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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
5章『亡霊の記憶』
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【Scene02:Fragment】


七年。

もう、なのか。まだ、なのか。


指先に残るのは冷えたキーボードの感触。

なのに脳裏を撫でたのは──空調じゃない、あたたかい風の記憶だった。


クロノは目を伏せる。

“記録”には残っていない断片が、静かに浮かび上がる。


──セイカ。

足音はいつも静かで、背中はいつも大きい。

「お前、今日はちゃんと寝たか」

襟を整える指が、ほんの少し震えていた。任務の緊張ではない。

“見守る側”の重さを、彼女は黙って抱えていた。


──ハヤト。

声はうるさいのに、言葉はやけに優しい。

「ログ、また手書きに逃げてるだろ。几帳面か適当か、どっちかにしろ」

笑いながら叩き込まれた手順が、いまの俺の基礎になった。

“記録屋”の骨格は、あの男の手癖でできている。


──ミサキ。

手はあたたかい。薬草茶の湯気と一緒に、不眠の夜をやわらげる声。

「大丈夫。ここは、あなたたちの居場所だよ」

当時はうまく信じられなかった言葉が、いまは痛いほど沁みる。


──カズマ。

「へへっ、俺に背負えねぇもんなんてねぇからな!」

ヨルを肩に乗せて走る背中。単純で、だから強い。

“守る”という語のいちばん近くにいた。


四人がいた頃、牙は揺るがないとボスは言った。

「この四人がいる限り、牙は揺るがない。……不思議なことにな、皆、奴らに懐く」


その意味が、遅れて沁みる。


目を開ける。カーソルの小さな点滅が、胸の鼓動と重なる。

熱じゃない。異常でもない。

ただ、記憶が記録を上書きしようとしている。


「……本当は、全部、書いておくべきだった」


“記録屋”を名乗る資格は、あの夜に置いてきた。

それでも──いまから書く。


二度と、零さないために。



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