余裕?の三つ巴
そんなこんなで夜が来た。
「ふぅ…そろそろだな」
この時間帯が一日で最も厄介かもしれない。
「失礼します」
やはり来たか。
こちらが反応する前に扉が開く。
そこには極めて露出度の高い格好のグロリアがいた。
「そろそろ…夜伽のお時間ですわ」
「いやぁ、グロリア…今日はもう休もうかと思って…」
グロリアを引き取ってからというもの、毎晩のようにこのやり取りをしている。
彼女なりの恩返しなのだろうが…女性経験皆無、彼女いない歴=年齢。
生粋のさくらんボーイの俺には余りにも刺激が強すぎる。
初めて迫られた時など、邪竜を前にした時の比では無いほど心臓が脈打った。
呼吸もままならない状態だった。
「…やはり、私のような者ではテンドウ様に抱かれることは出来ないのですね…」
グロリアはうつむき、しおらしく涙を流す。
「い、いや、そういう訳じゃ…」
なだめようとした矢先に、視界の端に影を捉えた。
「ほ、ほら、どこで見られてるとも分からない訳だし!」
ギクッと二つの影が動く。
そしてそろそろと立ち去ろうとしたが…。
「キャッ」
「あう」
蹴つまずいて転んだ。
「痛っ〜…ちょ、ちょっとなにしてんのよ!」
「うぅ…不覚…」
二人の覗き魔が正体を現した。
「ほ、ほら…な…」
グロリアの髪がゆらゆらと揺れていた。赤いオーラを纏いながら。
「あなた達は…いつも…いつも…」
昼の出来事もあり、いつも以上に…キレてる…。
「お、落ち着けグロリア…!」
「もう許しませんっ‼︎」
黒魔術の天才が本気を出した。
「くっ…しょうがない…やってやるわよ淫乱痴女〜‼︎」
「ぬけがけ、ダメ、絶対…‼︎」
二刀流の天才と忍術の天才も本気を出した。
「小娘が生意気な…」
グロリアが両手を広げる。
「「怒り・閃光・漆黒の契約・虚空裂いて射殺せ‼︎」」」
高度な簡易詠唱。
黒い稲妻が空間を裂いてユリファとミヤビに襲いかかる。
二人は左右に飛んで雷を躱す。
しかし、稲妻は2人を追尾する。
ユリファは双剣を左右に構える。
ミヤビは胸の前で人差し指を合わせ、それ以外の指を組む。
「唸れ!双滅斬‼︎」
「炎術・紅蓮葬陣‼︎」
ユリファの圧倒的な速度の斬撃。
刀身は二筋の閃光となる。
ミヤビの術は術者の前方に業火の盾を出現させるものだ。
技と技のぶつかり合い。
凄まじい衝撃。
技同士が相殺される。
ついでに部屋の装飾も吹き飛ぶ。
「フンっ…次でおしまいですわ…」
グロリアは既に次の攻撃を準備していた。
禍々しい人の背丈ほどの柱。赤いルーン文字が表面に蠢いている。
「いいわ…かかってきなさい!」
「いつでも…!」
ユリファ、ミユビの二人も構える。
しかしこれ以上の戦いは実況できない。
俺は壁を向いて叫んだ。
「三人とももうやめろ‼︎そして自分の体を見ろ‼︎」
「体…?何言って…キャァッ‼︎」
「…うぅっ!」
「あら…」
至近距離での激しい攻防により、三人の衣服は弾け飛んでいた。
ほぼほぼ裸である。
「わかったら早く部屋に戻るんだっ‼︎」
「戻れっていったって…この格好で外になんか出られないわよ‼︎」
ユリファが叫ぶ。
「ミヤビに隠密の術でもかけてもらえ‼︎」
災難な夜は、一旦終了した。