第27話 夜のしじま燈火の下で二人は
ジェラルドは努力した。
そして、ついにはあんなにバカにしていた、平民女子軍団作のロマンス本まで読破した。
「女子の気持ちがわかりたい」
「どこにも女子みがない女子の研究のために読んでも、何の役にも立たないと思います」
本屋の店員(例の平民女子軍団の一員だったが)にも冷たくあしらわれた。
彼女は、クールイケメン・ジェラルド様のファンなのであって、現在の迷子の大型犬みたいなジェラルドは好きではないらしい。
ジェラルドも努力はした。
しかし、お茶会、パーティ、カフェデートやレストランデート、宝飾品店へのお誘い、全てが撃沈した。唯一、馬での遠乗りだけはオーケーしてもらえたが、馬が別々だった。意味なし。しかも男装。
変に距離が近い男子の遠出になっただけだった。
ジェラルドは自分が意外と嫉妬深いことに気がついた。
アーネストに近づく男子全員が気に入らない。
しかし、アーネストの周りは男子しかいない。そして、アーネストは、とてもその男子に馴染んでいる。要するに仲良さそう。
確かに決闘事件の時も、アーネストの無欲で自分の研究に懸命な姿は、同級生から好感をもたれ、何人かがアーネストを助けようと集まったくらいだった。
アーネストには、知的好奇心という言葉がピッタリくると思う。
しかし、そこへ性的好奇心を捩じ込むことは、物事の性質上、不可能だった。
ジェラルドが努力すればするほど、アーネストは警戒して遠のいていく気がする。
ジェラルドは、甲斐甲斐しく世話役に徹した。
伯爵家の御曹司が、商家の息子風情に何やってんだろう。周りの視線が冷たい。確かに可憐に美しいが、男子である。
本当は公爵家の令息ではなくて令嬢だけど。
この有様に、ストライクゾーンが無駄に広い平民女子軍団からも、ジェラルド株は暴落した。
貴族の令嬢たちからは、婚約者がいるのにそれを徹底的に無視して、訳の分からない学友(男)に入れあげているサイテー男として名を馳せた。
「バディだからって、関わるのは止めたらどうだ? 部屋が汚かろうが、ご飯を食べるのを忘れていようが、本人の自業自得だろ。餓死する前に、腹が減ってることくらい思い出すだろ」
「いや、アカン。アーネストは、飲む方も忘れるから」
ジェラルドをよく知る友人たちも、アーネストが本当の婚約者とは知らされていなかったので、この件に関してだけは、呆れた。
いいんだ。お世話するたび、ウザそうにされるけど、結局、アーネストは相手してくれる。まるで天使のようだ。
「アーネスト、夕飯、食べに行かなかったろ。スープもらってきたよ」
晩、アーネストの部屋へ侵入する。でも、お盆の上に、食事が乗っかってる以上、ヨコシマだとは言われない。
「お腹、空いてないから、大丈夫です」
うるさそうにアーネストは答えるが、ジェラルドは湯気の立つ実だくさんのスープと焼きたてのパンを、テーブルの上に乗せた。
「いいから、休憩しなよ」
お腹は正直だ。
焼き立てパンを割ってバターを付けるとみるみる溶けていく。アーネストはつい手を出して、食べ始めた。
「はい、スープ」
鶏肉と豆が浮いた、玉ねぎとトマトベースのスープだ。黙ってかっこんでるところを見ると、口に合ったらしい。
ジェラルドは、ランプをちょっと寄せてやった。これでスプーンを握る手元が明るくなる。
同級生や、鍛冶屋の話を振ると、結局乗って、いろいろ喋ってくれる。
アーネストの話は面白い。
ジェラルドも(アーネスト以外で)困っていることとか、授業や剣術の進み具合とかを話す。
夜、こうやって二人きりでしゃべるのは悪くない。
もう、これでいいかなとも思う。
本当はデートしたい。抱きしめたい。でも、多分難しいのかな。アーネストはいつも困った顔をする。そして、全く関係ない重火器の話を始めたりするのだ。
そして卒業まで、もう少し。




