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12 希

第一章 天の配剤

 城崎充と出会った翌日の夜、わたしが約束の場所で待っていると峯村聡が現れる。

「昨日は済まなかった、美緒……」

 そう言い、わたしの肩に手をかける。すると急に、わたしは言うべき言葉を失ってしまう。ついで自分の口から出てきた言葉は自分でも意外な内容だ。

「ねえ、聡は子供の頃、いいえ、大学の頃でも良いけど、何になりたかった」

 余りにも唐突だ。発言した当の本人にでさえ唐突なのだから、それを聞かされた聡は益々意味が取れないに違いない。実際に聡を見れば、案の定、目を白黒させている。が、彼は誠実だ。唐突な、わたしの質問にちゃんと答えてくれる。

「子供の頃に、ぼくが成りたかったのは発明家かな」

「発明家……」

「具体的には特許を何件も取れる人間になりたかったんだ」

「ふうん、何故……」

「単純に特許が取りたかったんだ、と思う。つまり、この世の中にはまだない便利なモノの発明者になりたかったってことだよ。唯一無二の人ってこと」

「なるほど……」

「それから大学の頃になりたかったのは安定した社会人」

「ああ、そうか、学生結婚してたんだもんね」

「そう。美緒の前で言うのは辛いが、あの頃は他に何も考えていない」

「わかるわよ。それに、それくらいは大丈夫……」

 暫く無言のまま、聡が予約を入れたレストランまで歩く。

 昨日聡と出会う場所をKではなくSにしようと言ったときには考えていないが、Sにもピザの専門店がある。しかも最初のデート(?)のとき、聡と入ったチェーン店だ。その店が今、目の前にある。

「聡と最初に入ったピザのお店、ここのチェーン店なのよ」

 だから、わたしはそう言ってみる。

「憶えてる……」

「忘れるわけがないだろう。美緒がイヤリングを落とした記念日だ」

「聡が『イアリングが見つかって良かったな会』とか言い出すから吹いたわよ」

「今思えば、きっと美緒と一緒にいたかったんだろうな。それで印象に残るようなことを咄嗟に言った……」

「ねえ、今更だけど、わたしの何処が気に入ったの」

「一口で言えば全部……」

「そりゃ、わたしも一口で言えば聡の全部だけど、でも特に誠実な所とか……」

「脚が綺麗なところ……」

「ああ、肉体の方かい……」

「ノリがいいところ……」

「今度はそっちか」

「一緒にいて気にならないところ……」

「そりゃ、営業畑の人は気を遣う職業だからね」

「いやいやいや、気を使わない営業部員も多いぞ」

「でも、それウチの会社じゃないでしょ」

「まあね」

「ウチがモノを作っている会社だからかしら……。ウチの社員、皆、真面目よね」

「ああ、そういうことか」

「何が……」

「さっきの美緒の質問……」

「ああ、あれ。ごめん。わたし、自分でも意味がわからないで言ったの」

「ジュエリーデザイナーだろう」

「えっ」

「美緒が今でもなりたい職業って……」

「……」

「それとも、もう諦めた……」

「真面目な話、望みないでしょ。入社して八年経ったのよ」

「ジュエリー部の飯室いいむろさんは十二年待ったよ」

「それは知ってるけど……」

「まだ内緒だけど、今年から一般社員にもジュエリー・デザインを公募する……って話があるんだ」

「えっ、本当……」

「まず確実に……。それというのも美緒みたいな社員が多いからだよ。上層部では、もっと前から制度化したかったようだけど、ジュエリー部が反対して……」

「まあ、そうでしょうね。敵が多くなれば安閑としていられなくなるから……」

「そういうこと。しかし逆に刺激にもなる……」

「鎬を削るわけね」

「だが当然、現ジュエリー部員は質が高い。悪ければ会社の製品が売れていない。もちろん、ぼくたちも頑張るが、弾がなければモノは売れない」

「それ、いつ頃のこと……」

「初回は急になるな。今月公募して来月末、つまり十一月末が締切だ。結果発表は新年早々……」

「わたし、夢を捨てなくてもいいのね」

「しかし叶うとは限らないぞ」

「聡らしい励まし方だわ」

「ぼくも美緒のデザインしたジュエリーを売ってみたいよ。アクセサリーもリングも……」

「うん、じゃ、わたし、頑張る。才能がない人は頑張り続けるしかないから……。わたし一生懸命頑張るから聡が見守っていて……」

 すると聡が当然といった表情でわたしに笑いかける。


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