其の一
めくるめく春。
4月は多くの人々にとって、転換期ともいえる月だ。
かく言う俺、河上祐樹も高校2年として、黒の学ランをシャキッと着こなしている。
私立白雲高校の新学期、あっという間に1年が過ぎた訳だ。
(あ~あ、やっと終わった‥‥‥)
体育館での校長の長ったらしい始業式が終わり、クラス分けの掲示板へと歩き出す。
「えーと、俺は2―2か」
「よっ! 元気にしてたか?」
自分のクラスを見つけた瞬間、背後から肩をガッチリ組まれる。
「そうくると思ってたよ、北沢」
彼は北沢颯太。茶髪に筋骨隆々とした根っからの体育系であり、入学以来からの友達だ。
「何で分かった?」
「逆に分からない方がおかしいだろ」
北沢は正直者、というよりいつも素をだしているという感じで、嘘は下手、しようとする行動はすぐ周囲に感づかれる。
「こっちはいつも通りさ。ところで、朱音は見なかったか? 合格したとは聞いたんだが‥‥‥」
「久しぶりだね、祐樹くん」
黒髪丸眼鏡に三つ編ツインテールの、地味だが明るい幼馴染。
彼女、伊賀専朱音とは趣味でも何でも気が合う間柄だ。
「よー、久しぶり」
「ねえ、例の新作ゲーム、予約した?」
「いや、実を言うとまだなんだよな~。新ハードが出るかどうか分からないし」
例の新作ゲームとは、延期に延期を重ねた、剣と魔法のファンタジーRPGの新作。
同シリーズの過去作は、12の職業が用意され、冒険やアイテム製作、マイハウスのデコレーションなど、やり込み要素ふんだんな神ゲーだ。
それが更にパワーアップして登場したのだから、買わない訳にはいかない。
「でも買うよね?」
「それはもちろん」
「じゃあ発売されたら一緒にプレイしようね」
「ああ、楽しみにしているよ」
(これでホントに付き合ってないのか?)
北沢は彼らの仲睦まじい様子を見て、まだ彼氏彼女ではないのかと顔に出る。
「まだ告って無いからな」
「エッ! 本音言ってた?」
「目が言ってる、顔が言ってる」
「北沢くんって、正直だよね~」
アハハッ、とはぐらかすしかしようがない。
もっと話をしたかったが、時間は迫ってきている。
「そろそろ行かないとな。朱音、また後で」
「そうか、学年がひとつ下だったっけ」
「北沢、それくらい分かるだろ」
「帰りは正門で待ってるから」
「分かった」
自分の教室へ入った後は、宿題の提出やその他諸々が終わればすぐに帰れる。
のだが、入った瞬間から、何か変な視線にさされる。
「ねえ聞いた?」
「あいつ彼女いるのに‥‥‥」
「マジ酷いわ」
おまけにあちこちからひそひそ話。
どうも悪い意味で噂されているらしい。
「何だ? 何か変だな。僕のことみたいだが」
「祐樹、お前なんか悪い事でもしたか?」
「いや全くしてないが」
思い当たる節もなく、訝しっていたところ、担任の先生が入ってくる。
「お前らー、席に着け。ちゃっちゃと帰りたいだろ~?」
教室中に少しばかり笑いが響く。
中には「先生も帰りたいのかよ!?」とツッコむクラスメイトもいたが、そのおかげか、何事もなく予定は進んだ。
「さてと、正門に行くか」
「すまん祐樹、ちょっと来てくれ」
待ち合わせ場所へ行こうとしたが、先生に呼び止められる。
「何ですか?」
「いいから、とりあえず来てくれ。颯太も一緒にな」
「「ん?」」
職員室へと呼び出された祐樹と颯太。
来た瞬間、先生から驚愕の事実を知らされる。
「祐樹、お前にセ○レがいるとかどうとか、変な噂が立ってるぞ」
「「‥‥‥はあああぁぁッ!?」」
一瞬フリーズしたのち、有り得ないとばかりに叫ぶ。
「耳が痛い、ちょっと落ち着け」
「いやいや、何のジョークっすか!?」
「どういうことですか!? 説明してください!」
「いやな、春休み辺りにそういう噂が出回ったらしくてな。まあ嘘だろうけど」
「先生、何で嘘って分かるんですか?」
北沢はもちろん彼を信じているが、何故嘘と気付けるのか疑問に思う。
