四
サリがマリアと出会ってから、三月が過ぎた。
初めのうちは意思疎通もままならなかったが、決してマリアの言語能力が劣っているというわけではない。彼女はこの三月で見る見るうちに様々な物事を学びつつある。
今、二人は比較的大きな町におり、当然のことながら『世界樹の眠り』の教会がある。
マリアを連れ出してから一月ほどの間は、サリも徹底的に『世界樹の眠り』に関わることを避けて、小さな村ばかりを渡り歩いた。だが、追っ手の気配は微塵もなく、教団に何か動きがあるわけでもない。二月もすると、教団にマリアを探す気が全くないことを確信した。あるいは、そもそも、教団とは関係なかったのかもしれない。
結局、あの場所は何だったのだろうかと、サリは今でも疑問に思う。
見た事も無いような場所に、ろくな世話もされずに閉じ込められていた少女。
誰が、何のために行っていたのか。
教団にしろ、それ以外の何者にしろ、いずれにしても、三月が経った今でも、マリアを追う影は皆無である。
一緒に過ごすようになってから、サリは、マリアの常識と語彙の乏しさに、とにかく驚かされた。少女がわかっていたのは、食事、沐浴、就寝の三つのみである。
だが、その『食事』に関しても、初めて大衆食堂に入った時にはとんでもない行動に出たものだった。マリアはキョロキョロと周囲を見回したかと思うと、料理が乗っている手近な卓に座り、勝手に食べ始めてしまったのだ。当然、本来、その料理を注文した者は目の前にいた。サリは慌てて謝り、マリアを食堂から引っ張り出して、自分達が頼んだものでなければ食べてはいけないことを説明したものだった。
幸い、記憶力はとても優れているようで、言葉も常識も、一度きちんと説明したら完璧に吸収してくれている。しかし、裏を返せば、学ぶ能力のある子供を、余程長い間、放置していたということにもなる。サリにはそのことが腹立たしい。
マリアをあの場所から連れ出して正解だったと、サリはつくづく思う。そして、同じような目には二度と合わせるものかと、心に決めるのだった。