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プロローグ

幼い頃から女の子みたいな顔立ちだった僕。当然ながらそれなりの容姿に関するイジメは受けていた。

 五歳くらいの頃だ。男の友達がいなかったため、女の子と公園で遊んでいると、近所の同い年の子らにからかわれるのだ。

「やーい、やーい、女みたいな顔した奴は、女と一緒に遊ぶのがお似合いだー!」

「おままごとはどっちがお母さん役ですかー? 有人ちゃんですかー? あははははは!」

 王隠堂有人おういんどうあると、これが僕の名前。名前まで男でも女でもどっちでもいけるため、余計に弄られてしまう。

「や……やめてよ……!」

 そして見た目通り、あまり男らしくない性格のせいで、いじめられても言い返すこともやり返すことも出来やしない。そんな自分が尚更嫌だった。そんな時だった。

「やめなよ、そんなこと言うの」

 僕と一緒に遊んでいた女の子が代わりに言う。女の子に助けられる情けなさを感じながらも、エスカレートしないか心配だった。何しろこの女の子、普段から物凄くおっとりしていて、とても喧嘩なんてできそうにない。いじめっ子たちが殴りかかってでもきたら大変だ。

「やーい、女に助けられてやんの!」

「引っ込んでろよー、女のくせにー。このブス」

 するとその瞬間、周囲の空気が一変した。


「何だと……コラ……?」


「「えっ……?」」

 女の子の異様な雰囲気、豹変ぶりにギョッとするいじめっ子たち。

「もういっぺん言ってみろ……」

「な、何だよ……?」

「誰がブスだ、コラァ!?」

 そこから先は地獄絵図だった。とても文章で言い表せないほどの惨い光景が目の前で繰り広げられた。いつもほんわかした女の子が悪魔のごとく変貌し、一方的にいじめっ子たちをボコボコにしている。

「ぐげっ! ぐがっ! ほげっ! も、もうやめて……!」

「ほがぁ! うびゃあ! ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「謝れ、コラ」

「「すいませんでしたぁああああ! 逃げろー!」」

 一目散に逃げていくいじめっ子たち。フーッと息を吐き、何事もなかったかのようにいつもの顔に戻る女の子。

「やだ、ごめんね、恥ずかしいとこ見せちゃったね……!」

「い、いや……」

 正直ドン引きだったが、一応助けてもらったわけだから、感謝しなきゃいけないのに……怖い! 怒るとこんな怖い子だったのか……。人は見かけによらないというか、なんというか。

「またやっちゃったなぁ……ママにもきつく言われているんだよね。もっと女の子らしくしなさいとか、暴力なんてもってのほかだって」

「でもそんなこと言ったら……僕だって似たようなもんだよ。男のくせに、女みたいって……!」

その後、僕は女の子の前で大泣きした。助けてもらった上に涙なんてカッコ悪いの極みだが、なにぶん五歳児なんて所詮こんなもの。ピンチを助けられた後は泣くものだ。

 そんな僕に対しても、女の子は優しく慰めてくれる。

「ほら、もう泣き止んでよ」

「……グスッ、でも……悔しい、僕……! どうしたら男らしくなれるのかなぁ……?」

 そんな僕の声に対して、女の子はこう言った。

「……男らしく、じゃなくて、自分らしくでいいんじゃないかな?」

「えっ……?」

「男の子に生まれたから男らしくとか、女の子に生まれたから女らしくとか、そうしなきゃいけないって誰かが決めたわけじゃないんだし、それなら自分らしくするのが一番いいんじゃないかな?」

「……」

 今では引っ越して離れ離れになってしまい、彼女の顔も名前も覚えていないけど、彼女がこの日、言った言葉は、今でもハッキリと覚えているのだった。

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