「先生はな、祐樹はゲームオタクでそういう事する暇があったらゲームをしてるって分かるから」
「先生ッ‥‥‥!」
祐樹は自分のゲーム愛を理解してくれていると、感動のあまり声を漏らす。
「それに、祐樹は朱音にゾッコンだろ? 北沢がよく話していたぞ」
「感動を返せ!」
「ええっ!? まだ告白していないのか。そういうヘタレなところ、直した方がいいぞ」
「よよよよよよよ余計なお世話だ!」
かなり動揺しているのがバレバレだ。
普段の北沢と同じくらい分かりやすい。
「まあともかく、誰か嘘を流しているって事だ。先生も見つけ次第きつーく叱りつけるから、何かあったら頼ってくれよ」
「ありがとうございます」
礼を言った後、これ以上朱音を待たせる訳にはいかないと、大急ぎで正門へ向かう。
「ごめん、待たせ‥‥‥」
「あら、やっと来ましたわね」
「ゲッ、何でお前がいるんだ?」
朱音と対峙するように偉そうに悦に入っているのは、エレオノラ・クドラクという。
オーストリアからの留学生であり、学年がひとつ上の、ブロンド髪に翡翠色の瞳をした、いかにもお嬢様らしい尊大な奴だ。
後ろに控えるはカメリア・メリンテといって、茶髪のポニーテールにエレオノラと似た瞳をした、彼女のメイドだ。
「ただアドバイスをしていただけですわ。このようなふしだらな男とは別れた方がいいと」
「セ○レが10人もいるとは、ドン引きです」
エレオノラとカメリアが口をそろえて祐樹を批判する。
「何噂を真に受けているんだか‥‥‥」
「そんなの、嘘に決まってる!」
「そうだそうだ。祐樹はな、モテないしゲームにしか興味を示さないからな!」
「おい北沢、喧嘩売ってんのか?」
確かに彼は瘦せ型で黒目黒髪という、いたって平凡な男子高校生。
スポーツマンでもなく、成績は中の上。少なくとも、朱音以外の女からモテまくる要素は全くない。
「ともかく、これ以上祐樹を貶めるような嘘はやめて! でないと川に放り込むわよ!!」
大人しい見た目をして、意外とえげつない発言だ。
「川に放り込むのはやめてくださる?」
朱音の単なる脅し文句のはずだが、エレオノラの頬に一滴の冷や汗が流れる。
「ん? 怯えてるようだが、そんなに怖いか?」
川をナメてはいけないが、それにしても怯え方が妙だ。
「怖いに決まってますよ! それやられたら死亡確定で―」
「カメリア!」
これ以上は言うなと、エレオノラが一喝する。
「死亡確定って、吸血鬼じゃあるまいし‥‥‥」
「確か吸血鬼って流れる水に弱いんだっけ? 自力で泳げないとか」
アハハッ、祐樹と北沢はジョークだと思って笑い合う。
がしかし、朱音のたった一言でその笑いは突き崩される。
「いや、こいつらマジの吸血鬼だよ」
「「‥‥‥へ?」」
いや馬鹿なと耳を疑う彼らを尻目に、エレオノラは「勘づかれたのなら仕方ない」と高笑いし出す。
「いかにも! 我らは吸血鬼で間違いない。それで? たかが人間如きが、わたくしに勝てると思いで?」
彼女の口元を見ると、真っ白な、そして針のように鋭い牙が輝く。
カメリアも牙を剝き出しにし、彼女らの目は狩人そのものの目となる。
(あー、これ死んだわ)
祐樹は、血を吸われて終わりだな。そうでなくとも、単純な腕力差で押し負けると諦観する。
「って、何だよその耳!?」
右へ振り向くと、北沢が朱音の頭―にあるフサフサととんがった耳を指差し、唖然としていた。
「‥‥‥ケモ耳?」
よく見ると、毛先だけ白い、黒い尻尾まで生えている。
「もしや妖狐では?」
カメリアが静かに驚き、目を見開く。
「ええ、見ての通り妖狐です。それよりも‥‥‥もしかして祐樹の血を吸いたかったから、嘘を流したのかしら?」
「そうよ、非童貞の血なんて美味しくないもの。だから邪魔者を引き離したかったのに、無駄だったようね」
「遺言はそれだけ?」
「えっ?」
聞こえた瞬間、エレオノラのあごに強烈なアッパーカットが浴びせられた。
それはもう美しい半円を描きつつ、グラウンドを斜めに横切り、その奥にあるプールへドボン!
