライトみたいにあたしを照らすランプ。
どれぐらい進んだだろうか?数十メートルのような気がするし、実際は数メートルほどかもしれない。
あたしの前に大きな木造の扉が表れた。扉の上には小さな豆ランプが付いている。後ろを振り向く。通路の入口が遠くで光っている。
再び扉を見た。扉の横に小さな看板があった。そこにはこう記載されていた。
【Bar “夜の底”】、と。
☆☆
ゆっくりとあたしは扉を開けた。途端に扉の隙間から濃密な闇が溢れ出す錯覚。スカートの裾がふわりと揺れた。
「えっと、あいてますか?」
扉をくぐり、あたしは控えめにそう声を発した。店内は暗く、何も見えない。足元にはなんだかさらさらとした砂のような物が撒かれている。不思議な空間だった。少しひんやりと冷たいが決して嫌な感じはしない。控えめに鳴るオーボエの悲しいメロディと木管の音。
その音楽と共鳴するように、低い男性の声があたしの耳に届いた。
「いらっしゃいませ……どうぞこちらへ」
あたしは声の方へと振り向く。その瞬間、目線の先に小さな光がついた。イルカのガラス細工が施されたランプシェードの灯り。それは木製のカウンターの上に置いてあり、その辺り一帯を優しく表現していた。アンティーク調のふかふかとした椅子が座りやすいようにと、引かれてある。あたしは迷うことなく、そこへと座る。足元のさらさらとした砂の感覚が心地よい。
あたしが座ると、目の前の暗い空間から白い腕が伸びてきた。手にはおしぼりを持っており、あたしはそれを受け取った。ツヤツヤとした古そうな木目の上にコースターが置かれた。白く、丸いコースター。
カウンターの向こうはいくら目を凝らしても何も見えない。ただ、誰かがいることは分かる。
「どう、いたしましょう?」
低い声が耳を撫でる。ここでようやくあたしは、何を頼んだら良いか分からない事に気付いた。こんな雰囲気のお店は初めてだった。
「すみません、初めて来たのですが何をどう頼めば良いでしょうか?」
素直にそう聞いた。わからないことは素直に聞けばいい。それが多分唯一あたしが持つ美点だろう。
「これから、お出かけですね? 軽い物にしましょう。軽いけども、しっかりと貴女を繋ぎ留める物を。しばし、おまちを」
繋ぎ留める? 何の事だろうか。あたしは疑問に思いつつ、口には出さなかった。そういうものなんだろうとなぜか納得していた。目の前から男性の気配が消える。氷を割る涼しげな音が空間で揺れる。あたしはすっと上を見上げた。
そこには、星空があった。
ときおり、何かが線を描くように光り、消える。ここは、室内だ。プラネタリウムか何かだろうか? それにしては、あまりにその星空は綺麗過ぎた。
星空に見惚れていたあたしの前のコースターの上に、透明なグラスが置かれた。グラスには夕陽が入っていた。氷と夕焼けのような液体がシュワシュワと泡立っている。
「スプモーニです。どうぞ……」
あたしは、お礼を言い、グラスへと手を伸ばした。ひんやりと冷たいグラス。口元へと持っていくと、柑橘系の匂いとハーブの香りが鼻をくすぐる。炭酸の弾ける感触が口の中へと流れ込む。甘味と酸味と苦味がバランス良く舌の上で炭酸と共に弾け、微かなアルコールの香りとの不思議な調和が行われていた。柑橘の爽やかさと薬草の苦みが一瞬頭を混乱させるけど、それは次第に混ざり合い、喉へと落ちていく。これまで飲んだ事のない味。
「美味しい……」
「ありがとうございます。ゆっくりと、お楽しみください」
わたしはスプモーニという名の響きが気に入った。スプモーニ。可愛らしいけど、何か意志を感じる名。富岡みどりなんていう何の意味も意志もない自分の名前に辟易していたあたしは、少し嫉妬した。再び星空を見上げた。とても綺麗だ。
「あの、なぜあの天井は星空になっているのでしょうか?」
あたしは、自分の前から少し横にずれて立っている男性にそう話しかけた。
「ここは、【夜の底】。上を見れば、当然星空があります」
「夜の底。そうですね」
そう、ここは夜の底なんだ。なんてあたしに相応しい場所なんだろうか、光ろうとも光れず、あの、星空みたいにキラキラした場所に行けず、ただ底で星に憧れ、格好だけを模倣したヒトデ。
このワンピースも、ヒールも、髪も、メイクも、全部紛い物だ。
男性の低い声が響く。
「今日はどちらへ?」
「本当は同窓会だったんです。だからガラにもない格好をしていたんですよ。でもなんだか馬鹿らしくなって」
「星もヒトデも、星には変わりません。貴女は、貴女らしくしていればいい」
「でも、あんな風には光れない」
「見える物が光る物が、全てではありませんよ」
男性の声は低く遠い。まるであの星空の彼方から呼び掛けてきているようだ。不思議とあたしは自分の気持ちと向き合えていた。
「同窓会で会いたい人がいるんです。来るかもわからない、会ってもあたしの事を覚えているかもわからない。なのにこんなに着飾って」
