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02


「まずね、私は退屈なことが嫌いだから黙り込まないでくれる?」


 少女はそんなこと言うが正直……無理だろ。こっちは死んだと思ったらこんなとこにいるのだから。


「えっ、……あ、あの――」


「自己紹介しろって言ってんのよ!」



 怒鳴るなよ!てか、なんだよこいつ。そうならそうと言えばいいじゃん。偉そうにも程があるだろ!?


「偉そうじゃなくて偉いのよ。」


「それ自分で言っちゃうん――って僕の心の声が読めるの!?」


「読まなくても漏れてたわよ。」


 これは失敬、癖です。


「まあ、いいわ。貴方の名前は知ってるし、どちらかと言えば私の方が名乗らないとダメなようだしね。」


「って、知ってるのかよ!?」


 起こすときに僕の名前呼んでたから当たり前か…


「私の名前は『アルステノ』、貴方がさっきまで居たミュロでは『蒼月の女神』と呼ばれているわ。アルステノ様と呼びなさい。」


「夜宵鎌です。」


「「………………」」



 お互いに自己紹介をし、目線を合わせながら沈黙が続くこと一分。てか、僕も反射的に名乗ってしまった…



「あんたの名前なんか知ってるわよ!!自己紹介って名前だけ教えるものじゃないでしょ!ていうか、ちょっと驚きなさいよ!女神よ!貴方の前にいるのは女神様なのよ!!驚かないなんて貴方正気?」



 女神は叫ぶ


「いや、少なくとも死んだとは思ってたけど…もしかして生きてるの?」


 僕の言葉に対して女神は視線を逸らした。


「……ごめんなさい、そういえばそうだったわね」



 なんで死んで早々、女神と漫才しないといけねぇんだ…

 てか、この女神ダメだ。



 ちなみに先ほど女神が言っていた『ミュロ』と言うのがマリデリア王国とかがあった世界の通称である。本当は『ミュロウスタント・メルビティカール』。その通称が『ミュロ』や『ミメル』である。

……ただ向こうにいた三ヶ月間でその名前を聞いた覚えはないが




「コホンッ、実はね貴方をミュロに喚んだのは私なのよ。」


 仕切り直しと咳払いを一つしたあと、この女神はとんでも発言を投下した。


「はあ!?な、なんで僕達を!?」


「達って…あぁ~そう言えばお友達とかも巻き込んじゃったのか~それはお友達には悪かったわね、ごめんなさい。」


「謝るきないだろ?」


 そう聞くと女神はそっと目を逸らした。やっぱりか…


「で、僕が喚ばれた理由は?」


「それは単に私が暇だったから喚んだだけ」


「……は?」


「だってこの世界って今どの国も停戦状態なのよね~暇でしょうがないのよ。おまけに平和条約まで結び始めた国まで出てきたし…」



 えっ、マジで何それ?つまりあれか、気まぐれで喚ばれたの僕?平和なんだからイイじゃんそれで。てか喚ばれたせいで死んだんだけど!?


「あっ、それは貴方の自業自得よ――って言いたいとこだけど、送った場所が悪かったわね。『召喚の魔術陣』をあそこに渡したのが間違えだったわ。」


 ほんの少しだけ女神の顔が暗くなった。実はさっき起きる直前で何か水っぽいものが頬に落ちたのを感じた。多分、泣いてたんだ…この女神。


「それに私は貴方に生きてほしかったのに…何のためにマオちゃんを貴方に会うようにしたのやら…」


「マオちゃん?……もしかして僕にあれ・・を教えてくれた」


「ええ、そうよ。そう言えばどうやらあれ・・の影響はもうないようね。」


 そう言われ自分の手足などを確認する

……別に変わった所があるわけではない。しかし、実際には変わっていたのだろう。あれ・・の影響はあったとしても目で分かるわけがない。

 

「まあそれについてはもういいわ。……突然だけど、今日何の日かわかる?」


「はっ?」


 突然の女神の問いにすっとんきょうな声を出てしまった。……てかあれ?



