第22話 君の婚約者
アーネスティンだ。ドレスがそれだ。
ジェラルドが心を込めて選んだドレスだ。
「薄紫っぽい青が似合うと思うんだ、彼女の目の色だ」ジェラルドは、ドレスメーカーのデザイナーにそう説明したのだ。
デザイナーは、渦を巻いたように薄紫と青のスカートが幾重にも重なったドレスを見せてくれた。胸元はレースでできた上品な花で飾られていた。絶対に似合う。
ジェラルドは走り出した。
あんなにきれいな令嬢は他にはいない。世界中のどこにもいない。
それにどの令嬢も、婚約者がすぐ進み出て、エスコートしていった。
ラストに入ってくるだなんて、アーネストらしい。だけど、平民と間違えられて、ダンスを申し込まれたら、どうするんだ。
ジェラルドは、すぐ駆けつけられるように、最初は入り口近くに待機していたが、入場してくる平民娘たちに期待を込めて手を振られるのに困って、目立たぬように後ろに下がっていた。平民娘目当ての大勢の生徒たちが、前に出たがっていたし、ジェラルドは、アーネスト以外どうでも良かった。
だが、今、彼は最前列に群がる生徒を押し除けて前に出た。
それでもちょっと遅くて、一人の生徒が、アーネストに声をかけようとしていた!
後半の女性は平民娘である。婚約者がいないことになっている。ダンスだって申し込みたい放題だ。
そ、れ、に!
アーネスティンは美人だ!
美人すぎる!
ジェラルドは、今にも手を取りそうな生徒を蹴り飛ばした。そいつは吹っ飛んだ。
「うお! 何すんだ!」
黙れ、外野。
「マリー・アメリー・アーネスティン嬢!」
ジェラルドは声を張った。
俺は名前をちゃんと知ってるんだ!
そして、ひざまずき、うやうやしく手を取った。足元に横たわる、向こう脛を痛そうにさすっている生徒には目もくれずに。
「さ、一緒に」
待っていたこの瞬間。
アーネスティンをエスコートする。
俺の贈ったドレス、着てる。
髪を結ってる。上記した顔が一段と可愛い。
戸惑ってる。それもまた、かわええ。
「ジェラルド先輩、私には婚約者がいます」
「そうだね」
「婚約者に失礼かなと思うんです」
うんうん。そうだね。根本が間違ってるけど。
「アーネスト、婚約者の名前は?」
「ウィリアム・ジェラルド・アッシュフォード。伯爵家の令息だそうです。さっき侍女から教えてもらいました」
ジェラルドは嫌われるかもしれないが、指と指を絡ませた。
「アーネスト。俺の名は?」
アーネストがキョトンとした。
ああ、かわええ。どうしよう。
「ジェラルド」
「下の名前は?」
「ア……アッシュフォード?」
「そうだ。君の婚約者だ」




