41 嬉
第四章 刻の交錯
遂に第一回社内ジュエリー・デザイン・コンテスト一次選考の結果が公表される。会社にとって初めての経験ということもあり、選考が遅れ、既に十二月も最後から二番目の週だ。最終審査結果は予定通り翌年一月だ。が、間に合うかどうか。
わたしは来年一月が待ち遠しい。つまり、わたしは一次選考の五人の中に残ったのだ。しかも自分で自分に、そのことを通知までしている。
「まあ、入ってたんだから良かったじゃない」
わたしにその仕事を押し付けた村松総務課長が簡単に言う。
「落ちてたら、さすがにおれも気が退けたよ」
言うだけを言うと村松課長が執務机に戻る。わたしには村松課長が、お気楽なんだが、わたしに気を遣っているのか、未だに判断できない。
「良かったわね」
久しぶりに佐々木零から連絡があり、わたしが一次選考突破を告げると素直に喜んでくれる。
「次は第一席か」
「うん。わたしも欲が出て来た」
「峯村さん、審査委員の一人なんだって……。じゃ、推してもらえば……」
峯村聡が後日選考委員に呼ばれたことも、前の電話のとき、零に話している。
「彼はそういうことができるヒトじゃないから……」
「それなら贔屓目じゃなくて本当に素晴らしいと思ってもらえばいいじゃない」
「うん。そっちの方なら自信がある」
「幸せそうね」
「でもクリスマスは一緒じゃない」
「meatのクリスマス会には行くの……」
「零は行くんでしょ」
「連城マスターに誘われたからね」
「直接アタックか」
「えっ、何、聞こえない」
「いや、何でもない」
「でさ、美緒は行かないの」
「迷ってる」
「……ってことは、充くんと何かあったんだな」
「あった、ってほどのことはないけど……」
いや、本当にそうなのだろうか。
「どうした……」
「簡単に言えば告られた」
「ふうん」
「だからフッた」
「勿体ない」
「仕方がないでしょ」
「まあね」
「わたしの存在が彼の中で大きくなっているんだってさ。ユイっていう、前の亡くなった彼女に代わって……」
「そういう事情か」
「でも、わたしはユイさんが誰で充くんとどんな関係にあったか何も知らない」
「聞けばいいじゃない」
「だって、もう別れた」
「じゃ、恋人候補じゃなく、友人として聞けば……」
「他人の心の中に土足で踏み込めないよ」
「連城マスターが電話で言ってた。充は美緒さんの所に行けばいいのに、って……」
「似たようなことは、わたしも本人から言われたよ」
「美緒、気にせずにクリスマスパーティには来なよ。充くんだって、大人の対応をすると思うよ」
「……」
「みーおっ」
「じゃ、行くかな」
「それなら、次に美緒と会うのはパーティー会場だね」
「うん」
「しかし明後日だよな。クリスマス……。今年も一年が早い」
「零は年寄りかよ」
「だけど一年の体感が確実に短くなってる」
「せめて五十歳になってから、そういうことを言ってよ。わたしの父は、その頃から言い始めたから……」
「美緒は全然感じないわけ」
「わたしは若いから……。それに彼を待ってる時間が長いから……」
「美緒、あたしやっぱり、美緒は峯村さんと別れた方が良いと思う」
「いずれはね。でも今はまだダメ……」
「美緒……」
「でさ、零は連城マスターとくっつくの……」
「何よ、それ……」
「じゃ、まだアタックされてないんだ」
「あたしが……。連城マスターと……」
「そうだけど」
「いや、あたし、連城マスターのこと、嫌いじゃないけど……」
「零こそ、連城マスターを利用して前の恋を忘れなよ」
「だって、あたし、そんなに器用じゃないもの」
「だったら、わたしも同じ。充くんを利用できない」
「美緒さ、あたしたち、ヘンな所で真面目な意地を張るよね」
「でも、わたしは、だから今でも友だちやってんだと思う」