「おっ、おおおお嬢様!?」
朱音の右手には、いつの間にか鉄製のメリケンサックがはめられていた。
ぶっ飛ばされた主人を見届け固まるカメリアの前に寄り、そして右手を肩に優しく乗せる。
「いいカメリア。すぐに火消しをして。でないと‥‥‥処すよ?」
ニッコニコの笑顔を彼女の真ん前から向ける朱音。
その笑顔を向けられれば、誰もが理解する。「絶対に逆らってはいけない」と。
「わわっ、分かりましたあぁぁ!」
本気で恐れたのか、カメリアは主人を助けに向かわずに猛ダッシュで自宅へと逃げ出す。
「さてと、お昼はハンバーガーでも食べに行く?」
「「いやツッコませろよ!!」」
彼らの絶叫もむなしく? 彼らは近くのハンバーガーショップへ入店する。
「で、妖狐って本当‥‥‥だよな」
フサフサの耳と尻尾を見た後だから、疑う余地はないのだが、それでも祐樹は幻覚を見たのではと自分を疑う。
「本当よ。今まで内緒にしてたけど」
「妖怪が実在してるのか‥‥‥いやあビックリした!」
「北沢、声が大きい」
店内で騒ぐなと、祐樹は彼をたしなめる。
それに人には言えない事情だ。聞かれでもすれば大問題となること間違いない。
「大丈夫よ、君たち以外には見せてないから」
「幻術で誤魔化しているのか?」
「正解! にしても、祐樹くんっていつも理解が早いよね」
道理でまだ人が多かった正門でも目立たなかった訳だ。
おそらく、耳や尻尾だけでなく姿そのものまで隠していたのだろう。でなければ、ああも吹っ飛ばされたエレオノラに誰も気付かない訳が無い。
「まあな。ところで、食べ終わったらどうする?」
「えっ? ‥‥‥問い詰めないの?」
自分が妖狐であることを追及されると覚悟していた朱音にとって、それは肩透かしであった。
「最初はまあ、聞こうとは思ってたけどな‥‥‥」
少し間を置き、北沢が切り出す。
「だからといって今までが無くなる訳じゃない。それに、朱音は朱音だろ」
その一言ほど、暖かいものはない。
友達を信じて良かった。次に朱音が言うべき言葉は、ひとつしかない。
「ありがとう。これからもよろしくね」
「おうよ」
「ああ、もちろんさ」
彼らが友情を確かめ合った一方、仲が過去一番悪くなった者達もいた。
「カーメーリーアァ!!」
木造二階建て、青と白のモダンな一戸建て賃貸。それが彼女たちが留学先たる日本における住まいである。
その玄関の片開き戸を開け、びしょ濡れのままのエレオノラが怒りを露わにしながらメイドを呼ぶ。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「なに見捨ててくれてるのよ!? 危うく溺死するところだったじゃない!!」
「殴られたあごは無事なので?」
「痛いわよ。吸血鬼の治癒能力がなかったら粉砕されたままだったでしょうね」
うーわ、やっぱり強烈だったんだ。あの時逃げて大正解だったなとカメリアは内心自分で自分を褒める。
「お嬢様、お風呂ですが‥‥‥」
「さすがカメリア! 気が利くわね」
「今から洗いますね」
思わずズッコケそうになるエレオノラ。
激怒しそうになるのを必死に抑え、震えた笑顔で理由を問う。
「さっきまで何をしていたのかしら?」
「パソコンで画像編集技術を駆使し「祐樹のそっくりさん」をでっち上げて、実は人違いでしたと噂を上書きしていました」
「台無しにしてどうするのよ!?」
いつもの高貴な態度はどこへやら。
あの敗北があまりに衝撃的だったのか、エレオノラは余裕をかなぐり捨ててしまっている。
「仕方ないですよ。最初からでっち上げでしたし、あの妖狐に勝てないでしょう」
あれは絶対強者。かの者の逆鱗に触れるべきではないと、カメリアの本能が警笛を鳴らし続けている。
「‥‥‥そう簡単に敗北いたしませんわ」
「はい?」
「このエレオノラに泥を塗った罰よ! あの二人の恋仲をめっちゃくちゃに破壊してあげるわ!!」
カメリアは(リア充爆発しろ的なヤツ?)と、主の陰湿さにドン引きした。
しかしさすが一流メイドといったところか。本当はノミを見る表情を浮かべそうになるが、全く覚らせないすまし顔で風呂を掃除しに行くのであった。
(にしても、どう立ち回ろう‥‥‥?)
