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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
5章『亡霊の記憶』
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【Scene10:Coda】



記録室は静かだった。

冷えた空気、機材のファンだけが薄く唸っている。


──いや、正確には。

ここにあるのは“声”ではなく、“記録された声”だけだ。


クロノはモニターの前に座り続けていた。

再生は終わっている。画面には、灰色のバーが一本、滲むだけ。


過去は残った。

真実は、残らなかった。


「……これが、記録屋の限界、か」


天井を見上げ、息のように零す。

喉の奥で、別の言葉がほどけた。


「……縁。お前、なんで……撃たれるってのに、笑ってた」


指先が電源に触れかけたとき──


「おーい、晩飯だぞー!今日は咲間シェフの、旬のカボチャを使った……って、あれ? なに見てんの?」


軽い足音。扉の隙間から、ヨルの顔。


あまりにも無防備で、変わらない日常の声だった。


クロノは一度だけ画面を見て、そっと電源を落とす。

黒い矩形が、音もなく部屋の温度を戻していく。


「……いや。何でもない」


椅子を引いて立ち上がる。

背後の記録は、またひとつ“沈黙”へ棚に戻された。


──亡霊の記憶は、今日も誰にも知られず沈み、

それでも廊下の先では、食器の触れ合う音がする。


時間は、流れ続ける。



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