第11話 バディ変更
あの決闘事件から十日ほど経ったとき、ジェラルドは学校から突然バディの変更を告げられた。寮の管理責任者の舎監である教師が、ジェラルドを呼びつけて通告した。
「こんな時期にバディの変更だなんて、面倒くさいです」
ジェラルドは抵抗した。
バディが来るときはワクワクしていた。どんな下級生が来るのか楽しみだった。
だが今はそんな気になれない。もう学年は半分過ぎている。これから新しいバディと最初からやり直すのは、面倒くさい。それに、今、アーネストはどう見ても不安定だ。バディのジェラルド交代にショックを受けるかもしれない。
「え? アーネスト君は、バディ交代、あまり気にしていなかったけど?」
教師の言葉にがくぜんとしたのはジェラルドの方だった。
「ジェラルド君に迷惑をかけたと思っているらしい。世話になってばかりで、バディらしいことを何もできなかったと反省していたよ」
そっちか。アーネストは謙虚な人柄だ。まあ、何も出来ていなかったことは間違いないけど。
お茶を淹れる腕前はジェラルドの方が格段にうまい。靴磨きの技だってジェラルドのは職人技と言ってもいい。アーネストの靴はいつも完璧な状態だ。
朝食の支度も後片付けも、部屋の掃除も下級生バディをしていた頃より、上級生の今の方がずっと手際よくなった。アーネストのおかげで、いろいろと鍛えられた。なんか間違っている気もするけど。
「アーネストは、本当にそう思っているのでしょうか」
ジェラルドは疑問を投げかけた。
アーネストは、ジェラルドにお世話されて、それで輝くのだ。
大砲の研究をしたり、要塞の形を数学的に計算したり、戦術論に没頭している。きっと将来は腕ではなく、頭で戦う立派な騎士になるに違いない。
ジェラルドは、今は洗濯物の世話をしたり、靴を磨いたりしているだけだが、いざという時には、あの決闘の時のように、勇ましい騎士として、アーネストの輝くさまを守り抜く覚悟だ。
「アーネスト君がどう思っているかより、外野がうるさくて、困っているんだ。あの平民女子たちだよ」
舎監の教師から意外な言葉が飛び出した。
「わが校の生徒の間に妙な噂が立ったら困るんだよ。騎士希望者は、平民には多いんだが、貴族にはそんなに多くない。ウチは士官養成学校なわけで、出来るならジェラルド、君みたいな素質ある高位貴族に来て欲しい。やっぱり高位貴族の子息は覚悟も違うし、責任感も違う」
なんの話? ジェラルドは面食らった。しかし舎監の教師は持論を展開した。
「大勢の優秀な入学希望者に来て欲しいんだ。そのためには、学校のイメージは、明るく清潔な感じじゃないと困る。中で男色みたいなマネが行われていると思われたら、イメージダウンも甚だしい」
「変な想像はしないでください!」
ジェラルドは思わず叫んだ。アーネストはかわいい。かわいいだけだ。かわいいは罪なのか?
「怒るな、ジェラルド」
舎監の教師は、ジェラルドの剣幕におそれをなしたようだった。
「君の言い分はわかる。君だって被害者だ。アーネスト君だって同じだ。だけど、平民女子なんかどうしようもないじゃないか。校内立ち入り禁止にしてもいいんだが、女の子にキャアキャア言われるのが楽しみな生徒も多いので……」
「……俺は、アレ、大嫌いです。それに俺には婚約者がいます」
舎監の教師はびっくりしたらしかった。
「そうだったの?」
ジェラルドの男色疑惑は一瞬で氷解した。
ありがとう、婚約者。なんか訳アリらしいけど、こんなに役立つ肩書だったなんて。
「今のところ、内々で話が進んでいる状況ですが」
ジェラルドにも、どういう状態なのかよくわからないけど、他人に説明する必要はないだろう。屋敷から出ないメンヘラでも、この際、どうでもいいや。あとで変更できるらしいし。
「それはそれは。失礼した」
知らなかったらしい。言ってなかったけど。
「失礼なのは、平民女子の連中ですよ」
ジェラルドは憤慨して見せた。
二週間後には、新しい『秘密の花園~婚約者の涙と泥沼化』という意味の分からないタイトルの続編が出来上がっていたけれど。誰が婚約者の話を平民女子軍団にばらしたんだろう。




