自殺オフ会に来た白髪美少女と恋人になる話
……あ。
どうも、こんにちは。
はい、そうです。今日のオフ会の……。はい。
待ち合わせって、このバス停の前で良かったですよね?
そうですよね、良かった。私以外誰も来てなかったんで、ちょっと不安だったんです。
……。
……他の人たち、遅いですね。
そうですね、みんな、やっぱり断念したかも知れませんね。
あ、バス来ちゃった。
もう待ち合わせの時間も過ぎてますし、私たちだけで乗りましょうか。
はい、私はもう……覚悟を決めてますから。
プシュー(バスの扉が閉まる音)
ブロロロロ……(バスが動く音)
……今日は、すごくよく晴れてますね。曇ひとつなくて、真っ青で。
なんだか、とても不思議です。いつもより空が……綺麗に見える気がします。
…………。
ん?なんですか?
……私が死のうと思った理由、ですか?
大して面白くないですけど、それでもいいですか?
……分かりました、なら少しだけ、お話しますね。
…………。
私、誰のことも、信用できなくなっちゃったんです。
親や友だちからお金を盗まれたりとか、恋人から浮気されたりとか、そういうのがたくさんありまして。
そしてつい先週、恋人の三度目の浮気が分かって、それでプツンと……気持ちの糸が切れてしまいました。
心の中に、ぽっかりと穴が空いてしまった感覚なんです。誰のことも信じられなくて、誰のことも好きになれなくて。
こんな空虚な人生をあと何十年と続けても、意味なんてない。そう思って、私は死ぬことを決意したんです。
……え?
……あ、ありがとうございます。辛かったですねと、言ってくださって。
なんだか久しぶりに、人から慰められた気がします。
…………。
……あの。
あなたはどうして、死のうと思ったんですか?
もちろん、話したくなかったら話さなくて大丈夫ですけど。
……はい、はい。
…………。
そうだったんですね。
それは、本当に大変でしたね。そんなに辛い経験をされていたなんて。
でも、凄いです。今日まで頑張って生きていらっしゃって。
いえいえ、私よりもずっと、あなたの方が大変な人生ですよ。
……ええ、そうですね。
一緒に、楽になりましょう。
あ、この駅ですね。降りましょうか。
プシュー(バスの扉が開く音)
さて、と。
スマホで検索してみると、このバス停から歩いて10分ほどで、樹海に着くみたいですよ。
ええ、そうですね。ゆっくり歩きましょうか。
…………。
あっ、うどん屋さんだ。
私、うどんが好きなんです。三食うどんでも大丈夫ってくらい、うどんに目がないんです。
え?最期に食べて行きませんかって?
……いえ、止めておきます。ここに来る前にたくさん食べてきましたし、今ここで一呼吸置いちゃうと、決心が鈍ってしまいますから。
…………。
あなたは、何か好きな食べ物はあるんですか?
へえ、そうなんですね。私もそれ、好きですよ。
え?私の趣味、ですか?
そうですね、ドラマとか映画を観たりするの好きでしたね。
え!?あなたもあの映画、好きなんですか!?
う、嬉しいです!あの映画を知ってる人、初めて会えました!
はい、はい、ふふふ、そうですよね。私もあのシーン大好きで、何回もリピートしてました。
そうそう、あの役者さんが凄いですよね。本当に演技がリアルで……。
……サアアアア(樹々が風に煽られてざわめく音)
わあ……。ついに樹海に来ましたね。
凄く空気が気持ちいいですね。胸の奥が清んでいくというか……癒されるというか……。
……なんで人が樹海で死にたがるか、分かる気がします。
死ぬ瞬間でくらい、心穏やかでありたいって、そう思うからなんでしょうね。
あ!見てください、あそこにリスがいますよ。
ふふふ、可愛いですね。
私、小学生の頃、劇でリスの役をやったんですよ。
リスの着ぐるみを着て、手にはちゃんとどんぐりも持って。
え?か、可愛いですか?え、えへへ、ありがとうございます。
……サアアアア(樹々が風に煽られてざわめく音)
……ずいぶん、森の奥まで来ましたね。
え?なんですか?
……ああ、そうですね。そろそろ、この辺でしましょうか。縄を持ってきましたので、どこかいい場所は……。
えーと、あ、あそこの木の枝なんてどうです?ちょうどいいかも知れませんよ。
ええ、ここにこうくくりつけて……。完成、ですかね。
……それじゃあ、あの。私から、お先に失礼しますね。
ありがとうございました、本当に。
いえいえ、それはこちらのセリフですよ。私こそ、短い間でしたけど……本当に、楽しかったです。
…………え?
…………。
……そうですね、あなたと一緒なら、私、笑えてました。
笑顔が見れて嬉しかったと、そう言ってくださり、ありがとうございます。
死ぬ前に会えた人が、あなたでよかった。
あなたみたいに優しい人と、もっと……。
もっと早くに……。
…………。
……さて。そろそろ、お別れしなきゃですね。
本当に、ありがとうございました。
…………。
…………。
きゃっ!
ドサッ!(枯れ葉の上に人が倒れる音)
けほっ!けほけほっ!
ど、どうして……私の縄をほどいたんですか?
……え?
し、死んでほしく、なかったから?
私に、生きていて欲しいって、思ったから……?
……止めてください。
どうしてそんなに、優しい言葉を言ってくれるんですか?
そんなこと言われたら……。
私、私……。
……死ねなく、なっちゃうじゃ、ないですか。
う、うう……。ぐすっ……。
ううう、ううう……。
……なんで。
止めてください、お願いです。
好きだなんて、言わないでください。
決心したのに。
あんなに決心したのに。
生きたいって、生きたいって思っちゃうじゃないですか……。
…………。
……はあ。
すみません、泣き止むのを待ってくださって。
あーあ、もう……死ぬ気なくなっちゃいました。
ふふふ、ええ。誰かさんのせいで、すっかり予定が狂っちゃいましたよ。
ううん、違うんです。私、すごく嬉しいんです。
あなたに止めていただいて、よかった。あなた以外から止められてたら、きっと偽善っぽくて嫌だったと思います。
でも、同じように苦しい思いをしてたあなたに言われると……私も、心を動かされてしまいました。
……え?
…………。
……うう、ううう。ぐすっ。
もう、あなたは何回私を泣かせれば、気が済むんですか。
はい、私もあなたと……一緒に映画を観たいです。
一緒にうどんを食べたいです。
一緒にいろんなところへ行きたいです。
あなたのことを……好きでい続けたいです。
ふふふ、そうですね、ちょっと恥ずかしいですね。
ええ、またバス停に戻って、私たちの街へ帰りましょうか。
そして、これからのこと、たくさん話しましょう。
え?ああ、そうでした。ふふふ、私たち、まだお互いの名前すら聞いてませんでしたね。
これからもずっと一緒にいるために、私の名前、忘れないでくださいね?
私の名前は……