「……今日って何日ですか?」


「今は貴方が死んだ日、四の月の白火はくびよ」


「ええっと…、白火って確か第二…あれ?第三だっけ?」


「貴方、向こうでの日の数えかたを覚えてなかったのね。」


 呆れて溜め息を吐くアルステノ。


 向こうでは全ての月は一月30日で、それが12ヶ月間で一年。うるう年の類いは無く、一年で360日となる。

 そして、6日で一週間と向こうより一日少ない。(ちなみに、無い曜日は金曜となる)そして、先ほどのように月火水木土日の前に色を入れるのだ。第一ならば赤、第二なら青、第三なら黄、第四なら白、第五なら黒という具合に。


「そして、白火はあなたの居たところの4月20日よ。…これで今日がなんの日かわかったでしょ?」


「……あぁ~思い出した、明日は町内会のお花見か。クッソ~行きたか――」


「違うわよ、バカ!明日の話じゃないし、向こうのことなんてどうでもいいわよ!てか、私がそんなの気にするわけないじゃない!」


 激昂するアルステノ。少々遊び過ぎたようだ。これは失敬、自粛せねば(する気はないが)


「わかってるよ、確か僕の誕生日でしょ。自分の誕生日くらい覚えてるに決まってるだろ。」


「……本当かしら?」


「当たり前でしょ(言われて思い出したけど)」


 半目でこちらを見てくるアルステノの視線が痛い。



「…まあ、いいわ。でね私たち神はね、この世界で“誕生した日に死んだ生命体”を転生させないといけないの。」


 先程より真剣な目でそう言うアルステノ。ただ、その目は少し曇っているような気もした。


「……ん?てことは――」


「そうよ、貴方の考えてることで合ってるわ。」


 そこで気づいた。

……いや、ここまで言われて気づかない方がおかしいのかも知れないが…


「貴方にはもう一度この世界で“夜宵鎌やよいれん”としてではなく別の人として転生してもらうわ。」


 突如として沈黙が二人を包み込む。


 鎌の目には誰が見ても分かるくらいの動揺が、アルステノの目は先程から変わりないほど今まで通り──に見えるが実際は暗く、とても鎌が転生することを喜んでいるようには見ない──見える。



 すると彼女は後ろを振り向き、鎌は彼女の背中を見つめた。艶やかなその金色の長い髪はまるで夕焼けのように輝いて見えるが、表現のようにまるでもう沈みかけているかのように暗い気もする。



「別に転生することは構わない…けど、拒否権は─」


「もちろん無いわ、悪いけど転生してもらうから……受け入れてちょうだい。」


 流石に鎌も今の彼女の声を聞いて分かってしまった。初めにあった時の覇気は彼女にはなく、この事は彼女にとっては不本意なのだろうと。


 故に彼女の足元には数滴の涙が落ちていた。それを見て少し複雑になってしまった。自分が情けなくも思ってしまうし、かと言ってどうしたらいいのかわからない。

とりあえず彼女同様に背を向ける。互いが互いに背を向けた状態で黙り込んでしまい沈黙が続く。



 どれほど経ったかわからない。アルステノが右腕を伸ばすと忽然と杖が現れ彼女はそれで地面を突く。

 カンッという甲高い音が響くと鎌の足下に魔法陣が出現し輝きだした。


「別にここに思い残すことはないでしょ?転生させるわよ」


「ま、待てよ。三つだけ、三つだけいい…聞きたいことがある」


 半ば強制的に転生させようとするアルステノに制止の呼びかけをする鎌。それに対するアルステノの反応は少し眉を動かしながらも頷く。


「いいわよ。で、聞きたいことって?」


「ひ、一つは俺は転生した後もこの記憶を持ち続けるのか─ということだ。今まで…│夜宵鎌ボクとしての記憶は消えるのか?」


「いいえ、それだったらここパンドラに喚ぶ必要も無いわ。あくまでここは“誕生日”もしくは“その前後二日”に“死んだものを前世の記憶を持ったまま1度だけ生き返らせる”という場所なのよ。だから二度目の転生なんて諦めなさいよ。」