その立ち回りとは主を守る為でなく、自分がいかにして生き残るかといったもの。何故なら、あの妖狐と敵対した時点で主もろとも全滅すると悟っているのだ。
事実、翌日から学園生活は本格的に始まったのだが、そこでエレオノラは毎日煮え湯を飲まされ続けることになる。
―月曜日、朝の通学路。
北沢がサッカー部の朝練で先に学校へ行っていることをいいことに、祐樹と朱音は二人で会話をしながら歩いている。
「朝からイチャイチャして‥‥‥許せませんわ!」
やっぱり目的変わってる? と主の背後から白い目を向けるカメリア。
それに気付かずエレオノラは自身のメイドにある命令を下す。
「あの陰キャに雷でも落としなさい!」
「それ死んでしまうのでは!?」
「アフロヘアになって恥をかかせる程度でいいのよ」
「えぇ‥‥‥」
そんな上手くいく? と疑いつつ、カメリアは短い木の棒を構える。
それは月桂樹に自らの髪を芯としたロッド。滑らかに研磨された赤褐色で、流さは27センチ程。杖先はシンプルな円柱状だが、持ち手部は長く渦巻き、末端には風をモチーフにした意匠が施されている。
「えー、来たれ来たれ雷よ。かの者を貫き給え~」
手加減の為か、それとも本当にやる気がないのか、かなり脱力し切って呪文を唱える。
が、電光は祐樹には落ちず、エレオノラの背後へと落ちる。
「‥‥‥お嬢様」
驚いて固まっていると、背後にいるメイドから半泣きで声を掛けられる。
振り向くと、なんとカメリアの方がアフロヘアになってしまっているではないか。
「本日は諸事情により欠席と伝えてくれますか?」
「あー‥‥‥ええ、分かったわ」
ハンカチをかぶり、どうにか髪を抑え込みつつ大急ぎで来た道を戻るカメリア。
一生忘れない。カメリアを見届けた後、護符をヒラヒラと見せつけながら一瞬だけ「ニタァ」と嘲笑う朱音の顔を。
(あんの女狐がぁぁぁ!!)
悔しさをバネに翌日の火曜日、今度は標的を朱音に変えて魔法で水をぶっかけるという作戦に出る。
(フフフッ、来たわね)
体育の授業終わり、グラウンドから更衣室へ向かう朱音を狙う。さすれば、下着が透けて見え大恥をかくだろう。そこまでは良かった(?)。
一日たっても髪が直らないカメリアからロッドを借り、樹木に隠れつつ呪文を唱えようとする。
「水―」
「妖焔」
呪文を唱える間もなく、右から全身を包むには充分な大きさの蒼い火球に殴られる。
「イギギァァァァァーーー!?!?!?! 水! 水よォーーー!!」
少なくとも10メートル以上は離れていたはず。
それなのに朱音から先手を打たれ、消火の為に自分がずぶ濡れになる羽目になる。
「朱音~、今何か言った?」
「言ってないよ。気のせいじゃない?」
何事もなかったかのようにクラスメイトと歩く朱音。
彼女とは反対に、二日目にして身も心もズタボロなエレオノラ。
(一体どうすれば―)
ふと、頭にある男が浮かび上がる。「将を射んとする者はまず馬を射よ」、なるほど素晴らしい名言だ。
(フフッ、まだ諦めませんわ)
更に水曜日の昼休み、二人はある男を廊下で呼び止める。
「北沢といったかしら? 話があるのだけど」
「急に何すか? 俺今から飯食いに行くところなんすっけど」
「ゲームをしましょう」
「ゲーム?」
不敵に笑うエレオノラを見て、何のつもりだと疑う。
そこへやっと髪が直ったカメリアが淡々と説明を始める。
「ポーカーをして‥‥‥」
「あっ、俺ポーカー知らない」
「ではババ抜きをしましょう。勝てばあなたに100万円を差し上げます」
「おお、マジ!?」
ちょうど大金が、欲しい物の為に必要である彼にとって、美味い話だ。
「ただし、負ければ卒業までお嬢様の手下になってもらいます」
「大丈夫大丈夫、絶対勝つから」
何の根拠もなく自信満々に勝負を挑んだ北沢。
その結果を受け、木曜日に教室で祐樹に相談を持ち掛けた。
「‥‥‥で、瞬殺されたと?」
「かっちょいいバイクが欲しかったのに、チクショ~」
(そもそも、その大金自体用意されている訳なくね?)
