第17話 外堀は埋めた
まず、バディの地位は絶対に譲らない。
ジェラルドは舎監の教師に宣言した。バディの変更は了承しないと。
教師はアーネストが退学するかも知れないと聞いていたので、特に何も言わなかった。そんなに長い期間の話ではないので、反対する理由がない。
次は公爵家である。
まず、母に宣言した。
「ダグラス公爵家にアーネスティン嬢との結婚をお願いしに行ってきます」
母はあわてた。
「公爵家は、再考したいとおっしゃっておられて……」
「本人に理由を聞きました。伯爵家の嫡子に自分のような妻では申し訳ないと遠慮なさっているようです」
妻という言葉にクラッとなった自分はバカか。
「ですので、事情説明に行ってまいります」
「あの、冷静にね。あくまで冷静に」
「ご心配なく! 母上! お任せください!」
幸いなことに公爵家は騎士学校のある王都にも家を構えており、悩める公爵夫妻は在宅していた。
「よっしゃー。勝ち確」
お手紙を出して、訪問を前触れしていたので、公爵夫妻はガチガチに固まってジェラルドを迎え入れてくれた。
ジェラルドも相手の出方がわからないので、めちゃくちゃに緊張していたが、相手もめちゃくちゃに緊張していたことがわかって、なんとなくホッとした。
公爵夫妻は、一般的な令嬢基準から少々逸脱している娘を心配していたらしい。
公爵家令嬢が、騎士学校に入学しているなんて、前代未聞だ。この重要情報を伝えないまま婚約を結んだのだ。
しかも再考したいだなんて、訳の分からない手紙を送ったところだ。文句を言われる可能性しかないと思ったのだろう。その苦情で乗り込んできたのかと怯えていたらしかった。
「素晴らしい方です」
ジェラルドはアーネストを絶賛し始めた。
「研究に対する真摯な態度、国防を通じて平和を願う心、その心意気に打たれました」
公爵夫妻が微妙な顔をしている。
「かわいらしい令嬢です。もちろん令息だと思い込んでいました」
公爵夫妻がホッとしたような不安なような表情に変わった。
「令嬢と知った途端に、婚約者であったことに感謝しました。優れた資質とかわいらしい様子に、至らぬ身ではございますが、ぜひとも妻としてお迎えすることが出来ればと」
どうも自分は妻というワードに弱い気がする。冷静に行こうとしたが、ここで引っ掛かった。うっかり顔が赤らみ、言葉に詰まった。しかし、結果的にそれがよかったようだ。
「一生大事にします」
ジェラルドは宣言した。
「これまでも朝食を運んだり、アーネスト君の部屋の掃除をしたり、決闘を代わりにやったりしていました」
公爵夫妻はしょんぼりし始めた。決闘の件は聞いているのだろう。
「その節はご迷惑を……」
ジェラルドはあわてた。
「ご迷惑なんかじゃありません。研究に邁進するアーネスト君に頑張れって気持ちでいっぱいでした。でも、女の子だってわかって、とてもしっくりきました」
公爵夫妻が天然記念物を見るような目つきになったのは、気になったが、
「アーネスティンをお願いします」
最終的にこの一言を勝ち得たジェラルドは意気揚々と寮に帰った。
外堀は埋めた。
あとは口説き落とすだけである。
「何があっても、口説いて口説いてモノにするんだ」




