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第四章 刻の交錯

「クリスマスのプレゼント交換会って、いつ以来だろう」

 佐々木零がわたしに問い。

「わたしの最後は短大だな」

 わたしが零に答える。

「子供の頃は愉しみにしてたけどね」

「自分が用意したプレゼントが周ってきたらガッカリしたけど……」

「そうそう、音楽が終わらないうちに早くまわさなきゃって焦って……」

「みんな似たような経験をしてるよね」

「子供の頃は美緒とは知り合いじゃなかったのに……」

「出会いとは偶然なのか、必然なのか……」

 結構ワクワクしながら、わたしと零がプレゼントの交換を待つ。

 その夜、ショットバー・meatに集まったのは二十名ほどの男女で男性が多い。それでも、わたしと零を含め、女性が六人いる。ただし残りの女性四名は既婚者のようだ。自分の夫とともmeatを訪れたらしい。

「えーっ、今年もあと僅かになり、身体に異常もなく過ごせたことを神様に感謝したいと思います」

 連城マスターがプレゼント交換会の前口上を述べる。が、歌声に比べると地味な声だ。まあ、スーパーマンとクラーク・ケントほどの差はないが……。

「この場に集まっていただいた皆さまには感謝の言葉もございません。どうもありがとうございました」

 連城マスターの口上に自然と客たちから拍手が起こる。meat内が明るい雰囲気に包まれる。

「歌ならまだマシですが、こうやって大勢の人の前で話すのはどうも。……ということで狭い店内ではありますが、ぐるりとして円になり、互いの縁を作っていただこうと思います。でも、その前に知り合いが隣に来ないように番号札を配ります。プレゼントもランダムに渡しますから一旦俺に預けてください」

 連城マスターの説明に客たちが順にプレゼントを預け、番号札を受け取る。

「番号を確認しましたら、カウンター前を一番として右回りで店内を一周してください。歩き初めにプレゼントをお渡します」

 連城マスターが続けて説明する。

「わたしは八番だ」

 連城マスターから番号札を受け取り、わたしが言い、

「おっと、あたしは十七番……。」

 零が番号を確認し、暫しの別れと……。

「ああ、おれは九番だ」

 城崎充も自分の番号を確認し、少し驚きながら呟く。

「偶然をバカにするんじゃないぞ」

 その言葉を聞きつけた零が城崎充にエールを送る。少なくとも、わたしにはそう聞こえる。

 ついで客たち全員がゆっくりとmeat店内を一周する。その間、くすくす笑いが絶えない。

「交換曲は俺の希望で『We Wish You a Merry Christmas』としました。十六世紀のイングランド西部を起源とする有名なクリスマス・キャロルです。なお、プレゼント交換後には伝統的なイチジク入りのプディングを用意しております」

 連城マスターの最後の言葉にmeat内の女性陣がわっと湧く。

「ではプレゼント交換会を始めます」

 わたしには詳しい仕組みはわからないが、リモート操作で、いつもなら静かなジャズ曲を流すmeatのスピーカーから『We Wish You a Merry Christmas』が聞こえ始める」


 I wish you a merry Christmas,(クリスマスを祝う)

 I wish you a merry Christmas,(クリスマスを祝う)

 I wish you a merry Christmas,(クリスマスを祝う)

 And a happy New Year.(次は新年)

 Good tidings I bring(良い報せがあるよ)

 To you and your kin;(きみと縁ある人に)

 I wish you a merry Christmas(クリスマスを祝う)

 And a happy New Year.(次は新年)


 Now bring us some figgy pudding,(イチジクのプリン 頂戴)

 Now bring us some figgy pudding,(イチジクのプリン 頂戴)

 Now bring us some figgy pudding,(イチジクのプリン 頂戴)

 And bring some out here.(ここに持って来て)

 Good tidings I bring(良い報せがあるよ)

 To you and your kin; (きみと縁ある人に)

 I wish you a merry Christmas(クリスマスを祝う)

 And a happy New Year.(次は新年)


 For we all like figgy pudding,(イチジクのプリン みんな好き)

 We all like figgy pudding,(イチジクのプリン 大好き)

 For we all like figgy pudding,(イチジクのプリン みんな好き)

 So bring some out here.(ここに持って来て)

 Good tidings I bring(良い報せがあるよ)

 To you and your kin;(きみと縁ある人に)

 I wish you a merry Christmas(クリスマスを祝う)

 And a happy New Year.(次は新年)


 And we won't go till we've got some,(貰えるまで行かない)

 We won't go till we've got some,(貰えるまで行かないぞ)

 And we won't go till we've got some,(貰えるまで行かない)

 So bring some out here.(ここに持って来て)

 Good tidings I bring(良い報せがあるよ)

 To you and your kin;(きみと縁ある人に)

 I wish you a merry Christmas(クリスマスを祝う)

 And a happy New Year.(次は新年)


『We Wish You a Merry Christmas』という曲自体はわたしも知っていたがフルヴァージョンを聞いたのは初めてだ。

 曲が終わり、わたしの手の中でプレゼントが止まる。そこで、まさかとは思うが城崎充に聞いてみる。

「これ、まさか、充くんのじゃないよね」

 何故それを聞いたのかというと城崎充の手の中にあったのが、わたしが選んだクリスマスプレゼントだったからだ。

「こんなことになるんなら、もっと考えて選べば良かった」

「じゃ、やっぱりそうなのか。偶然は恐いね」

「それじゃ、これは……」

 わたしの言葉に城崎充が気づき、再度驚く。

「美緒さんの……」

「赤い糸を二千円分入れとけば面白かったと思うよ」

「……」

「冗談よ。でも充くんには似合うはず……」

 プレゼント交換会が終わり、一旦二人で小テーブルに戻る。交換し終わったプレゼントを開けるタイミングを何故か失ってしまい、城崎充の麦焼酎でわたしが喉を潤す。そんな膠着状態が暫く続いた後、連城マスターが自らイチジク入りプディングを持ち、わたしたち二人のテーブルに現れる。

「お待たせしちゃって」

「マスター、自分で働き過ぎ……」

「今日は感謝デーですから……」

「あとでまたカクテルを作ってください。マスターのお任せで……」

 わたしが言うと、

「じゃ、それまで充のを呑んでてね。値段の割にはイケる味でしょ」

 連城マスターが答え、わたしと城崎充のテーブルを去る。

「充くん。じゃ、わたしたちも皆みたいにプレゼントを開けようか」

 meat内の別のテーブルの様子を窺いつつ言うと、城崎充がこっくりと首肯く。


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