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エピローグ

今日でちょうど、僕が探偵喫茶に来て一か月。

「は~、やっとお店の修理終わったわね」

「ご、ごめんなさい……。また私、やっちゃった……。怒ると自分でも我を忘れちゃって」

「いいのよ、満笑ちゃん。しょうがない。今日からまた頑張りましょう」

「は、はい!」

 満笑ちゃんがボロボロにした店内もすっかり元通り。本人は未だ落ち込んでいた。

「元気出してよ、満笑ちゃん」

「だって……結局私、またみんなの足引っ張っちゃって……」

「そんなことないよ。満笑ちゃんのお陰で、誰一人怪我することなく、無事なんだから」

 犯人の六月一日以外はね……。

「でも、お店ボロボロにしちゃったし……」

「それに、満笑ちゃんのお陰で犯人の正体もわかったんだし」

「私の……お陰?」

「ガムのことを調べてくれて、ダイイングメッセージの意味がわかったんだ。満笑ちゃん、役立たずなんかじゃないよ。とっても優秀な探偵さ」

「……ありがとう。でも有人ちゃんも凄かったよ。カッコよかった、犯人追い詰める時の推理。凄いよねぇ、もううちのエースだよ」

「はは……エースね……」

 とはいっても、今日で僕はここを辞めるつもりだけど。約束の一か月が来たんだし。

 辞める……? 辞めちゃったらどうなるんだろう? もう満笑ちゃんとは会えない……? この子は僕にとっての恩人、心の中でずっと支えになってくれた存在なんだ。その満笑ちゃんに、もう会えない……。

「どうしたの?」

「え? な、何でもないよ」

「ねえ、私、やっと思い出したよ、有人ちゃんのこと。前に会ったことあるよね?」

「えっ!? お、思い出したの、満笑ちゃんも!?」

「一か月くらい前に、お店に来たよね、有人ちゃん? スペシャルメニューに挑戦した」

 あ、ああ、そっちか……。

「あ、う、うん、そうだったね、そういえば……」

「ビックリしたよ~、あの時。まさか正解されちゃうなんて思わなかったもん。どうしようかと思った」

「ご、ごめん、僕知らなくてさ。ご褒美にその……」

「有人ちゃんが逃げ出してくれて助かったけど、すっごく恥ずかしかったんだよ。初めてのチュー、女の子同士になっちゃうのかって。ただでさえ、チューなんて好きな人としかしたくないもん」

「は、はは……そうだよね」

「でも……今なら思うんだ。もし有人ちゃんが男の子だったら、してもよかったかなぁ~って」

「えっ……!?」

 ……。

「えへへ、ごめんね、変なこと言って。さ、着替えよ。もうすぐお店開いちゃう」



「「「「いらっしゃいませ、探偵喫茶へようこそ!」」」」

 久々の開店でわんさかお客が押し寄せる。とはいってもいつも満員だけど、この店は。

「いや~、やっと営業再開してよかったよ。ずっと満笑ちゃんの顔見れなくて、禁断症状起こしてたからね。まだGルームは復活しないみたいだけど、今日は通常席で満足だよ」

「はは、どうも……」

 百千万億署長も、他の常連さんたちもやってきて、アルテミスに賑やかな日常が戻ってくる。

 そして奴も来店してくる。

「いらっしゃいま……げっ!」

「やあ、子猫ちゃん。今日も僕のために生きていてくれてありがとう」

 すっかりキザっぷり全開の龍我探偵。やはり記憶を失ったままの方がよかったか。

「おおお、龍我くん! よかったよ~、六月一日が捕まって。ワシは最初から奴が怪しいと思っとったんだ。しかしまた君には世話になってしまったね~」

「フッ、大したことない。この王来王家龍我にかかればね」

「おいおいおいおい、あいつ、犯人は龍我やって決めつけとったやろが! なんやあの調子のよさは!?」

「ってゆーか、何でまた龍我の手柄になってんのよ!? 超ムカつくんだけど、本当~!」

 プリプリ怒る聖奈ちゃんと七五三さん。無理もない……。

 すると龍我探偵は僕に、何故か持っていた薔薇の花束を渡してくる。

「これはほんの気持ちだよ、子猫ちゃん」

「……は?」

「その、なんだ……今回はちょびっとだけ命の危険に晒されることもあったが、君が二度も僕に熱い口づけをして助けてくれたこと、それなりに恩に感じているんでね」

 やめろ、それを思い出させるなあああああああああああ!