北沢が負ける前提ならそれもあり得るだろうという祐樹の考えは、案外間違っていないように思える。
「俺って、顔に出やすいんだな」
「今更!? だからポーカーフェイスが必要なゲームはするなと言ってるだろ」
「どうにかならね?」
祐樹は(ぴえんみたいな顔で懇願されてもな)、と呆れ果てる。が、同時に利用できるという悪い考えが浮かび、ある手紙を机の下から取り出す。
「まあ考えておくよ。それよりも、詐欺には警戒しろよ、分かったな!?」
放っておいたらいとも簡単に詐欺られそうだと思い、友として忠告しておく。
「ところで、これについて何か知ってるか? 朝投稿したら下駄箱に入ってたんだけどさ」
ピンク色の封筒に入れられたラブレター。明日の放課後に体育館裏に来てほしいと文末に書かれている。
怪しいったらありゃしないので、試しに北沢に見せてみたのだが‥‥‥
「えっ、い、いや。知らないよ」
声が震えている上、目も明らかに泳ぎまくっている。
祐樹は確信する。これは黒だと。
「分かった、ありがとう」
「おうよ!」
本気で誤魔化し切れたと信じる北沢とは違い、祐樹は慎重に事を進めようと計画を練る。
(週末には絶対に空けたいしな‥‥‥)
この四日間はカメリアの本気の火消しのおかげか、例の噂も消えつつあり、どうにか平穏な学園生活を送れている。
自分だけだと3対1で不利だと思い、唯一頼れる味方を呼び、金曜日の放課後、体育館裏へと足を運ぶ。
「飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのこと、よく来たわね」
「プッ‥‥‥ハハハハッ!」
ああやっぱりと、仁王立ちしているエレオノラと、背後に控える二人を見て大笑いしてしまう。
「何が可笑しいのかしら?」
「カメリアに北沢まで呼んで、もしかして二人に取り押さえさせたところを吸血するつもりか?」
「何故それを!?」
「北沢さん、まさか‥‥‥」
予想外なことに図星だったようで、カメリアは正直すぎる北沢に疑いの目を向ける。
「いや北沢はそこまで言ってないぞ。偽ラブレターは挙動不審だったが」
「あれ騙し切れてなかったの!?」
ここで何故かショックを受ける北沢を無視し、祐樹はある助っ人を呼ぶ。
「朱音~、あとは頼んだ」
「「「エッ?」」」
三人が驚き固まっていると、ゆっくりとした足取りで朱音が現れる。
彼女の右手のひらから蒼い火球が生まれ、それが直線状になったかと思うと、なんとびっくり! 火は刀へと変貌する。
「ねえクソヴァンパイア、まさか本気で死にたいのかな?」
笑顔は満点、怒りは億点。刀を右手で振り上げ、左手を添えるという構えをとり、臨戦態勢を取る。
「示現流か、それ」
「マジすいませーーーん! ババ抜きで負けたばっかりに裏切っちまった。謝罪ならいくらでもします!!」
祐樹はその構えは見覚えがあると思っていると、ガチの殺気を感じ取ったのか、北沢はスライディング土下座を決める。
「北沢、よくも裏切ってくれたわね」
「お嬢様、負けないで下さいよ」
「ッ!? ええ、もちろんよ」
我がメイドの高い忠誠心に感心するエレオノラ。
だがその感心は一瞬にして塵と化す。
「お嬢様が負けたら次は私の番ですので」
「カメリア!?」
(こいつ、意外と忠誠心が無い‥‥‥?)
