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極光の唄(後編)

 そして、鳥の訴えを聞き終えると、優しくその影で鳥を包んでやりながら、星々と月は鳥に鳥自身の『運命さだめ』の話を、やわらかく語って聞かせた。


「私たちは、お前の事をーーお前の姿を、お前の唄を、ずうっと見てきました、聴いてきましたーーどんな嵐の夜も、雲の上から、ずうっと。」


ーー百年の間、ずぅっとですーー


 星々は最初囁くように、鳥の身を案じ自分たちが見守ってきた事を、鳥に告げた。


 月はそれを黙って聞いており、星々が哀しげに言い淀み、一旦閉じてしまったその後の話の続きを、鳥に影を寄せ続けながら語り始めた。


「ーー百年前も、私たちは今のお前が話したのと同じ言葉を聴きましたーー、……お前と同じ姿、お前と同じ声をした、闇色の小鳥の訴えを……」


 星々は月に励まされ、口を揃えて喋りだした。


「ーーそして、その百年前も」

「更に又、その、百年前にもーーです」




 星々と月の影にいだかれながら、百年の孤独の中でも泪を流せなかった鳥の目から、滴が落ちた。


ーー鳥は、悟った。


 そうして、自分の眼前に選択肢があることを自然と知り、理解し、1つの道を……迷うことなく選びとった。


 鳥はーー、星々と月にお礼を言って、自分が百年、拠り所としてきた木の洞まで、降りていった。


 その羽根に星々と月の光の煌めきの雫をなるたけ沢山ふくませてーーもう二度と飛べなくなるほどに光の滴りを集めてーー、唄を唄いながら、己の巣へ、大事な生命の珠が待っているその場所へ向かって、一直線に……くだって行った……。




『誰か誰か、私の唄を聞いていますか。わたし、ーー私はもう独りきりではありません……。もうすぐ星々と月の唄鳥が、私とおんなじ声で唄いますーー』




 木の洞に辿り着いた小さな唄鳥の姿は、星々と月の煌めきの雫を含んだ白金に耀く羽根が目映く、瞳は彗星のように閃いて、嘴は濃い黒一色の闇のいろをしておりーー正に『夜の自然たちの化身の象徴』、そのもののようだった。




ーー夜に愛されたその唄鳥は、その愛を象って夜が世界に出来たその日からずっと、たった一羽だけ星々と月の間を飛び、極光の揺らぎのような美事な声で唄うことを許された存在だったーー


 それでも、どんなに夜から愛された美しい唯一無二の声を持っていても、唄鳥が唄うのはたった1つきりの唄だけ、なのだった……。


『ーー誰か誰か、私を知りませんか。あなたあなた、私と同じ唄を聞きませんか。私はもう、ずっと独りですーー』


 孤独で美しいその歌声に応え、星々と月とは相談し、百年に一度、唄鳥の下に珠を贈ることに決めた。


 その珠から生まれるのは、夜の唄鳥と全く同じ、星々と月の間を飛び、極光の揺らぎのような美事な声で唄う鳥。


ーー……けれども……ーー


 夜の唄鳥がこの世に存在できるのは、常に、たったの、一羽……、だけ……。




 鳥は、白金色の己の羽根をたたんで、珠をその下に抱いた。

 珠は煌めきの雫を含んだ羽根の下で、少しずつ大きくなり、卵へと変わっていった。

 鳥は自らの羽毛が卵の成長とともに段々と透けていくのを、眼を澄ませて愛おしそうに見詰めていた。


 卵の上に鳥の泪が落ちて消えたとき、暁の始まりの中で、姿かたちも心も全く同じ新しい夜の唄鳥が、朝に眼を奪われて木の洞の中に一羽、立ち上がった。

 ふるり、と身体を震わせながら。




 その鳥は、日の光の中では目が見えなかった。だから夜に星々と月の間を飛んで、その煌めきの雫を飲んで生きていた。


 鳥は自分と同じ鳥を知らず、また地上のどの生き物もその鳥が一体なにものなのか判らなかった。


 星々も月も影を差さない真の暗さの中では、鳥はじっと眼を澄ませて虚空へ唄った。


『ーー誰か誰か、私を知りませんか。あなたあなた、私と同じ唄を聞きませんか。私はもうずっと独りですーー』




                  了







 君の生命は、独りぼっちじゃ、ないんだよ

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