第2話 相手は公爵令嬢
ジェラルドは目を疑った。婚約?
「なぜ婚約? 誰と?」
手紙によると、先日、母は見学日に騎士学校に来たそうである。
「来なくてもいいのに」
寮でジェラルドはブツブツ独り言を言った。
『なんでも、二番人気はあなただそうですね』
母は、現実主義者でなかなかシビアなお人柄である。しかし、手紙の文面はなんだか得意そうだ。ジェラルドがどんなに人気でも、母には関係ないと思うが。
『お友達がプレゼント攻勢に遭って、気の毒にお腹を壊した話を聞きました。婚約が決まれば、プレゼントを贈ることはできなくなります。お手紙も、おさわりも禁止です』
それはそうだけれども。
でも、知らない女子と突然の婚約はちょっと困るような。
『お相手はダグラス公爵家の令嬢マリー・アメリー・アーネスティン様です。あなたより二つ年下のお嬢様です。肖像画を一緒に送ります』
ひらひらのレースと花で飾られた小柄な少女の肖像画が付けられていた。薄い金髪で目は青。さわったら壊れそうだ。高そうな宝石をつけている。ジェラルドが一番苦手なタイプの女子のような気がする。返事が来ないと泣いて騒ぎ出す手合いだ。
それに公爵令嬢だなんて、なんだかお高そう。断れないではないか。
『平民が多い騎士学校の学生などに、このような婚約をお知らせする必要はありません。相手のお名前は伏せておきなさい。しかし、婚約したことは大々的にお知らせするように』
それって無理なんじゃ。誰だって、婚約しましたと聞いたら、相手は誰?って聞くと思うけど。ジェラルドはますます困惑した。母は言い出したら聞かない。プライドも高い。面倒くさい。
『知らない女性と婚約と聞いて困惑しているかもしれませんが、あのような状態では平民娘と真実の愛などが勃発する可能性もあります。家の恥になります。立派な婚約が決まっていれば、あなたに声がかかったり、無理強いされることもないでしょう。母も安心です。先方とも話はついています。ですが、当面、内密にしておきなさい。婚約したことのみ、皆様にはお伝えするように。そうすれば、トラブルは避けられます』
えー。本当に何勝手なことしちゃっているの。ジェラルドは、もうどうしたらいいかわからなくなった。
『婚約者の名前は出さないように。これは、今後、二人が会って、もし、相性が悪かった場合は婚約解消の余地を残すためです』
ジェラルドはこの一文を穴が開くほど眺めた。
深い。深すぎる。
しかし、学校に行ったとき、さすがにジェラルドは黙っていられなかった。友人のケビンにこの話をしたら、ケビンは困ったような顔をした。
「公爵家って、ずいぶん格上なんじゃない?」
ケビンは男爵家の三男である。平民ではない。母は平民にはその話をするなと言ったが、貴族相手ならいいだろう。
「俺もそんな気がする」
「申し分のないご縁だと思うが、おそらくお前の方からは断れないよな」
ジェラルドは沈没した。つまり、気に入られたら最後ということか。
「でも、今後、お前に声をかけたり、プレゼント贈ることは、公爵家に失礼ということになるな」
「それは助かるけど」
「貴族の運命かなあ」
ケビン自身は伯爵家とは身分が違うので、そんな心配はないらしい。
「嫡男だしなあ。変な虫が付いたら困るってことか」
アランは協力を約束してくれた。つまり、ジェラルド様ご婚約のニュースを広めてくれると言うのである。
この手のニュースが広まるのはものすごく早い。
「さる高貴な家柄の方との結婚が決まったらしいよと、二、三人に教えてみたんだ」
婚約者の名前をガッツリ聞いてくる手合いをどういなしたものか。
「まあ、プレゼントが減ると助かる」
「あと、キャーキャー騒ぐのが、いなくなるといいな」
二人は鍛練場へ向かいながらそんな話をしていたが、鍛練場に入るなり度肝を抜かれた。
「ジェラルド様、ご婚約おめでとうゴザイマース!」
鍛練場の二階は下の訓練を見られるようになっていて、そこには女子が大勢詰めかけていた。
全く何にもへこたれない、平民女子は健在だった。