 質問のついでに釘も指すアルステノ。ただ鎌は前半の部分にしかあまり興味はなく聞き流していた。


「二つ目、転生した後でもあっちに──地球に帰えれるの?」


 アルステノの顔が険しくなる。視線を鎌から外し、下を向いたまま顔を横に振った。


「いいえ。向こうには魔力が無いもの…こっちから来る際に魔力は人によって異なるにしろ魔力は供給されるわ。」


 説明をするアルステノの声は段々と重いものになっていた。いつしかこの空間も遠い端の方が黒く覆われている。


「でもあくまでそれは体の中にだけ、簡単に言うと転移して来た人は器に魔力がある状態で、転生…この世界で生まれたモノは器自体に魔力が含まれているの。向こうに行こうと思ったら魔力が全て消えてしまう。それはつまり器に含まれる魔力も消えて器が保てなくなるのよ。」


「…そうか。」


 話を聞いてただ一言ぎりぎり彼女に届くくらいの小さい声でそう言った。正直それ以外の言葉が見つからなかった。


 ハァーとため息を吐く。もう自分はあの世界には帰れない。そう感じると少し寂しい気もして来た…が、


「最後に…歌凪美かなみは──みんなは生きているのか?」


「…少なくとも今は生きてる…かもしれない。」


 その言葉に疑問を抱いた。さっきまで、僕が死ぬまでの過程は見ていたように言っていたのだから…


「かもしれないってまた曖昧な…ハッキリとはわからないの?」


「あの魔術陣ね──単なる転移の魔術陣だったんだけど…誰かが間違えたのね。『時空移動』に偶然なってたのよ」


「ジクウイドウ?」


「そう、名前の通り時間と空間の両方を移動するってこと。知らなかったのだろうけど、あれ少し似てるのよね…。」


 あまりの事で理解が追いつかずにいる。たぶんこれ以上言われれば頭がショートするかもしれないと言うほど熱く感じる。


「要するに、生きてはいるのだろうけど…いつ、どこに現れるか分からないのよ。それこそ海底かもしれないし、上空かもしれない。」


「生きてる…のか?」


「今はね。ただ…本当にいつ現れるか分からないのよ。今すぐかもしれないし…現れたとしても無事でいられるか…」


「………」


 脳裏を過ぎったのは歌凪美、真弓、雄希の危機。もしあれから危険な場所に飛ばされたら…そもそも時間を移動出来るのなら過去なんかに飛ばされたらどうすれば……


「まあ安心しなさい。あれは時間を移動するって言っても過去には行けない。必ずこれから先に出てくるのだから分かったら連絡して上げる。」


「できるの?…てか、さらっと人の心の中読んだのか!?」


「それぐらいできるって言ったでしょ。」


 読むなよ!モラルって物がないのかこの女神には!?人としてどうかと思うはこいつ!


「言ったでしょ、私は女神アルステノ。崇高な存在なの。」


 マジでやだ…


「まあいいわ、あなたの無駄話に付き合ったおかげで魔術陣にも魔力が溜まったよですし…転生を開始するわよ。」


 アルステノがパチリと指を鳴らした。それと同時に魔術陣は光は増してゆき、陣内の文字が動きだし、足をつたって鎌の体を登ってゆく。


「いや、待ってくれ。この仕様は気味悪すぎるというか──」


「いいこと?もう死んでも転生できない。変なこと考えるより、幸せになることでも考えておきなさい。」


 自分の言葉に完全スルーするアルステノにツッコもうとしたが、意外にもその目つきは鋭く巫山戯て言っているものでは無いのがハッキリ分かった。


 目を瞑り、これからの事を想像する。






──家族とは楽しく過ごせるか?


──兄弟姉妹はいるのか?もしいたとして仲良く出来るのか?