「け、結構です。お気持ちだけありがたく受け取って……」

「っていうか、ハッキリ言おう! 子猫ちゃん……いや、有人! 君に惚れた! この龍我、二十一年の人生で初めて本気で人を好きになったんだ! 頼む、付き合ってくれ!」

「「「「ええええええええええええっ!?」」」」

 これには店中の人たちが驚いた。こんな店のど真ん中で公開告白する大胆な龍我探偵。もちろん僕が一番驚いているが。

「あ、有人ちゃんは渡さないなりいいいいいいい!」

「そうだそうだ、みんなの有人ちゃんぜよ!」

「ちっげーよ、馬鹿! 有人ちゃんはもう毎晩俺のベッドで寝てるんだよ!」

「何、妄想してるでござる、貴様! 有人ちゃんは拙者の妻でござるぞ!」

 みんな、いい加減気づいてくれ、僕は男なんだってばああああああああああ!

「フッ、愚民どもが。それなら誰が一番有人に相応しい男性か決めようじゃないか。この拳で語り合って!」

「「「「望むところだあああああああ!」」」」

 一触即発ムードの龍我探偵たち。せっかく店が直ったばかりなのに、乱闘が起こったらまた破壊されちゃう!

「はいはいはいはい、そこまでだぜ、お前ら」

 風音さんが木刀を持って、割って入る。さすがこんな時、頼りになる。でも暴徒が多すぎて、一人じゃ危ない……!

 そこでジャーンとギターの音。音彩さんだった。みんながギターの音色に注目する。

「はーい、みんな、久しぶりにあたしの歌、聴かせちゃうから、喧嘩はやめてねー!」

「「「「はーい!」」」」

 龍我探偵以外の男たちは素直に言うことを聞き、七五三さんの歌に集中する。音彩さんのギターに合わせて、曲が始まる。凄いなぁ、本当に音彩さん、何でも弾けるんだ……。

「有人、僕はあきらめないよ。唇の次は君の心まで奪ってみせる」

「は、はは、さよなら!」

 ダッシュで店の奥へ逃げる。とんでもないのに目をつけられることとなってしまった。名探偵のくせに、何で僕が男だってことには気づかない?



「どうしたの、有人ちゃん? 真っ青な顔して」

「い、いえ……」

 ちょうどよかったので事務室へ来て、咲恋さんに今日で辞める報告をする。

「あの、咲恋さん。今日でちょうど、一か月経つんですけど」

「ああ、そうね。じゃあこれからも頑張ってちょうだいね」

「はい、よろしくお願いしま、ええええええ!?」

「もうすっかりうちのエースなんだから、探偵としても、人気ウェイトレスとしてもね。今さら辞めるなんて言われたら困っちゃうわ」

「そんな、約束が違いますよ! だってこれ以上続けたら、本当にいつ、僕が男だってばれるか……!」

「もうばれるばれないの問題じゃないのよ? 今辞めたら、有人ちゃんのファンのみんなにあたしボコボコにされちゃうわよ。何で有人ちゃんを辞めさせたんだって。そしたらあたし、本当のこと話しちゃう。有人ちゃんが男の子だって。で……どうなるかしらね?」

 ず、ズルすぎる……!

「だったら僕はいつまでここで働けば……!」

「さあ? でも有人ちゃん、今は本当に辞めたいって思ってるの?」

「そりゃ辞めたいに……! あ……」

 そこで脳裏に、店のみんなの顔がよぎる。七五三さん……聖奈ちゃん……風音さん……音彩さん……その他のスタッフのみんな……それに……満笑ちゃん。

「ふふふ」

「な、何ですか?」

「気づいちゃってるんだからね? 有人ちゃん、ちょっと気になってる子がいること」

「ええっ!? い、いや、その」

「離れたくないんじゃない? まだ」

「……はい」

「じゃ、いいじゃない。一緒に働きましょうよ、ここまで来たら」

 い、いいのかなぁ……? 結局、嘘の上塗りを続けるってことに……。

 そこへ満笑ちゃんがやってくる。

「あっ、ここにいた! 有人ちゃん、七五三さんのライブ終わったから、フロア手伝ってほしいな」

「あ、ごめん。すぐ行くよ」

 すぐフロアへ駆けつけようとする僕を見て、咲恋さんはニッコリ笑った。どうやら……まだ辞めるのは無理っぽいな。

 フロアへ出て、ウェイトレス業務に戻る。相変わらず事件の依頼なんてほとんどないけど、きっとまた、とんでもない事件がそのうち飛び込んでくるだろう。この店はそういう事件を引き寄せる磁力を持っている気がする。

 このお店は楽しい。喫茶店も、探偵業も。女装した自分に狂喜乱舞するお客さんが多いのが複雑だが、それはそれで少しだけだが、悪い気もしなくなっているのだった。もうちょっとだけ……ここでのアルバイト生活を楽しみたい。そう思っていた。

 一人、お客が帰り、次に待っていたお客が入ってくる。着物を着た年配の女性客で、この店にコーヒーを飲みに来たようには思えない、仏頂面の女性だ。もしかして……探偵の依頼? とりあえず、明るくこう対応する。

「いらっしゃいませ、探偵喫茶へようこそ!」

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