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第五章 想の汪溢
「では朝礼は終わり。皆さん、今日も張り切って働きましょう」
わたしの自己紹介も含めた朝礼が終わる。最後は副店長の訓話だ。店長の相良部長は、その日の自分の予定についてしか発言しない。西園寺副店長を全面的に信頼しているのだ。
「市原さんは竹田チーフの下について……」
その後、西園寺副店長からテキパキと皆に指示が下る。
「よろしくお願いします」
「イヤリングとジュエリーを選ぶから、こっちに来てください」
わたしが挨拶をすると竹田沙百合チーフがわたしに命じ、店員用ジュエリー棚の前に移動する。
「西園寺さんに指摘されたとは思うけど、明日からは化粧を少し濃い目にして……」
イヤリングとジュエリー、それにリングを選びながら竹田チーフがわたしに言う。
「今日は化粧が薄いから、これかな……」
わたしが自分では選びそうもない蝶の姿を象ったイヤリングと銀のペンダント及び翡翠のブローチ、角形カットが美しいプラチナのリングを渡される。
「それくらいがゴテゴテしなくて市原さんには似合うと思う」
その後、わたしの全身を見まわし、
「ああ、ローファーも似合うのね。だけどエナメル・パンプスなんかが似合いそうな綺麗な脚よね」
「ありがとうございます」
「市原さんは手首も細いからブレスレットをつけさせてみたいけど、販売初日じゃ、たぶん何処かに打つけるか」
「よくご存じで……」
つい、わたしがそう口にすると、
「あら、本当にそういう人なんだ」
武田チーフが屈託なく笑う。笑うと目が細くなり、少し怖い顔が可愛く変わり、ちょっと驚く。笑い声もきゃらきゃら系だ。歳はわたしよりも上そうなのに……。
ついで竹田チーフはわたしの右腕を取ると、
「腕時計を右手首に付けてるけど、市原さんは左利きなの……」
と質問する。
「ああ、これはわたしの趣味で……」
すぐさま、わたしは竹田チーフに説明する。
わたしは腕時計を右手首の内側に本体が来るようにつける。高校で初めて出会ったとき、佐々木零がそうしていたので真似たのだ。その昔、俳優の石原裕次郎がしていたスタイルらしい。だから石原軍団では何人かの俳優が裕次郎スタイルで時計をつける。
方向が逆で右手首の外側に腕時計本体を向けるのならばプーチン大統領がそうだ。ありがたい話ではないが、イスラム国の戦闘員もプーチン・スタイルで右手に時計をつける。イスラム圏では右手に時計をつけるのが信心深いと言う意味になるらしい。
なお女性に腕時計右手首派が多いのは(約十四パーセント。男性は約九パーセント)竜頭が当たり、肌を傷つけないようにするためという。わたしには関係のない話だが……。
「ふうん。面白いわね」
わたしが右手首にする腕時計について解説すると竹田チーフが面白がってくれる。その後、表情を引き締め、
「あと五分で開店よ。市原さんは緊張する……」
とわたしに問う。
「もちろん緊張します」
わたしが答えると、
「わたしの遣ることを見て仕事を覚えて……」
また少し怖い顔に戻り、わたしに命じる。
「だけど慣れれば愉しいから……」
「はい」
「じゃ、スタンバイ……」
「はい」
竹田チーフが所定の位置、イントランスからO店舗に入り、真正面のジュエリーケースの内側に立つ。
「ああ、これからお昼まで立ちっぱなしだけど、お客さまの前でコケたらマズいから、無理そうだったら早めに言って……」
「わかりました」
わたしが竹田チーフに元気良く返事をし、ジュエリーケースの中のジュエリーたちに想いを馳せる。
一口にジュエリーと言ってもかなり多くの種類がある。
アームバンド、アンクレット 、腕時計 (懐中時計、ウォッチチェーン、ウォッチフォブ)、かつら (ヘアーエクステンション)、カメオ 、簪(根掛、手絡、押櫛、笄 、流蘇、大拉翅 、リボン、シュシュ、ヘアゴム、ヘアバンド (カチューシャ)、ヘアピン)、カラーステイ、カラーピン、キーホルダー(懸章、肩章、飾緒、襷)、チェーン 、菊綴、首輪 、組み紐(真田紐)、グローブホルダー、コッドピース、下緒、スタッドボタン、スニーカーアクセサリー (シューズマーカー)、ティアラ、ネクタイ (アスコットタイ、スカーフ、蝶ネクタイ、ネッカチーフ、ジャボ、ネッククロス、フォーカル、マフラー)、ネクタイピン、ネックレス(SOSカプセル、グラスホルダー、コンボスキニオン、ドッグタグ、トルク、勾玉、ループタイ、ロケット、ロザリオ)、根付、羽織紐、バッグハンガー、バッジ(ピンズ)、ハットピン、ピアス(イヤリング)、ファスナー(メガZip、引き手、フェロニエール 、ブレスレット(アームレット、腕輪念珠、シュシュ 、バングル)、ブローチ(コサージュ、ブートニア、スカーフクリップ、スカーフピン、ストールピン、ラペルピン、フラワーホルダー(フラワーピン)、ベルト(サスペンダー、バックル、帯 、帯留)、ポケットチーフ (チーフポインター)、ボタン(カフリンクス 、カフスチャーム 、ボタンカバー )、マネークリップ、眼鏡、リストバンド (ミサンガ) 、リベット、リング (インタリオリング(シグネットリング)、ウェディングリング、カレッジリング、クラダリング、スプーンリング、チャンピオンリング、ネクタイリング)、ワッペン等々。
それらすべてをユア・タイム・ジュエリー社が扱うわけではないが、扱うものは多い。
因みにジュエリー(宝飾品)とは宝石や貴金属を用いて作られた装身具を指す。欧米では素材に関わらず装身具はすべてジュエリーと呼ばれる。宝石及び貴金属を用いて作られたものをファイン・ジュエリー、それ以外の貴石などを素材としたもの、あるいは安価なものをコスチューム・ジュエリーと呼び、区別する場合もある。




