第14話 天国から地獄へ
『母上。私は、学園で真実の愛を発見しました。つきましては、マリー・アメリー・アーネスティン嬢との婚約は、無かったことにしていただきたく』
そろそろ手紙が家に着いたかなーと思った日から、かっきり三日後に母上本体が学校の寮に現れた。
「わざわざお越しにならなくてもいいのに」
ジェラルドは上機嫌だった。
彼は最近、アーネストの部屋に毎日のようにお邪魔しているのである。
アーネスト本人は、ホルスト教授や、そのほか教えを受けていた鍛冶屋とかのところへ出かけていることが多く、ジェラルドはあまり会えなかったが、それでもアーネストのお部屋だと思うとちょっと嬉しい。このまま退学しないでくれるといいなあと思う今日この頃である。
そして、結婚を申し込んでおいてよかったとも思う。
退学されてしまったら、バディどころか学友でさえない。でも、婚約しておけば会えるんじゃね?
「この大バカ息子」
怒られた。
「何が真実の愛よ」
「しかし、母上!」
ジェラルドは食い下がった。
「相手は公爵家の令嬢です。市井の平民の娘とはわけが違います」
「何を言っているの。あなたは婚約者の名前をきちんと覚えていないのですか?」
「今の婚約者ですか? それも前の?」
「前の婚約者でしょうね」
母はため息を漏らした。
「マリー・アメリ―・アーネスティン・ダグラス嬢です」
ジェラルドは暗唱した。見くびってもらっては困るな。そこまで記憶力がない訳ではないぞ?
「そのお名前の令嬢が、あなたが婚約を解消したいと手紙で伝えてきた方で間違いありませんね?」
「ハイ……」
威厳たっぷりなジェラルドの母は、背の高い息子に負けじと背筋を伸ばして、爆弾を投げつけた。
「お望みどおりになりそうですよ? 昨日、相手先の方から、しばらく婚約の話は棚上げにして欲しいと連絡がありました」
「え……」
それでいいはずなのに、どうしてだか不安がよぎる。
今、気がついたけど、マリー・アメリーが余計なだけで、家名まで同じって……
「あの、私が婚約を希望しているアーネスティン嬢はダグラス家の令嬢なのですか?」
「そうですよ」
母が靴底にくっついた汚いものでも見るような目つきで、ジェラルドを眺めている。
「あなたは、その令嬢と婚約していたのです。最初から」
やっと意味が分かった。途端に地平線の彼方まで霧が晴れて、世界が光に満ちた気がした。
「え? え? そうだったのですか? え、うれしい」
ジェラルドの頭の中に、アーネストとの思い出があふれ出してきた。
最初はかわいい子だなーから始まり、だんだんと放っておけないになり、なんで放っておけないんだろうと悩んだ。
見た目かわいいアーネストは、かわいいだけの男の子ではなかった。ジェラルドの方がひるみそうなごっつい骨のある人間だった。だが、そこに惚れたのだ。
彼の夢を守りたいと思ってしまった。あ、彼女か。
なんでもいい。でも、女の子だとわかった途端、なんだか気持ち的にとっても満足なのはどうしてだろう。そして、独り占めしたくなるのはどうしてだろう。毎日、アーネストの部屋をウロウロするほどに。
そして、今、彼は最初から彼女のものだったことが判明したのだ。
婚約者……甘い蜜のような言葉。
「あ。でも、どうして今日はここにおいでになったのですか? 母上」
婚約はこのままでいい。とても嬉しい。
「そうそう。そこですよ。先ほども言ったように、先方の方からこの婚約、再考したいと言って来られたのでね。あなたの希望通り、うまく白紙に戻りそうですよ」




