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「--そんなことがあったの……でも、解決してよかったわ」


 ターコイズレイクでの出来事を聞き終わったボーラは、安堵のため息を吐くとカップを持ち上げた。テーブルを囲む誰よりも優雅な仕草でコーヒーを飲む。

 ヴァインはその様子を見ながら、「長男は奔放に育った」というバンの言葉を思い出す。話しをしていたときには、まさか「姉」と紹介されるとは想像していなかった。


「本当にありがとう、大事な家族を助けてくれて。何かお礼を--」


「いやいや、ご両親から報酬もいただいたし、ご馳走してもらったからイイですって」


 貰いすぎは悪い、とカインホークが両手を振って断る。

 「弟の仲間に挨拶がしたい」と言ってボーラがヴァイン達を連れてきたのは、大通りを外れたところにある茶房だった。何度も利用しているのか、メニューを把握しているようで、遠慮をする間もなくテーブルにコーヒーや様々な茶菓子が並べられた。 


「でも、今二人だけなのね。アタシも今後は、もっと家に帰るようにするわ」


「うん。二人とも、絶対喜ぶから」


「みんな仲良しなのねー、ゲイルのお家」


 二杯目の練乳入りコーヒーをかき混ぜながらソニアが言う。随分味が気に入ったらしく、自分で払って追加で注文しようとしていたが、結局「奢るから」とボーラに押し切られていた。


「そういや、ボーラさんって一人で仕事を?」


「ええ、自由気ままが好きだから。まあ、他の冒険者と協力しあうこともよくあるけれど」


 どこかのギルドに所属するというのはしない主義らしい。ゲイルもそれは知っているらしく、頷いている。


「でも、出会いが結構あるから面白いわよ? この前も、魔族の侍の子と一緒になったし」


「サムライ!? そ、その話詳しく」


 ボーラの言葉に、カインホークが目を輝かせ身を乗り出した。


「カインって、東方の文化好きなん?」


「海の向こうの異文化って、ロマンだろう! 昔みたニンジャは強くて格好良かった……」


 ガデスの問いに、カインホークはうっとりと答える。どうも忍者の戦いを見たことがあって、好きになったようだ。その様を見て笑いながら、ボーラは話を続ける。


「うふふっ--青い目がキレイで、黒い髪もサラッサラの、穏やかな感じのカワイイ男の子なんだけど、抜刀が凄く速くて」


「ああ、「居合い」という技ですね」


「そうそう、そんな名前。アレ、目で追えないのよ。気が付いたら斬ってるって感じ。でもその子、まだ修行中だって言ってたわ。連絡がつかなくなった友達を捜しながら、修行してるって」


「イアイ……見てみたい」


「まあ、それは同意ですが」


 東方刀を扱う「侍」と独特の武術を会得している「忍者」は、東方の島国が発祥だ。こちらにも海を越えて来た者や、東方人から技術を教わった者などがいることにはいるのだが、ヴァインはルザルファス以外に見たことがない。


「あれは一見の価値ありよ--あら?」


 ボーラがふと、視線をカインホークから、黙々とコーヒーを飲んでいたフェリルに動かした。視線に気がつき、フェリルが顔を上げる。


「--どうしました?」


「ううん、渋い顔して飲んでたから、苦いの嫌いなのかしら、と」


 フェリルは一瞬だけ虚を突かれたような顔をし、すぐに苦笑いを浮かべた。迷うように視線をさまよわせ、やがて何かを決断したのか小さく頷く。


「コーヒーはおいしいですよ。そうじゃなくて……さっき、昔の知り合いを見かけたもので」


「えー、声掛ければよかったのに」


 ソニアの言葉に、フェリルは苦笑いを浮かべるだけだ。思い出したかのように、話題を変える。


「--ああ、そういえば、さっきは護衛の仕事中だったんですか?」


「え? あ、さっきのカップルね。ラルバ=ダルバから観光に来たそうよ」


「らる……ば?」


「ラルバ=ダルバ。こっから海渡って北東の、遺構島の入り口にある町だな。シルバーフィールドからも定期船が出てるんじゃないか?」


 首を傾げるゲイルに、ガデスが説明してやる。

 ラルバ=ダルバの遺構島は、冒険者には有名な場所だ。遙か昔、強大な力を持った魔道士が所有していたと伝えられており、島の中には多数の遺跡が存在している。様々な魔物が徘徊しているものの、失われた技術で作られた武具や装飾品などの宝が見つかるため、島の入り口となる町には一攫千金を夢見る冒険者が絶えず訪れるという。


「ふーん、まさに冒険者向けの島なのね」


「まあな。中には入るたびに構造が変わる迷宮もあるとか、ないとか」


「それ怖いなー。迷って出られなくなりそう」


「……まあ、怖い場所は決まってるし、案内を生業とする連中もいるから大丈夫だよ」


 金さえ払えば、とフェリルは付け加える。


「そうね。あの島は冒険者を相手にする商売が盛んだから、けっこう活気があるって言ってたわ。一度行ってみるのも良いかもしれないわよ?」


 そう言うと、ボーラはコーヒーを飲み干した。カップをそっと置き、立ち上がる。


「さて、そろそろアタシはお仕事に戻らなきゃ。みんな、お話ししてくれてありがとうね」


「もう?」


「依頼人のご厚意に甘えすぎるのもね。--また会いましょ。がんばりなさいな」


 名残惜しそうなゲイルの頭を撫でてやってから、ボーラは店を出ていく。その後ろ姿を見送っていると、フェリルが席を立った。


「--やっぱり、知り合いにちょっと会ってくる。宿で合流するから」


 そう言うと返事も待たずに立ち去る。何か言い掛けたのか、わずかに腰を浮かせたカインホークが、困ったような顔でヴァインの方に振り向いた。


「えっと……いいのか? なんかいつもと調子が違ったような」


 確かに、ずっと考え事をしていたようだった。その原因について、ヴァインには思い当たる節がないわけではないが、それを話していいものか。


「「昔の知り合い」が気になっていたのでは? 会おうか無視するか、考えていたんだと思いますよ」


 嘘は言っていない。どういう知り合いだったかを伏せただけだ。


「まぁ、どんな相手かは知らないが、会うか迷うってことは……学生時代の元彼女だったりしてな?」


「えっ? 彼女いたの!」


 ガデスが適当に言ってみたであろう言葉に、ソニアが食いついた。見ればカインホークも興味がありそうだ。


「いや、聞いたことないけど。でも神学科の女子はほとんど可愛くて優しいお嬢様だったみたいだから、いい子はいたんじゃねえかなー? と」


「ほほう。モテそうだしな--これは、後で問いつめなきゃならないな」


「うん、ぜひ聞かないと」


 話しを誤魔化すどころか、よけい興味を持たれたようだ。たしなめるようにガデスを見るが、愛想笑いを返される。フォローをする気はないらしい。


「……後で怒られても知りませんよ?」


 「自分のせいではない」と後で弁解できるよう、ヴァインは一応言っておいた。




「3」へ続く

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