教科書に載った男
「教科書に載るような男になる!」
それがあいつの口癖というか、目標だった。
「西山延武」|
今日、あいつは教科書に載った。
「悪魔に魂を売った男」として。
俺と「岸旭」、「大友宗円」、そして延武
家が近所だったということもあり、幼稚園から小学校、中学校と仲が良く、遊びに行くならこの四人
自他ともにそういうイメージだった。
その中でも延武は少し変わったやつだった
具体的だが、中身のない目標に向かって行動する男で、俺たちをボランティアに誘ったり、川でおぼれている子を見つけるために川の上流から下流まで歩かされたこともあった。
なぜこんなことをするのかという問いに対しても
「教科書に載るんだからいいことしてたほうがいいだろ?」
など適当な理由で俺たちを振り回すのだ。
だが勘違いしてほしくない、悪い奴ではないのだ。
なんだかんだ言いながら笑ってついていくほどには、みんな楽しかったのだ。
高校はバラバラになってしまい、遊びに行く回数は減ったが、延武は変わらなかった。
陸上で大会に何回か出場しているというのも聞いていた。
今思い返すとここがターニングポイントだったに違いない。
二年生になるとめっきり遊びに行く機会がなくなってしまった。
俺たちが忙しくなったというのもあるが、延武が一番忙しかったのだ。
陸上の練習により励むようになり、部活がオフの日であっても近所の公園を走っている姿を何度も見かけた。
それは何かにとりつかれたように
そうして連絡もなしに、四人は次第に疎遠になっていった。
俺は昔から目標にしていたカフェのオーナーになるために、大手の流通会社に就職した。
必死に働き、社会人一年目の正月、テレビの中に、見知った顔が映った
延武だ
箱根駅伝の二区を走っている。
順位は四位だ
後ろには三人つけてきている
すると携帯から着信が、宗円からの電話だった。
『おい、駅伝見てるか!?』
興奮した様子の宗円、そしてもう一人
『俺も見たよ!一声行って来ればいいのにな!』
旭だ
延武の走りを見守りながら昔話やお互いの近況について語り合った。
旭は大学でキャンパスライフを
宗円は親父の会社でベーシストをやっているということだった
音楽に疎い俺でも聞いたことのあるアーティストにもベースだけだが参加していると聞いた時には思わず声を上げてしまった。
そして肝心の延武は四位から少し落ちて、六位でタスキを渡した。
そして結果は延武の所属する大学チームは十位という結果に
三人はねぎらいと久しぶりの再会を願って延武を含めた四人で飲み会を考え、延武を誘った。
すると
『いいよ~』
その返事から二日後
四人組が三年ぶりの集結となった。
「「「「かんぱーーーーーーい!!!」」」」
この飲み会は学生時代込みにしても、一番楽しい飲み会だった。
みんなの近況を聞きながら、最終的には延武に背負われて家に帰った。
朝起きる
今日は休みだったからよかったが、11時起きはかなり血の気を引いた。
それと気になったのが、いろいろなくなっている
傘に植木鉢、ティッシュ、高校の時の名札、その他いろいろ
なくなっても大して気にならないものばかりだが、それにしても釈然としない。
旭に電話してみたところ
『ちょっとわかんないな~』
とのこと。
延武の活躍はちょくちょく耳にする程度だった。
親友の活躍を追い続けるというのは、当たり前だ。
俺だって毎日チェックはしている
だが、ちょくちょくだ。
言葉を選ばずに言うのであれば、延武の成績がそこそこだったのだ。
一年生の時から駅伝出場を果たしただけに、彼にのしかかるプレッシャーも並大抵のものではないはず、
チームの監督はインタビュー記事の中で
『このプレッシャーを乗り越えてこそ、彼は選手として一皮むけるでしょう』
と、コメントしている。
そうして季節が過ぎ11月、宗円の誕生日
今年は研修出張もあり、電話だけでもしておこうと思いかけてみたもののなかなか出ない。
翌日も
翌日も
翌日も
翌週も
出張から帰ってきて二週間たっても出ないことに不信感を抱いた俺は、旭に電話を変えて事情を聞き出そうとした。
「入院!?」
『あ、出張行ってたから知らないんだ』
「知らないよ、ってか教えてよ!」
『いやーそれがいえなかったんだよ』
「?」
『この怪我なんだけどさ、原因がわかってないんだよね』
「それって..........?」
『そのまんま、なんで怪我したのか、怪我を負ったのか、それすらもわかってないんだ』
「もしかして俺疑われてたってこと..........?」
『んー、まぁそんなとこ?』
『まぁごめんね~いろいろあったんだよ』
「そっか~」
俺疑われてたのか..........ちょっとショック
まぁ会社に噂が広まるよりかはマシか..........
また今度お見舞いにでも行ってやるか。
その日、延武はベストタイムを記録していた。
冬、正月
箱根駅伝の季節だ
しかし延武は出場しない。
本人は相当落ち込んでいる、というわけでもなくいつも通り走り込みを行っていた。
俺はこのころから体調が少しずつ悪くなっていた。
どうしても仕事中にうとうとしてしまったり、何時間寝ても疲れが取れなかったり
「おじさんみたいなこと言うんじゃなぇよ、お前俺より若いんだから」
先輩にはそういわれたが、悪いもんは悪い
とりあえず一日休むか..........
その日、延武は新規記録をたたき出した。
翌年
箱根駅伝に初めて応援に行った、その時、重大な事件がおこった
選手の一人が首を切って自殺を行ったというもの
4区の上り坂の途中、突如ナイフを取り出し他選手を切りつけ、首を掻き切って死んだ。
自殺したものの名前は西山延武
これだけでは足りない
こんな生贄ではやつは満足してくれない。
少し強引ではあるが他人を生贄をしてみよう。
「ん?」
旭から、飲み会の誘いか..........
「かんぱーーーーーーい」
この飲み会、あわよくば私物を奪うつもりで来た
楽しむのもあるのだが
酔いつぶれた祐樹を家まで連れて帰った。
祐樹は気持ちよさそうに寝ている。
少しだけ私物を拝借するとしよう
これだけでうまくいくといいのだが..........
すごい!すごい!すごい!すごい!すごい!
本当にタイムが縮んでいる!
これを繰り返してゆけば..........
宗円が怪我..........
これは仕方ないこと..........仕方ないこと..........
縮んだ..........縮んだが..........幅が小さい
こんなのじゃ試合になんて到底出られない..........
もっと..........もっと..........
これで..........もっと早くなれる..........
これで、追いついて、あいつの、くびに、もっと、もっと..........
事件発生の半年以上前から、記録が伸び悩んでいたことがきっかけで、薬物に手を出す。
そこから継続的に薬物を摂取し、幻覚、幻聴、他多数の副作用があったとみられるほか、
闇魔術に手をだし(実際に効果があったのか不明)友人三名の傘、手紙、靴など多数を窃盗
闇魔術の材料として使用したとされている。
現代スポーツにおいて最も凄惨な事件であり、ドーピングに関する事件の中で一番大きな被害となった。
記録に伸び悩んでいた男が、事件に記録を残すのは、何とも皮肉な話だ。
参考文献
新造体育基礎2040
西山延武『悪魔と薬に魂を売った男』
記録に残るということ
『西山延武の手記』




