第15話 ご縁を再び
直接説明しないと、どうも理解できていないのではないかと心配になりましたからねと、母は言った。
「アーネスティン嬢は、少し変わった令嬢だとダグラス家の人たちは考えていたようで……」
「とてもかわいらしい令嬢です。その上、数学的才能と度胸と根性がおありです」
ジェラルドはムキになって反論した。アーネスト、かわええ。
母は、コホンと咳払いしてジェラルドを黙らせた。
「なんでも軍事的なことに興味があるそうでした。騎士学校へ入学を希望していたそうで、そこであなたに婚約者として、白羽の矢が立ったのです」
「そうだったのですか!」
天の采配とはこのことだ!
「聴講生と聞いていましたが、実は生徒として寮生活を送っていたのですね。男子校に入寮する令嬢など、普通なら婚約者として受け入れられません。私も知りませんでしたし。学校側は知っていて、あなたのバディに付けたようですね。何かあっても婚約者ですからね」
何かあってもよろしかったのか。
ここ数日いろいろ考えていたが、さらに妄想は地平線の彼方まで爆走した。理性はどこへ行った。
「ですけど、あなたの手紙と同じ頃に先方の公爵家から、再考の手紙が着きました。よかったわね、ジェラルド」
ジェラルドは固まった。どゆこと?
「何があったと言うのでしょうか」
「私が知っているのは、再考したいの一言だけです。あなたの方がよく知っているのではなくて? ジェラルド。なにせバディだったそうですから」
母が帰った後、ジェラルドは考えた。
なぜ、そんなことに?
公爵家がジェラルドにノーを突き付けたのか? 男色家だから?
それは違う。断じて違う。
考えられないことだが、アーネストが嫌がったとか?
お腹の中がヒヤリとした。
何も聞いていない。確かめてもいない。
ジェラルドはアーネストが好きだ。
悔しそうに唇をかむ姿。ひたすらに謝りながら、懸命に頑張る姿。みんなかわいかった。内臓が引っ張られる。あっちへ行きたい。
だけど、アーネストはどうだろう?
友人としてなら、絶対に悪意は抱かれていない。でも、恋人としてとどうかと言うのは、聞いたことがない。
「聞かなくては」
聞くのは怖い。でも、聞かないわけにはいかない。
断られたら、ジェラルドは死ぬかもしれない。落胆と後悔と恥辱にまみれて。
出来ればこのままそっとしておいて、あいまいなまま……しかし、婚約者になれないなら、永遠にアーネストを失うのだ。
プライドなんかどうでもいい。あなたが好きです。もう、僕の心臓の一部です。
言わねばならない。さもなくば、アーネストを失ってしまう。
翌朝、アーネストにそう言ったら、すごく微妙な顔をされてしまった。
ジェラルドはビクビクした。
「私は……」
場所はアーノルドの部屋だった。ジェラルドはいつもの黒エプロンを体に巻き付けて、朝食を部屋に運び込んでいた。
コーヒーとトーストとバター。ゆで卵に塩。
「結婚は考えていなかった。別なことに興味があったから」
「でも、婚約者がいるそうで」
コーヒーの香りを楽しむようにゆっくりカップを傾けながら、アーネストはうなずいた。
「どうしても騎士学校に行くなら、念の為、婚約しておけ、そんな変わった令嬢を引き受ける家はないだろうから、今のうちだと言われた」
そんな適当な理由で婚約? 相手は誰でもよかったのか?
「騎士学校に行かせてもらえるなら、どうでもよかった」
どうでもよかったのか……
「で、婚約を再考したいと今回伝えたのはなぜ?」
アーネストが紫がかった青の目を上げた。
「私の家の事情に詳しいですね、ジェラルド先輩」




