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18 才

第二章 恋の揺籃

 連城マスターがわたしたちのいるテーブルを去ると、入れ替わりに城崎充がやってくる。

「ボトルを持ってきたのね」

 右手にロックグラス、左手に麦焼酎の瓶を持っている。

「後で氷と水を持ってこないと……」 

「それくらい、やってあげるわよ」

 珍しいことを零が言い、しかも即座に実行に移す。素早く立ち上がると連城マスターが立つカウンターに近づいて行く。そんな零の姿をわたしが目で追う。ついで城崎充を見ると沈黙が降りそうになる。だから慌てて、

「吃驚したわよ」

 わたしが言うと、

「勝手なことをして御免なさい」

 まったく同じタイミングで城崎充がわたしに謝る。

「気がつくと曲が頭に浮かんでいて、歌詞もできていて……」

「頼もしい芸術家的才能じゃない」

「芸術家って……」

「わたしもそんな才能が欲しいわよ。でも、ないから頑張るだけ……」

「才能がない人なんていません」

「じゃ、言い直す。自分が遣りたいことと自分にできることが一致しない」

「なるほど」

「一致した人が才能のある人集合の一部」

「そんな見方はしたこともなかった」

「わたしもさっきまではしなかったわよ。充くんの言葉から発想しただけ……」

「美緒さんは、そういう才能も持っている人なんですね。魔法の舌だけじゃなくて……」

「バカね、こんなの才能じゃないから……」

「……って、できる人は思うのよね。はい、氷と水」

 いつの間にかテーブル席に戻って来たのか、零がわたしと城崎充との話に割り込む。

「だって無駄な才能じゃない」

 わたしが零に主張すると、

「欲しい人から見れば羨ましい才能なのよ」

 零が答える。

「そうでしょ」

「まあね」

「……ところで蕪煮が大受け。筍と蒟蒻と竹輪のキンピラも大受け。タコとエリンギのアヒージョも大受け」

「それは良かったわね。で、竹輪はわたしのお陰か」

「うん。でも特に蕪煮が良かったみたい。硬めに仕掛けておいて、こっちでまた火を通してもらって丁度良い柔らかさ」

「才能あるじゃん」

「自分でもそう思うよ。でも小説の方はさっぱり……」

「ま、呑もう」

「そうするか。充くんもね」

 零が言うと城崎充が静かに首肯く。それで話題を取っ替え引っ替えしながら三人で静かに呑む。城崎充は違うが、わたしと零は、もはや大騒ぎできる歳でもない。

「零さんは小説家志望なんですか」

 酒で顔を上気させた城崎充が問うと、

「なれればなりたいけど書くだけね」

 しんみりと、けれども明るく零が答える。

「最近はネットの小説サイトに書けば数は少なくても何人かは読んでくれるから張りがあるわよ。紙の同人誌の頃は仲間の数人が義務で読んでいただけだし……」

「義務じゃなくて礼儀でしょ」

「そうとも言うけど……」

「実際、どれくらいの人が来るの……」

「わたしの場合は純文系だから連載中の一日で、多くても二百人くらい。サイトに来る人自体は、その三から四倍」

「ふうん。でも、わたしにはそれが多いか少ないかわからないな」

「最低その二十倍の人が来てくれれば文庫本の出版に誘われる可能性がある」

「じゃ、頑張って……」

「まあ、それしかできないから……」

「料理の小説を書いたらいいんじゃありませんか」

 基本的に口数が少ない城崎充が急にわたしたちの会話に入って来る。

「なるほど」

 零がすぐに反応し、

「だけど単にレシピを書いたら唯の料理の本になっちゃうし、難しいわね」

 かなり困ったように悩む。

「自分の経験で料理が役に立ったこととかないの」

 わたしが問うと、

「あるけど、別に面白い話じゃないし……」

 やはり困ったように零が答える。

「じゃ、料理を使ったミステリーとかは……」

 城崎充が発想を転換するが、

「ミステリーを書いたことはあるけど、あたし向きじゃないのよ。だから二十年間書いてて五作ない」

 と零は消極的だ。が、すぐに態度を改める。

「でも考えるヒントになったかな」

「そうか、零は二十年か。わたしはまだ八年だ」

 わたしが言うと、

「それは今の会社に入ってからでしょ」

 零がツッコむ。

「意を決して専門学校行ったときからだって十年だよ」

「確かにそうか」

 すると済まなさそうに城崎充がわたしと零に自身の期間を告げる。

「あの、オレはまだ一年ですから……」


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