第7話 子猫の言葉
第7話 子猫の言葉
最初のOUTPUTオブジェクトを空の花瓶にした。
「願う。今、その花瓶に、水を、一杯に溜め給え。Run」
するとペンダントの光は走り、中心部が輝き、さらにもう1つの六芒星が内部にでき、そこにも光が走った。と思う間もなく光は花瓶を包み込むように輝き、やがて光輝が消えると花瓶は水で一杯になっていた。
「できた...と思う。でもあの内部にできた六芒星は何だったんだ?このペンダントにはまだ秘密があるのか?それとも、これが最後の秘密だったのか?」
要は考え込んだが、考えてもわかるはずもなく次の試みをしてみることにした。
「桃、ごめんな。少し実験台になってくれ」
要が抱っこしたのは生後2か月に満たないと思われる子猫だった。子猫の名前は『桃』というが、性別はオスで名前の由来は『桃太郎』のようにたくましくなれとの願いからだった。その桃が実験台になろうとしている。
「危険はないだろう。このペンダントがそんな物騒なものであるはずがない。それよりも生命体をオブジェクトとして認識するかが問題だ」
これは未知のものに対してあまりにも乱暴な試みであったが、要は気が付いていなかった。何が起こるのか予期できない試みに可愛がっている子猫を使うなど論外だったと要は後に後悔する。同じ生命体を実験に使うなら今晩のおかずとなるまだ生きた烏賊でもよかったし、庭に生えている韮でもよかったのだ。それでも、気が付かないものはきっかけがなければ気が付かない。
「桃、いくぞ。願う。光輝の元にこの桃に言葉を与え給え。Run」
やはりペンダントの光は走り、中心部が輝き、さらにもう1つの六芒星が内部にでき、そこにも光が走った。さらには内側に六芒星ができと、数えきれない六芒星のネストができていたが、最後の方の六芒星は小さくほとんど点にしか見えなかった。その点から発せられた光は桃を包み込むように輝き、やがて光輝が消えると桃はきょとんとしていた。
「桃、欲しいものはあるか?」
しかし桃は反応しなかった。桃に異常が起きたかと心配する要であったが、ふと気が付いた。
「与えられた言葉は話す言葉だけかもしれない。言葉を聞き、理解することは別の能力なのだ」
すると桃は「みじゅ~」と鳴いて水入れの容器に飛び跳ねて行った。
「間違いないようだな。でも聴いて理解する能力を与えるためにはどうすればいいんだ?それに与えられる能力は無限のはずはないからその限界を知るにはどうすればいいんだ?う~ん、制限があると考えればいいのか」
そのことを証明するように桃は「みじゅ~」と1回鳴いただけで、その後は一言も発しなかった。
「時間制限か1回の言葉という制限なんだろうな」
そして制限を知るためには何回もの実験が必要になり、その度に桃を使うことは危険が大きすぎることに、ここで要は気が付いた。
「遊べば遊ぶほど問題が湧きだしてくる。動くということも楽しいが、この後から後から問題が湧きだす快感は久しぶりだな~。さて問題を抜き出してみようか」
とりあえずの問題は生命体を含めたOUTPUTオブジェクトへの制限を知ることだったが、これを調べるには生体実験が必要になる。要と言えども生体実験には躊躇というよりも嫌悪感さえも感じる。さてどうしたものかと悩む要であった。
さらに、何故複数回の六芒星の光輝のネストが行われたのかも疑問であった。