第21話 ダンスパーティ
そしてダンスパーティの日がやってきた。
ジェラルドは、バシバシに着飾って、ダンス会場に現れた。長身ですらりとした彼は、めちゃくちゃに正装が似合っていた。彼が現れた途端にキャーと悲鳴が上がったくらいだ。
しかし、そんなものは雑音。
果たして、アーネスティンは来るだろうか。
パーティは、学校で一番広いホールである鍛錬場で開かれる。
今日は、招待状があれば、誰でも一階のフロアに入れることになっている。
見学日も鍛練場に入れるのだが、鍛練の邪魔になるので、一階を見下ろせるぐるりの二階のバルコニーにしか入れないことと決まっていた。
だから、今日は、一階フロアが、それはそれは華やいだ雰囲気である。女性たちの入場はまだだが、生徒側の期待感がハンパない。
今、一番の心配は、アーネスティンが来ないことだった。次は、ドレスなし騎士学校の制服のまま現れること。この場合、彼は貴族令嬢に取り囲まれてしまうだろう。一番可能性が高い心配は、ドレスを着て招待状なしで来ることだった。
アーネスティンは、来る! ジェラルドは、そう信じたかった。侍女長に、伯爵夫人になるのは貴族令嬢として悪くない未来だし、男子校に潜入していた令嬢を理解してくれるジェラルドは、稀少な存在だと吹き込んだ。成果はあがるか?
しかし、その点をクリアしても、アーネスティン(アーネストというか)は、自校のイベントへ行くのに招待状が必要とは思っていないだろう。招待状なしの女性は入場出来ないのだ。その場合、アーネスティンは、怒ったり不思議がったりしないで、嬉々として帰ってしまうのではないか。
やがて時間になって、令嬢方がしずしずと入場してきた。
身分順だから先頭のはずだ。
最初の女性はよく太っていた。違う。アーネスティンじゃない。
次の女性は、黒髪だった。違う。三番め、四番めとジェラルドは目を凝らした。
いない!
ジェラルドは、ガックリ肩を落とした。
その後もその後も、違う令嬢ばかりだ。
後半は貴族令嬢ではなかった。手を振ったり、笑ったりしながら入ってくる。平民、そうは言っても金持ちの娘たちだろう。
生徒たちには、最初の入場者は高位貴族の令嬢たちで、ほとんど全員に婚約者がいると思えと、学校側からお達しが出ている。つまり失礼がないように気をつけろ、むやみやたらにダンスなんか申し込むなと。
最初の令嬢方の入場時は、生徒は静かだった。だが、後半になってくると、ザワザワ賑やかになり、期待に満ちたワクワクした雰囲気になっていた。
平民の娘たちには自由にダンスの申し込みができることになっていた。
生徒たちだって、平民も混ざっている。騎士学校に入校できるような将来有望な生徒には、金持ち娘たちだって意欲満々だ。
その中で、ジェラルドは、一人、お通夜のような暗いオーラを漂わせていた。
アーネストに婚約なんて意味がなかった。
アーネストは、あれでも義理堅い人間だ。
婚約を希望していたわけではないだろうが、早期の婚約は、彼女くらいの家柄なら、よくある話だ。婚約者からドレスを贈られれば、必ず着て指定されたパーティに出るのは義務だ。それも承知してるはず。
なのに来なかったということは、よほど嫌だったのか。
欠席は、両親が婚家先へ謝罪に行かなくてはならないくらいの大問題だ。侍女長も、泣いて取り縋ったに違いない。それでも、嫌だったのか。
「ドレスを突っ返してくれた方が良かった……」
もう入場者は終わりだった。
学校の担当者が、会場と女性側の控室を区切っていたカーテンを閉めようとした時に、そのカーテンを開けるようにして一人の女性が入ってきた。
「あ!」
ジェラルドの心臓が跳ねた。
アーネスティンだ。ドレスがそれだ。
ジェラルドが心を込めて選んだドレスだ。
「薄紫っぽい青が似合うと思うんだ、彼女の目の色だ」




