第12話 執事登場
「ジェラルドだ。アーネスト、ちょっといいか?」
ジェラルドはアーネストの部屋を訪ねた。
「どうぞ」
聞き慣れない男性の声が返ってきて、ジェラルドはびっくり仰天した。
恐る恐る部屋に入ると、部屋はかつて見たことがないくらいキチンと片付いていた。
アーネストは、なぜか床の上にちょこんと座っていた。
「アーネスト、今日、舎監の先生がバディの変更を伝えに来たのだけど」
お前も反対だろ? とジェラルドは期待したが、アーネストは静かな目をしていた。
「ジェラルド様、お世話になりました」
「え?」
まさかバディ変更受け入れてる?
「バディ変更ではなくて、退学することにしました」
衝撃過ぎて、ジェラルドは正真正銘固まった。
「た い が く ……」
アーネストは、床に座ったまま頭を下げた。土下座状態だ。
ジェラルドはヨロヨロとアーネストのそばに歩み寄り、長い足を折りたたんで座り込んだ。
「どゆこと……」
「すみません。騎士学校に行きたいなんてワガママ言ってしまって。どうしても戦法や要塞、火砲などの研究をしたかったんです」
ジェラルドはうなずいた。それはその通りだ。
「国内で戦術などを学べるのは、この騎士学校だけ。セットで体術が付いてくるのが難点でしたが、そこは根性でと思いました」
「無理だと申し上げましたよね」
さっきの男性の声がした。あわてて振り向くと、白髪をピシッとまとめ、黒い執事服をこれ以上ないくらい堅苦しく着込んだメガネの初老の人物がいた。
絶対に、どこかの執事以外の何者でもない。
ただ、瓶底メガネのせいで表情が読めないんだけど。
「お初にお目にかかります。ジェラルド・アッシュフォード様」
彼は堅苦しく礼をした。
「アーネストのお家の方ですか?」
どうやら、アーネストの実家は平民ではないらしい。
ただの貴族の家の執事ではない。よほどの高位貴族の執事だ。執事オブ執事。
「私、ダグラス公爵家のものでございます」
なんかどっかで聞いたような? いやいや公爵家なら、絶対どっかで聞いたことあるわ。
「いろいろとお嬢様を助けてくださり、お礼を申し上げます」
ザ・執事は深々と頭を下げた。
「えっ?」
え、今なんて言った? お嬢様?
ジェラルドは、意味が解らなくて、グィンと首を回して、執事らしき人物をまじまじと見つめた。
「ジェラルド様、アーネスト様はアーネスト様ではありません。アーネスティン様でございます。騎士学校が男子ばかりでしたので、一応男装しておられました」
「えええっ?」
アーネストは、かわええ。
ふわふわした金色の髪、淡い青の目、色白でピンクの頬。体力ゼロ。筋力ゼロ。
にもかかわらず、眼光は鋭い。
やっぱ男だよねと思ってたけど、違ってた?
ただし、今のアーネストは、どんより死んだ魚の目になっていた。
「身の回りの世話までしてくださったとか。それくらい、なんとかなると豪語しておられましたが、案の定、人様の世話になっておられました」
執事はチッと舌打ちでもしかねない調子で続けた。
「お嬢様の部屋にしては片付いているので、びっくりしました」
「それは、その、俺が……」
「騎士学校にお嬢様が男装して入学するだなんて、どんな騒ぎになるかと心配しておりましたが、奥様が、どう見ても男にしか見えないからと、背中を押されまして」
奥様、大丈夫?
まあ確かに、見た目がこんなにかわいいのに、性格が凄い。なんか凄いわ。確かに性別超えそう。
けど、常識的に考えて、母親が推す話じゃないよね、それ。
「全然別な、予想外のトンデモ騒ぎを引き起こされまして」
決闘のことだな。
執事は苦々しげにアーネストに向かって言った。
「決闘は学則では禁止されていませんが、学則に書かれていないからって、やっていいわけではありません。学則に載っていないのは、法律で禁止されているからです」
アーネストは一言も口をきかなかった。
「お父様がお怒りです。すぐに帰ってくるようにと」
「新型のライフリングを施した大砲の普及を目指したい。せっかく決闘騒ぎを起こして、広報に務めたのに」
「そのやり方、どうなんですか! ジェラルド様が身代わりを引き受けてくださらなければ、顔に穴が空いていたかも知れませんよ! 家にお戻りください! 貴族令嬢の義務は、良い結婚です! もう、お父様が退学の手続きをお済ませになられました」
ジェラルドには、衝撃だった。
あれもこれもそれも全部気になるけど、このままでは、アーネストがいなくなる。
毎日、会っていたのに!
バディだったのに!
俺が一番親しかったのに!
もう、会えないの?
言葉は、ジェラルドの許可なく、彼の口から飛び出した。
「俺と結婚してください!」
「は?」
アーネストではなく、執事が返事した。