──暮らしは裕福なものなのか?それとも貧困なものなのか?


──友達は出来るのか?イジメなどに合わないだろうか?






















──歌凪美たちは無事なのか?


──苦しい目にあっていないか?ケガなどしていないか?お腹は空いていないか?病気になっていないか?命を脅かされるような危機には晒されていないか?守ってくれる人は近くにいるのか?三人とも離れ離れにならず一緒にいるか?……


 そう考えだしたら急に何かおかしな感情に襲われた。いつの間にか涙が溢れてき、今にも足が崩れて倒れてしまいそうな程に震えている。三人と離れて寂しい…というのは少しはあるがそれでは無い。これは──























──悲しみ?














 その言葉が頭を過ぎると同時に目を開いた。ほんの少し息は荒くなっており、肩が大きく上下に揺れてるのが見ずともわかる。


 顔を少し下げ、手を見ると先ほどまで魔術陣の中にいた文字たちが張り付いていた。足にも腕にも紫の光を放ちながら付いている。


「……はぁ、もう今日は疲れたよ。」


 ツッコムのは諦めた。というより何故か今は割と落ち着いていた。先ほど自分を襲った感情は今はどこかに行ってしまったのか感じられない。


 ただ決して、消えた訳では無いのは確かだ。




 顔を上げて前を見ると女神と目が合った。何故かほんの少し目の近くが赤い。ただ僕はそれに気づかなかった。

 それよりも、女神の…アルステノの笑顔に気を取られてたからだ。と言うより、見蕩れていた。


「来世では幸せにね、さようなら。………………ありがとうね。」


 僕に聞こえたのは最初だけだった。そこで意識を失ったからだ。


 白い空間に女神一柱を残して僕の姿は消え、転生したのであった。
















 白い空間に忽然と木製の様な扉が出現しコンコンッとノックされた。


「いいわよ入って、どうせさっきまで見ていたのでしょ?」


 アルステノがそう言うとガチャリと扉は開き、中から長く赤い髪をした美女が入ってきアルステノに抱きついた。


「も~アルちゃん遅いわよ。私待てずに突入する所だったんだから。」


「それだけは本当に辞めてって言ったでしょ。」


「そりゃあそうよね…好きな人間を他の女神に取られたくないものね♪」


「ち、違うわよ!?私は別にあいつなんか…」


 ウインクをしながら彼女がそう言うとアルステノは顔を真っ赤にさせながら首を大きく左右に振る。


「まあ別に女神が人を好きにはなってはいけない…なんてルールとかないからね。別に彼を自分の従僕神にしてもよかったんじゃないの?そういった例なんて今までざらにあったのだか──」


「絶対イヤよ。」


 怒鳴るようにアルステノが叫んだ。やれやれと女はアルステノを抱きつくのをやめて正面に立った。


「アルちゃんが嫌だったら今度私の従僕神にならないか聞いと──」


「そ、それもダメ!絶対にダメなんだからね。」


「はいはい、分かったわよ。(本当に素直じゃないんだから)」


 慌ただしく自分の肩を前後に揺らすアルステノを見てクスリと笑う。この顔を見てるともっとからかいたくなるのだが…


 深刻な表情に変わった。何かを察したのかアルステノも不安に感じ始める。


「…どうしたのよアマテビナ、急に怖い顔しちゃって?」


「やっぱり気づいてなかったのね。」


 ついさっきまでアルステノをからかっていた時と違い、今はのアマテビナの顔は神妙な面持ちだった。そして、言われて考え込む…先ほどまでいた鎌のことを、何かおかしな所があったか…違和感があったのか…。


──それは


「彼…」


──彼女は気づかなければならなかった


不感センス持ちよ。」


──鎌の為にも


「それも…」


──自分の罪滅ぼしの為にも


「神を弑する権利──Zuseゼウス Bloodedブラッディッドを所持したね」

次の投稿はかなり先になると思いますがご了承ください。

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