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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
6章『邂逅』
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【Scene04.5:記録】



インカムに混じった、あの声。


──その瞬間、クロノの心臓が一度だけ強く跳ねた。

ウィステリアの息が乱れるより早く、ヨルの呟きが落ちるより深く、

胸の底で、**記録された“音”**が反響する。


『なあ、姫。覚えてるか? オレの声』


七年前と同じ響き。

……いや、同じ“ように”聞こえるだけだ。

抑揚も間も、完璧に一致するのに、何かが違う。

その“誤差”に、まだ名前を与えられない。


ポケットの中で拳を握る。震えを、誰にも見せない。

(……生きてたのか。お前)


驚きでも安堵でもない。

ただ、間に合わなかったという事実が、骨の内側で軋む。


脳裏に、あの問いが再生される。


『誰かを殺してでも守るって、ありか?』


もっと踏み込めていれば。

もっと“縁の迷い”へ手を伸ばせていれば。

(……俺は、何も守れなかった)


ウィステリアが叫ぶ。

「殺したはず」の人間が生きている現実に、声が裂ける。

けれど俺は知っている。あの崖で、縁は微笑んでいたことを。

反撃しなかったことを。


(……お前は俺たちを守ったのか?

それとも、お前自身の“理想”を守ったのか?)


答えは、まだ遠い。

それでも、いま確かに──止まっていた“記憶の針”が、わずかに動いた。


(……今度こそ、お前の声を、最後まで聞く)


赦しでも復讐でもない。

“記録屋”としての、静かな約束だ。

ノイズを排し、音量を整え、針を落とす。


次はもう、取り逃がさない。



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