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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
5章『亡霊の記憶』
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【Scene08:Judgment】



牙本部・記録室。


クロノは無言で端末を差し込み、ロックを解いた。

血の匂いはもうない。けれど指先には、現場の冷たさがまだ残っている。


「……全部は残っていない。──これが、最後のフレームだ」


部屋の奥に、ウィステリア。

あの朝と変わらない装いなのに、纏う空気だけが違っていた。


再生。

砂嵐。潰れた音声。揺れる画面。

血に濡れた床、崩れた躯──三つ。

その中心に、背を向けて立つ影。


縁。


若い背中。短く刈ったダークブラウン。

立ち尽くす姿に、言い訳も悔いも映らない。


やがて、壊れたレンズの向こうから、震える声。


「……縁が、裏切った……」


プツン、と音がして映像は切れた。

灰色のバーだけが、墓標のようにモニターに残る。


沈黙。

クロノは息を殺す。隣の気配だけを見守る。


ウィステリアの睫毛がわずかに揺れ、噛みしめた唇が白くなる。

彼女は一歩、画面に近づいた。握り締めた拳が小さく鳴る。


「……私が、処分する」


耳をすり抜けるほど静かな声。

怒りでも、嘆きでもない。温度を失った意志だけが置かれる。


クロノは言葉を失った。

その一文が、どれほど重い宣告かを知っている。

彼女にとって“縁”が何だったのかも。


ウィステリアは視線を外さないまま、もう一度だけ落とす。


「終わらせるのは──私だ」


クロノは初めて目を伏せ、再生停止のボタンに触れた。

小さなクリック音が、判決の木槌のように部屋に響く。


もう、誰にも止められない。


物語はここから、終わりへ向けて動き出す。



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