余裕の気配察知
「…で、そろそろ出てきたらどうだ?」
俺が来る前から忍び込んでいたのはわかっていた。
部屋の隅の燭台。
その影から小柄な少女が姿を現した。
「…いつから、気づいてた…」
「部屋に入ったときからさ」
「うぅ…」
忍び装束の少女は恥ずかしげに俯いた。
彼女は魔物討伐を生業をするシノビと呼ばれる一族の末裔だ。
名前はミヤビ。
彼女の一族はかつて、一体の魔物によってほとんどが殺されてしまった。
最強と謳われた魔物、ユユシ。
他の魔物とは比較にならない程の膂力を持ち、その性格は残忍にして狡猾。
シノビの一族が総力をもってしても敵わなかった。
そして彼女は、生き残った幼い子どもたちの面倒を見ながら一族の敵討ちのために奔走していた。
「なんでいつも忍び込むような真似するんだ」
「私は、シノビ。標的の部屋には、忍び込む、もの」
クリッとした大きな瞳でこちらを見つめる。
「でも…また、気づかれた」
彼女と出会ったのは二度目の使命の時。
ユユシを追っていた時に出会ったのがきっかけだ。
「俺は特別鋭いからな。ユリファ気づいてなかったみたいだぞ」
「でも、ユウは、気づいてた」
彼女は優れたシノビだが、一人でユユシには敵わない。
ユユシは2人で倒した。
最初は信用されなかったが、共にユユシを追う内に彼女は俺を信頼してくれるようになっていた。
と、同時にライバル意識の様なものが芽生えたらしい。
「次は、絶対、気づかれない」
「楽しみだな。…ところで、何の用なんだ?」
「うっ…」
頰を赤く染めて俯く。
「お前も俺を心配してくれたのか?」
カーッと、みるみるうちに顔が紅潮していく。
「当たり、前…」
「ははっ、そうかそうか」
自然と笑みがこぼれる。
「大丈夫だよ。俺はまだ、先に逝ったりしない。安心してくれ」
ポンッと頭を撫でた。
彼女の一族は彼女と幼い子供たちを残して死んでしまった。
誰よりも頼る相手を失うのが怖い筈だ。
「…うん」
ミヤビは少し俯き、はにかんだ。
「わたし、信じてる」
ミヤビは、とてとてと部屋を出て行った。