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第四章 刻の交錯

 第一回社内ジュエリー・デザイン・コンテスト選考委員会開催のため、わたしが会議室を準備する。

 ……といっても、机と椅子を並べ換え、必要資料を運び、テレビ会議のセッティングをすれば、それで終わり。場合によれば議事録を任されるかとも思ったが、幸いそれは頼まれない。自分が応募したデザイン審査の場にいたいとは、さすがのわたしでも思わない。が、頼まれれば、わたしはそれを引き受けざるを得ない。村松総務課長が気を利かせてくれたのだろうか、とわたしが少しだけ考える。が、偶々だろうと考え直す。審査委員会の議事録は審査委員として参加する大阪支店長の部下に託される。

 社内ジュエリー・デザイン・コンテストの審査委員の中にはデザイン部の部長もいる。今では殆んどすることはないが、元々はデザイン部でジュエリー・デザインをしていた鶴岡つるおか部長だ。鶴岡部長は部下たちの作品を推すのか、それとも公正な審査を心掛けるのか。もっとも公正な審査を心掛けた結果、デザイン部所属の社員がコンテスト入賞を果たす可能性は高い。何だかんだ言っても彼と彼女らは実力のある専門家だからだ。

「結果が気になって仕事が手につかない……とか」

 山木美千代がわたしに訊く。

「わたし、そこまで柔じゃないから」

「でも気にはなるでしょ」

「まあね」

「美緒のデザイン、通ると良いわね」

「もう、わたしの手は離れたから……」

「そういえば営業の峯村さん、急遽、審査メンバーに選ばれたんだって……」

「……らしいわね」

「でも、いったい何故……」

「審査メンバーを選んだデザイン部の鶴岡部長の案を見て、社長が付け加えさせたみたいよ。若手で結婚している営業部員の意見も聞きたいって……」

 実は、わたしは聡から直接その事情を聞いている。が、その前に社内で噂となる。仮にそうでなければ、わたしは山木美千代の疑問にあっさり、知らない、と答えただろう。わたしと峯村聡は社内では(社外でも)無関係。そのスタンスが一番安全だからだ。

「峯村さんは奥さんとお子さん想いって聞いたけど、そう言ったターゲットも狙う気なのかしら……」

「市場は広い方が良いから……」

「セレブにはセレブ用のジュエリーで庶民には庶民用で……」

「年齢的にだと中学生は無理でも高校生用、大学生用、若い女性用、中年の女性用、それから、既婚と未婚にも分かれるわね」

「高齢者、男性用……」

「LGBTもいるし……」

「そこだけ一緒くたかよ」

「じゃ、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、それぞれ用……って考えると無限の市場がありそうだわ」

「でも開拓されていないところが多い気がする。まあ、わたしにはわかんないけど……」

「今の若い世代は高級時計にも興味がないし、アクセサリー類も安物で気にしない。だから、これからの経営戦略は難しくなるんじゃないかな」

「……といって、お金がある高齢者に合わせていたら飛躍的なデザインは生まれない。ねえ、美緒はどんな感じを狙ったの」

「愛人かな」

 言って、しまった、とわたしが焦る。

「愛人……。何それ……」

「ええと、英語のラヴァーのつもりだったから、恋人用……」

「恋人限定なわけ……」

「……ってことはないけど、イメージとしては」

「その発想、面白いな」

「だけど言うほど形にできたかどうか……」

「でさ、どういうところが恋人的なわけ」

「近くにいて愉しく、遠くにいて恋しく且つ切なく、でも幸せみたいな……」

「ごめん。わたし全然イメージできない」

「そりゃそうでしょう。抽象的なことしか言ってないから……」

「具体的には……」

「遠くから見るとツルッとして可愛い感じだけだけど、よく見ると細かな加工があって味わい深い」

「なるほど」

「重くはないけど軽過ぎない」

「それも、なるほど」

「理想としては失くし難い、または落としてもすぐに見つかる……を付け加えたかったんだけど、さすがに諦めたよ」

 わたしがぼやくと、

「それ、わたしならできるかも……」

 山木美千代が顔を耀かせる

「えっ」

「発信器を仕込めばいいだけでしょ。あるいはブザーでもいいけど、ジュエリーが大きくなるから……」

「その発想はなかったな」

「でも紛いモノって見られるけどね。ジュエリーとしては……。石と金属からできていないと偽物だから……」

「バカバカしいって思うけど、そういった壁ってあるわよね」

「でもさ、そういった方面に特化してシェアを奪えば、世界戦略だってできるんだよ」


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