「とても、お似合いですよ」
「……ありがとうございます」
あたしは素直に男性の言葉を受け入れられていた。その男性の言葉に嘘はないように思えた。
「彼は、わたしが高校一年生の時の転校生でした。たまたまあたしはその日が日直で、彼のお世話役になったんです。背が低くて、人懐っこい子だったんですぐに打ち解けました。多分、あたしは好きだったんです、彼が。でも彼は来てから一年も経たないうちに海外へと転校しました。それ以降あっていません。そんなだから今日は来るかわからない。来ても、ただ一方的にあたしが見ていただけなんです。きっと覚えていない。あの頃のあたしはもう、いないんです」
一息ついて、あたしはスプモーニを飲んだ。少し炭酸が抜け、柔らかい味に変化している。
「きっと、来ます。そして覚えていますよ」
「なぜ?」
「ここは何か想いを――重い物を心に抱えた人のみが辿り着ける、夜の底です。軽い物は浮いてしまう。輝く術を知っている者は勝手に飛んでいくでしょう。でも貴方は違う。ですが、もう心配いりません」
なぜだろう。顔も見えないのに、その男性が微笑んでいるのが分かった。
「貴女がここを出る頃には、その内に秘める想いだけを持って、いらぬ重い荷物はここに残していくでしょう」
「そうかも、しれませんね。なんだか、軽くなった気がします」
頭上を見上げる。あの遠かった星空が随分と近いように思えた。
☆☆☆
すっかり辺りは暗くなっていた。時計を見ると、7時を少し過ぎていた。
あたしはあの不思議なお店を出たあと、たまたまあった靴屋に飛び込み、スニーカーを買って履き替えていた。なんだかこのワンピースも馬鹿みたいだ。量販店でジーパンとTシャツを買い、トイレで着替える。髪とメイクはどうしようもない。でも、なんだかあたしの顔は数倍綺麗に見えた。
ワンピースや靴を駅のロッカーに突っ込むと、あたしは急いで同窓会の会場へと向かった。会場はイベントスペースのようで、受付はニ階だった。急いで階段を登る。受付で暇そうにしている二人組に招待状を差し出した。二人はなぜか驚いたような顔をしていた。まあこんな格好だ。仕方ないだろう。
「あ、えっと!【富岡みどり】さんですね!どうぞ、もう始まっています」
「ありがとうございます」
あたしは名札を書き、胸に付けると受付の横を抜けた。後ろでヒソヒソと話しているのが聞こえるが気にしない。もうそういうのは置いてきたんだ。
会場は賑やかだった。普段とは違う、気合の入った格好をした男女が酒を飲みながら騒いでいる。入口近くにいた集団がこちらへと視線を向ける。
「ん? えらい美人が来たぞ」
「あんな子いたっけ」
「藤原さんじゃない?」
「藤原は向こうで戸田に口説かれてるじゃん」
そんなことを喋っている男女の集団にあたしはニコリと笑みを返し、横を通り過ぎた。
「あれ、バレー部の富岡じゃね?」
「富岡……? 嘘だろ?」
「うそ……女番長あんなんだっけ」
後ろのざわめきを無視する。あたしはカウンターへ向かうと、飲み物を注文した。キツイやつが欲しい、そう言うとテキーラがショットグラスに注がれた。あたしは、それを一気に飲み干す。アルコールの熱が喉から胸へと落ちる。驚いた顔のスタッフがあたしが何か言う前にもう一杯テキーラを注ぐ。
ショットグラスを持ったまま、あたしは大股で会場を横切る。目線の先には四人の女の子。肩身狭そうに端っこで縮こまっている。ああ、思い出す。あの当時もそうだったっけ。文化祭か何かの準備で、わざと何も仕事を振り分けず、放置されていた四人。あたしはそういう陰湿ないじめが嫌で、彼女達を庇うようになって、自然と仲良くなった。今考えれば青臭い正義感だ。
周りの視線があたしに注がれる。てきとうに手を振る。みんなあいつ誰だという顔をしていて傑作だった。
「久しぶり!」
あたしが目の前で怯えている四人に声をかけた。その表情があたしの名札を見た途端、変わる。
「え、え、うそ、みどりちゃん?」
「みどりちゃん! 元気だった!?」
「みどりちゃーーーん!」
「まさか来るとは……みどりん!」
文芸部の四人が昔と変わらずあたしに抱きついてきた。ああ懐かしい。そうだそうだあの時もそうだった。父が死に、しばらく学校を休んで久々に会った時もこんな感じだったな。一番心配し、慰めてくれたのは彼女達だった。
「みどりちゃん、めちゃくちゃ美人! なに? 整形?」
「化粧でしょ」
「そもそもうちらの中で一番素が良かったし」
「なんでジーパンTシャツ?」
「あたしのこの格好には事情があるんだってっば」
そんな感じに騒いでると、なぜか男子共が集まってきた。
「おい、まじで富岡か? 双子の妹とかじゃねえよな?」
「嘘だろ、あの男女がどんな魔法だよ。というか今どこ勤め?」
「連絡交換しようぜ」
「彼氏は?」
