第4話 遷移論
第4話 遷移論
「ルーフェはどこで生まれたの?」
「天の川銀河の中心からやや外れた天体じゃが」
「そこからどうやってこの地球にやってきたの?」
「おお、いきなり難しい質問だが、素朴な疑問でもあるな。だが説明してもわかるまい」
「難しいの?」
「難しい。どのくらい難しいかと問われたならば、わしが原理しかわからないほど難しいと言っておこう」
「じゃあ、その原理だけでも教えて」
「ではこの本を貸し出そう。決して失くすでないぞ」
その本は5つの章で構成されていた。
第1章 相転移の臨界点
第2章 素原子の相転移
第3章 不干渉場の生成
第4章 原子波の加速
第5章 相転移の可逆性
要が第1章から目を通すと、『第1章 相転移の臨界点』の要点は次の通りであった。
物質またはエネルギーは、ある条件を満たすと純粋な原子波に相転移する。原子波は質量もエネルギーも持たない。
ある条件が事細かに記されていたが、要に理解はできなかった。例えば、液体の水が個体の氷になったり、気体の水蒸気になったりすることかとそれなりに納得するだけだった。
『第2章 素原子の相転移』は、素原子⇒エネルギー⇒原子波と相転移するとあるが、この転移条件もさっぱりわからなかったし、素原子がよく知る元素以外にも存在することも理解の範囲を超えていた。
『第3章 不干渉場の生成』は、原子波のコーティングのようである。原子波そのものは外界からの作用が働かなければ互いに干渉しないらしいので、相転移した原子波を外界から遮断すれば、原子波はいつまでも原子波のままであるらしい。
『第4章 原子波の加速』は、不干渉場ごと内部の原子波を加速することらしい。不干渉場そのものも原子波で構成されているため質量もエネルギーもゼロであるから速度は理論上は無限の速さ即ちゼロ時間の移動が可能らしいが、不干渉場にも耐久性や緻密性などの強弱があり実際には有限の速度や到達距離となるらしい。とはいえ光の速度を遥かに超える速度で航行可能となる。
『第5章 相転移の可逆性』は、不干渉場と内部の原子波を相転移させ元の姿に戻す方法であるらしいが、この章はさっぱりとわからなかった。
「ルーフェ、概略しかわからなかったよ」
「な、何。概略でもわかったのか」
ルーフェが微かに汗をかいているのには何か理由があるのであろうか?
「要におもちゃをやろう」
「この本と関係あるの?」
「あると云われる代物だ」