エレオノラは衝撃を受け、祐樹はキリッとした表情で発言するメイドを見て、ドン引きする。
「二人は邪魔さえしなければ見逃すつもりよ。だがエレオノラ、テメェは駄目だ」
「あの、ちょ」
「覚悟ーーーーー!!!」
「いいいいいいやアアアァァぁァぁぁぁ!!!!!」
蒼き炎の斬撃波でぶった切られるエレオノラ。
不死身故に死ぬことも、また火傷を負うこともなかったが、今度は長いこと火だるまにされたまま捨て置かれてしまう。
というのも、カメリアが水魔法をかけても全く効果が無く、北沢が慌ててバケツの水を汲んできても意味がなく、どうしようもないのだ。
「しばらくすれば消えるから、大人しく反省して」
朱音は冷たく吐き捨て、その場から去り行く。
さすがに祐樹は同情し、自販機で水を買い、火が消えるまで居続けた。どういう原理か服は焦げはしたが燃え尽きず、買って来た水を渡し「じゃあな」と言って家に帰る。
後日、カメリアから聞いた話では、「もう諦めたようです。まあ、これで私も平穏に過ごせますから良いのですけど」という。
あれで不登校にならず、いつも通りの態度を崩していないのだから、彼女の精神力には驚くしかない。
―日曜日―
朱音は祐樹の家に遊びに来て、一緒にゲームをしている。
それ自体はいつものことだが、今までと異なり、朱音は狐耳と尾を隠す必要がなくなった。
「うわしくじった、掩護頼む!」
「オーケー、任せて」
ファンタジーRPGにて、何度もたどり着いたボス部屋。
ボスたるエンシェントゴーレムからは、希少な鉱石系アイテムが超低確率でドロップする。一度や二度では手に入らないといわれるほど。だからこそ熱中するともいえる。
「宿題はやったの?」と途中で親から言われる心配もない。何故なら二人とも既に終わらせているからだ。
「怯んだ!」
「ナイス朱音」
祐樹は大剣を、朱音は弓を装備として選んでいる。
朱音のチャージ攻撃でゴーレムが怯んだ隙に、祐樹は回復薬で体力を回復させる。
基本は祐樹がヒット&アウェイでヘイトを請け負いつつ、朱音が援護射撃をかます。このボスとは47戦目。行動パターンも完全に読み取っているので、まず負けることはない。
「よっとッ」
「これでトドメ!」
祐樹が華麗なバックステップで回避に成功した瞬間、朱音が必殺技を放ち、これが決定打となる。
「おっ、これは‥‥‥」
「「イェーイ!」」
遂に手に入れた希少な鉱石系アイテム〈オリハルコン〉。
念願のアイテムが手に入り、思わず顔を見合わせ、喜びのあまりハイタッチ。
「手伝ってくれてありがとうな」
「大丈夫、こっちも手伝ってもらうから」
オリハルコンは祐樹が新たな大剣を製作するのに必要なアイテム。それの入手を手伝うかわりに、今度は朱音に協力するという条件を交わしていたのだ。
「ところで、朱音が欲しいのは何なんだ?」
「それはね‥‥‥」
彼女は尾をゆったりと祐樹の背に当てる。
「いつも一緒で、ゲームも楽しめて、自分が妖狐だって知っても、すぐ受け入れてくれた人」
「そうか」
次の瞬間、祐樹は朱音の左頬にキスをする。
驚き、顔を赤らめて振り向いた朱音に、祐樹は告白する。
「好きだ朱音、付き合おう」
「‥‥‥祐樹くんがそんなにカッコいいなんて」
「嫌だったか?」
「ううん、こちらこそよろしくね」
普通じゃないけど普通。
ようやく始まったばかりだが、これかも、きっと―
普通じゃない普通・終
―あとがき―
おっひさー、リキュ・プラムで~す。
長いこと投稿出来ていなかったので、そういや学生時代に文芸部で書いた本作は個人では投稿してなかったな。なら少し手直しすればすぐ投稿できるぞ。という訳で「普通じゃない普通」を投稿させていただきました。
それはさておき今回は恋愛だったりギャグだったり‥‥‥プロット作らず書くとちょっとまとまらない感があるなこれ。
一部登場人物の名前にはちゃんと意味を持たせました。伊賀専は厳密には伊賀専女で、意味はキツネの別名。カメリアは椿、エレオノラ・クドラクは吸血鬼にされたエレオノラ・アマリーという公爵夫人の名と、クドラクはスラヴの民間伝承の吸血鬼の一種から取ってみました。
男性陣は特に意味なし。だって思いつかなかったし。
つか恋愛ものなんて書ける訳ないんだよな~、だって彼女いない歴=年齢だし。
それ以前に書くメインはファンタジー系で、恋愛ものは守備範囲外。漫画などで読むのは楽しいけどね。
でもまあ一緒にゲームをプレイするのは楽しいし、またやりたいとは思ってる。
そんな訳で本小説内でも触れた「ファン○ジーライフ」、ななっ、なんと! 有料DLC追加決定!! 続報を待ちわびています!!!
以上!!!!




