【Scene04.5:記録】
インカムに混じった、あの声。
──その瞬間、クロノの心臓が一度だけ強く跳ねた。
ウィステリアの息が乱れるより早く、ヨルの呟きが落ちるより深く、
胸の底で、**記録された“音”**が反響する。
『なあ、姫。覚えてるか? オレの声』
七年前と同じ響き。
……いや、同じ“ように”聞こえるだけだ。
抑揚も間も、完璧に一致するのに、何かが違う。
その“誤差”に、まだ名前を与えられない。
ポケットの中で拳を握る。震えを、誰にも見せない。
(……生きてたのか。お前)
驚きでも安堵でもない。
ただ、間に合わなかったという事実が、骨の内側で軋む。
脳裏に、あの問いが再生される。
『誰かを殺してでも守るって、ありか?』
もっと踏み込めていれば。
もっと“縁の迷い”へ手を伸ばせていれば。
(……俺は、何も守れなかった)
ウィステリアが叫ぶ。
「殺したはず」の人間が生きている現実に、声が裂ける。
けれど俺は知っている。あの崖で、縁は微笑んでいたことを。
反撃しなかったことを。
(……お前は俺たちを守ったのか?
それとも、お前自身の“理想”を守ったのか?)
答えは、まだ遠い。
それでも、いま確かに──止まっていた“記憶の針”が、わずかに動いた。
(……今度こそ、お前の声を、最後まで聞く)
赦しでも復讐でもない。
“記録屋”としての、静かな約束だ。
ノイズを排し、音量を整え、針を落とす。
次はもう、取り逃がさない。




