第28話 がんばれ、ジェラルド
「あのね、アーネスト」
遂に、ある晩、ジェラルドはアーネストに語り掛けた。
アーネストはビクッとした。
「君と俺は結婚するんだよ?」
アーネストは立ち上がって、逃げようとした。どこへ逃げる気だ。この部屋は狭いんだぞ? それに隣は俺の部屋だ。そんなところに逃げ込んだら、あとはわかっているな?
ガシッと手首を握った。
だんだん嫌われてはいないらしいことがわかってきた。
でも、アーネストが、どうしたらいいかわからないみたいだ。
女子の友達がいればいいのに。教えてもらえるのに。でも、騎士学校では無理だ。
これまで男子で通してきたけど、さすがに今では、もう女子だと学校中にばれている。
それでも、何も起きないのは、ジェラルドが執念深く婚約者だと名乗りを上げたからだ。
みんな決闘事件やピーターソンの骨折を忘れたわけではない。
ジェラルドは、せっかく男色家という汚名を払拭したのに、今度は、溺愛激重男という名前を拝命した。例の平民女子たちが発信源だ。
単にアーネストを心配しているだけなのに。なんなんだ。
紫がかった青の目がおびえたような表情を浮かべている。
これを見ると、ジェラルドはアーネストをめちゃくちゃにしたくなる。
それをぐっとこらえて、毎晩我慢して、一生懸命語り掛けた。少しずつ慣れてもらわないと。
「アーネスト、俺のこと、嫌い?」
アーネストは困り果てて、かすかに首を振る。ジェラルドは内心狂喜した。
「口に出して、言って」
「いや。……嫌いじゃないよ」
「目を背けないで」
逃げられてはいけない。もう片方の手首も握り締めた。そろそろ覚悟を決めてもらわないと。
「俺は君が好き。だから結婚するんだ」
好きと言ってほしい。
「ね? だから、慣れないと……」
少しずつ距離を詰めて、慣れていってもらえば、きっと願いはかなうと思う。
まだ、キスもしていない。無茶は禁物だ。
アーネストが手を引っ込めようとしてきたが、子ネコの抵抗みたいなものだ。ジェラルドは、テーブル越しに話をしていたのだが、手を引っ張られたので、ぐっと身を乗り出した。手首を握ったまま。鼻と鼻が当たりそう。当たるといいな。
アーネストは困って震えている。黙っている。
ジェラルドは胸がいっぱいになった。ずっとこうしていたい。目を見て居たい。
かわええ。
「もう寝ないと」
アーネストがポツリと言った。しまった。もう一時間ほどこの状態のまま過ぎている。
「ああ。そうだね」
満足だが、不満足。キスすらしていない。ただただ、好きだと伝えているだけだ。
「まだ、なにもしていない。手を握っただけだ」
だが、部屋は隣同士。次のステージを考えると、色々とウキウキする。婚約者なのだ。何を遠慮することがあろうか。
こんなことばっかりやっていて、一週間後、まだ、本懐を遂げていないのにもかかわらず、ジェラルドはダグラス公爵と公爵夫人から感謝状を受け取った。
まとめると下記の通り。
『アーネスティンが、自宅生になりたいと言ってきました。今までも、説得してきたのですが、ようやく寮を出ることに同意してくれました。ジェラルド君の説得が効いたようです。感謝申し上げる』
『男子寮は恐ろしいのだと理解してくれたようです。これまでは、全く理解してくれなくて困っていました』
『結婚式まで、家事やダンスを勉強したいそうです。社交にも関わっていきたいとか。本当にすべてジェラルド様のおかげです』
最後に致命的なことが書かれていた。
『ジェラルド様にふさわしくなるために、少々お時間をいただきたいとのことでした。結婚は伸びるかもしれませんが、夫に恥をかかせたくないと殊勝なことを申すようになりました。公爵家としても万全を期したいと思います』
ジェラルドは打ちひしがれた。
花嫁修業だなんて、完全に興味ないくせに。少々お時間て、どれだけ待てばいいの?
だがしかし!
ジェラルドはあきらめないと決めた。
嫌いじゃないって言ってくれたもん。
『君が好きだ。だから待つよ』
かわいすぎるのが罪なだけ。本当の俺は、ストイックに道を進む君にひかれたんだ。いつかきっと、その日が来るよね。
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がんばれ、ジェラルド。ところで、本懐とか、その日て何?
がんばれ、ジェラルド。作者も、ジェラルドを心から応援しています。




