表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
9/60

【Scene 09:亡霊の呼び声】



──何かが、駆けた。


痕跡を辿って突き当たった先で、コートを翻す黒い背中が揺れる。


「……いたッ!」


ウィステリアが駆け出し、レインも即座に追う。

廃ビルの非常階段、崩れた路面、足場の悪い裏路地──ふたりの足音が闇に刻まれる。


「待て、《ゴースト》!」


振り返った顔は、《ウィステリア》を見ても怯えていない。

むしろ──どこか、知っているような目だった。


追い詰めた先、路地の奥。

瓦礫の影に、男がひとり立っていた。《ゴースト》。

牙の他支部に属しながら、百目羅刹と接触した裏切り者だ。夜の闇越しに、彼はまっすぐウィステリアを見据える。


「来たか、“毒の姫”……いや、《鍵》か」


その言葉に、ウィステリアの瞳がわずかに揺れる。


「……何の話」


「俺は、“記憶”の実験に関わっていた。

その中心にあった名……それが、“ウィステリア”だ」


静かな声。真偽を確かめる術はない。

だが、その目は最後までウィステリアだけを見ていた。


「“世界の記憶”は書き換えられる。

その鍵を持つ女──お前の存在が、それを証明する」


数秒の沈黙。やがて、ウィステリアは一歩だけ近づく。


「それが遺言?」


ウィステリアが静かに銃を構えた。男の口元が、かすかに笑う。


──パン。


銃声が、夜を裂く。

《ゴースト》は壁にもたれるように崩れ、指先から識別タグが転がった。


背後で、レインが微かに息を吐く。


「……よく喋る死に損ないだったね」


ウィステリアは背を向け、一言だけ残す。


「処分完了。“鍵”の件は、クロノに投げる」


「さすがウィステリア……楽勝だな」


「ふん……買ったばかりの毒を使うまでもなくて残念だった」


風が、死体の上を無感情に撫でていく。

ふたりは言葉を交わさず、拠点へと歩を進めた。

指輪の針先では、使われなかった新しい毒が、静かに次を待っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