あたしがそいつらを追い払うと再び、文芸部の四人と話した。まるで、あの頃に戻ったみたいだった。
でも、あたしはどこか上の空だった。あたしはさりげなく会場を見渡した。
彼は、来ているのだろうか。
「ねえ。今日ってさ、見取君、来てる?」
「見取君? 誰だっけ」
「あーあの転校生君。みどりちゃん仲良かったもんね」
「そういえば見てないなあ」
やはり来ていないか。がっかりしている自分とほっとしている自分が両方存在し、なんとなく握手をしていた。
それから色々な人と話した。皆、あたしの豹変っぷりに驚いていた。まあ確かに当時は髪の毛も短くしており、男っぽい印象を与えていた。そうしてもう時間が半分も過ぎた頃、入口が再びざわめいていた。
あたしは何か予感めいた物を感じ入口へと向かう。そこにはスーツ姿の一人の男性がいた。ひょろりと縦に長い身長に、爽やかな顔立ち。急いで胸もとを見ると名札には、見取の文字が。あたしはこみあがってくる気持ちを抑えるように深呼吸をした。もうあたしは小娘ではないのだ。
「おおおお見取じゃん!お前生きてたんか!」
「見取君ってそんな背が高かったっけ? モデルみたいじゃん」
「猿みてえだったのになんでイケメンになってんだ?」
彼の周りに集まるキラキラした星のような男女。だけど、あたしは知っているのだ。星もヒトデも変わりはしないと。あたしは堂々と、見取君へと歩を進めた。
★
同窓会の帰り道。あたしはすっかり気分が良くなっていた。見取君があたしの横を歩く。夜風が火照る顔に当たり、心地よかった。
「みんな俺の事覚えててびっくりしたな〜。いたの一年ちょっとだったのに」
「みんなから慕われてたというか可愛がられていた? 感じだったもん。覚えてるよ」
「でも富岡さんに覚えててもらってうれしかったな。今でも覚えてるよ、“あたしがみどりであんたも見取だから弟な!” って初日に言われたの」
「そんなこと言ってない!」
「言ったよ〜。嬉しかったけどね、そのおかげでなんかクラスに馴染めそうだったし。いじめる奴いたらあたしに言えとか言ってくれて」
「ああ……まじでもう忘れて……」
まるで、この何年間かを取り戻すようにあたしと見取君は会話しながら歩く。ああ、駅がもっと遠ければいいのに。あたしは、あのバーを思い出した。あそこに見取君を連れていきたい。
だけど、あたしはもう何だか二度とあのお店に辿り着けないように思う。
ゆるゆるとあたし達の会話は続いた。そして、駅へと続く交差点へと差し掛かった。赤信号があたし達の歩みを止めた。ずっと変わらなくていいのに。そんなあたしの願いを無視するように信号は青に変わり、あたしは惜しむように横断歩道を歩く。
「富岡さん。あ、あのさ、またさ、その……ご飯行かない?」
「うん。行きたい」
「良かった!よしじゃあ――」
左側を歩く見取君の顔が逆光で見えなくなる。眩しいライト。エンジン音。
一台の車が赤信号を無視して、向こうからこちらに飛び込んで来るのがスローモーションで見える。
あたしは咄嗟に、見取君を突き飛ばした。驚く表情が見える。
目の前に飛び込んでくる暴走車。動けないあたし。その運転席には一人の男性が座っており、驚いたような表情を浮かべていた。それよりもその助手席に、血みどろの首のない女が見えた。あたしの背筋にぞわりと何かが這う感覚と共に身体の自由が戻った。
あたしはゆっくりと迫る車を避けようと横へと飛んだ。今日買ったばかりのスニーカーが地面を蹴る。
頬をかするのは、車か風か。
世界のスピードが戻る。
ブレーキ音と悲鳴、そして衝突音の多重奏が響いた。
☆★☆
「おい、木村、【ミドリさん】って知ってっか?」
「なんすかそれ。知らないっすよ」
「おまえなあ、ちゃんと客の名前ぐらい覚えろよ」
イベントスペースの受付に二人の男が立っていた。会場では結婚式の二次会が行われている。
「なんすか〜そのみどりさんって」
「このイベントスペースに伝わる都市伝説だよ」
「どんなんなんすか?」
「ミドリって名前のヤツがこのイベントスペースの同窓会に来ると事故る」
「あ?なんすかそれ。えらいピンポイントっすね」
「最後まで聞けや。だけどな、これには続きがあんだよ。ミドリって名前のやつが二人来たら、どうなると思う?」
「二人とも死ぬんじゃないんすか?事故って」
「それがね、そうじゃねえんだよ」
「ええ、なんなんすか〜」
「だから、客の名前ぐらい覚えとけって」
二人組が暇そうに喋っている、受付。
デスクには、【見取祐介・富岡みどり披露宴二次会】という案内が貼られていた。
新作連載してます!
骨太ファンタジーなので興味ある方は是非!
【竜血姫の国崩し〜拝啓妹よ。俺様は国家転覆を狙う姫様の下僕になってしまったが案外悪くないぞ〜 】
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