第16話 今後の方針
アーネストは静かな様子で話し続けた。
「決闘事件が両親にはだいぶ不評で。まあ、いつかは婚約は白紙になると思っていました。相手の家に申し訳ないので、辞退しておいてくれと両親には伝えました。結婚はまあどうでもいいですからね」
まただ。また、この目だ。
シンと静まり返り、結婚ではない別なことを考えている目。
アーネストの頭の中に組まれている回路を、ジェラルドは理解できない。
だが、惜しい。それが何か価値あるものであることをジェラルドは知っている。
アーネストはかわいい。美しい。それに、理想に向かって冷静に計算しながら、しかし、冷たい炎をその身に纏いつつ突き進むアーネストは、なにか光を放っているような気がするのだ。
しかし、アーネストはジェラルドには完全に無関心らしい。
ジェラルドは悲しくなった。
まず、聞いてみた。
「婚約者のお名前は?」
ドキドキドキドキ。
「あっ、えーと」
忘れてんのかよ!
「どっかの伯爵家のご子息だったような。嫡男だと言うので、余計申し訳なくて」
いや、もう、完全に忘れてんな。まあ、自分も人のこと言えないけど。
「俺が結婚を申し込んだこと、覚えていますか?」
この分だと、目の前で起きたことも忘れていそうだ。
アーネストが、あわてたように目を逸らした。
「ええと、それも申し訳ないです。ジェラルド先輩には婚約者がいるとうかがいました。私が割って入ったなんてことになったら、本当に申し訳ありません」
それから早口になって続けた。
「両親は私を可愛がってくれています。それに、こんなことを言うのは変でしょうが、裕福です。おそらく、贅沢をしなければ、一生暮らしには困らないのです」
結婚する必要がないと、言いたいのね。ジェラルドは涙目になった。
誰が婚約者か、覚えていない時点で、婚約者は俺ですとバクロしても、反応はないと見た。
ジェラルドは戦法を変更することにした。
まずはハッキリ意思を伝えるべし。
「アーネスティン嬢」
ジェラルドは、アーネストの足元にひざまずいた。
「アッシュフォード伯爵家の嫡男ジェラルドは、あなたに正式に結婚を申し込みたい」
アーネストの紫がかった青い目が大きく見開かれた。
ああ、かわええ。グサっとくるな。
俺に魔法をかけないでください。もう、完全に捕らわれているけど。
「これは、俺の両親にも伝えています」
母にバレてりゃ、父にもバレてるだろう。多分。
「両親とも賛同しています」
間違いない。なにしろジェラルドの婚約をアーネスティンに決めてきたのは、あの二人だ。
「どうか俺にチャンスを」
「あのー、私には婚約者がいるらしいのですが、なにしろ、私がこんな状態なので、今、その人にも断りを入れているくらいです。あなたと結婚するくらいなら、そっちと結婚しろと言われそうです」
それはもう、どちらでも構いません。しかし、ジェラルドは素早く計算した。
仮定一。結婚する場合。
①前の婚約の筋を通せとなった場合。
すなわち、ジェラルドが相手ってこと。大歓迎。それでも、好き好き宣言をしておいた方が、受け入れられやすいから、宣言しておくべき。なるべくわかりやすく。
②別の婚約者を公爵家が用意した場合。
その人よりジェラルドを選んでもらわなくては。好きってどう言うことなのか、アーネストにわからせなくては。そのほかにも公爵家にもジェラルドの意思を伝えておくべき。
仮定二。結婚しないと、本人及び公爵家が決めた場合。
最悪。本人は今ココ。冗談ではない。
ジェラルドは、腹を決めた。




