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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
6章『邂逅』
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【Scene05:Rebirth】



海風が金属を撫でる音がした。

東京湾のコンテナヤード。背の高いクレーンが宙に止まり、ナトリウム灯の橙が濡れた鉄骨に薄く滲む。


フードの影で火が点る。

一本の煙草。甘い外国銘柄。吸い口に触れた唇が、かすかに癖を思い出すようにゆるむ。


短く刈られたダークブラウン。

フードの隙間にのぞく銀煤の眼。受けた光だけを薄く返し、底は見せない。


──えにし


誰もいないはずの高台で、彼は低く息を吐いた。


「……やっと、だ」


火が赤く脈打ち、煙が潮の匂いにほどける。

風が強まるたび、遠くのコンテナが鳴いた。


足元には小型の通信端末。送信は切れている。

さっきの混線はわざとだった。届く相手はひとりでいい。


『もう一回、殺されに戻ってきてやったぜ。』


挑発じゃない。演出でもない。

“生きていた”事実と、“自分で戻った”意思を、彼女にだけ手渡すための合図。


喉の奥で笑いがひとつ、砂のように転がった。


「全部、終わらせる。……今度こそ」


言葉に、擦れた低さが混じる。七年前より少しだけ、音色が違う。


崖の縁で落ちた夜から、縁は《ゼロ機動隊ゼロキ》の影に潜った。

表向きは解体済みの特殊部隊。実際には、国家の底で汚れ仕事を請け負う半公式の群れ。

利用するのか、されるのか──答えはいつも揺れている。


「…これは、俺が選んだ“正義”だ」


目を閉じる。

風音の向こうで、銃声がよみがえる。

撃たれる瞬間の表情。

『もう誰も愛さない』と叫んだ声。

その熱も、痛みも、失せなかった。


(守れたのか。…それとも、守ったつもりで壊しただけか)


答えは出ない。煙だけが白く千切れていく。


「牙を守れるのは、もう俺しかいない」

苦い独白を、夜が静かに呑んだ。


指先で火を摘む。橙が小さく消える。


「ウィステリア……次は、ちゃんと殺してくれよ?」


祈りにも似た挑発が、潮風に紛れて落ちていく。

亡霊は、自分の足で還ってきた。


七年前には届かなかった言葉を、今度こそ──渡すために。



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