第25話 部屋引っ越し
「お嬢様は、あと半年、在学することとなりました」
はああ。よかった。
「そうすれば、二年次までの在学証明が取れますので、今後のご活躍如何では、卒業証書も取得可能になります」
フッツーに入学して卒業することしか考えたことがないジェラルドには新情報だったが、そうなのか。
「つきましては、婚約者のアッシュフォード様のお部屋を移動していただきたく」
「え? 部屋の移動?」
「この隣りでございます」
執事は訳知り顔に、壁を指した。
「実はこの部屋は続き部屋でして」
執事は、壁に垂らしてあったタペストリーをぺろんとまくってみせた。
すると! なんと立派なドアが付いているではないか!
「幸いにも隣室は空き部屋でして。婚約者様なら、出入り自由です。夜もお嬢様を安全に保護していただけます」
安全に保護とは? ねえ、それ誰から保護するんでしょうか?
「今日にも公爵家の者が参りまして、荷物運びのお手伝いをさせていただきます」
「あの、それは……」
大丈夫なの? て言うか、大丈夫だと思ってる? 俺が聞くのもナンだけど。
「もちろん、部屋代などや手続き関係は、公爵家持ちでございます。ご心配なく」
執事オブ執事な公爵家の執事は、無表情の極みだったくせに、突然、凄みのある微笑みを浮かべた。
「あと半年! お嬢様がつつがなく過ごされますよう、使用人一同、万全の体制で臨みたいと存じます」
「まさか、ここへ皆さん、引っ越して来られるのですか?」
使用人一同って、何人いるの? そんなのに見張られるのは嫌なんだけど。いろいろやりたいこともあるし。
執事がものすごく残念そうな顔になった。
「それが出来ないので、婚約者様を隣に据えたのでございます」
あ? 本音? 俺は護衛か?
「あんなに可憐でお美しくていらっしゃるのに、誰も気が付かないなんて、ここの生徒どもの目は腐っています。しかし、もはや都合がよろしい。表向き、男で通っていらっしゃるなら、そのまま大誤解させておいた方が安全かと。私どもは、泣いて取りすがったのですが、あの舎監のクソヤローが生徒以外に隣室は貸さないと」
ここで執事の目が血走ってきた。
「護衛として、心当たりのある安全パイは、一人しかおりません」
ジェラルドは大混乱に陥った。安全パイて、何それ、どう言う意味なの? だが、彼が突っ込む前に、突然、大きなダミ声に響き渡った。
「すみませーん。失礼しまっす! こっちでいいですかー?」
赤ら顔の男が元気よくドアを開けて、中を覗き込み、執事を見つけると大声で聞いた。
「ここじゃない。隣だ。ドアは開いている」
え?
「アッシュフォード様。家具の配置について、引越しの人夫たちにご指示なさってください」
執事が顎をしゃくった。あわてて廊下に飛び出して驚いた。あの机は、俺の机じゃないか!
「だんなさま、これ、どちらに置きましょう?」
ダミ声が愛想良く大声で尋ねた。その後ろには、ジェラルドの椅子や服を抱えた男たちがぞろぞろ続いていた。
何、勝手してくれてんのー!




