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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
4章『枷咲』
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【Scene 18:拾われた者と、牙達】


桜蛇会の地下施設。

血の匂いと静寂が染みついた通路を、二つの影が並んで進む。


先を行くのは咲間。すぐ隣に、彼を拾い上げた女──ウィステリア。

その歩幅はもう、命令に従う足取りではない。まだおぼつかなくても、自分で選んだリズムだった。

袖口に触れた指先の温もりが、彼をまっすぐ立たせている。


曲がり角の先。

銃を構えたまま、レインが立っていた。藤色の瞳が咲間を射抜く。


「……終わらせてきたのか?」


言葉は返らない。けれど、咲間の背に漂う「断ち切った者」の気配に、レインは短く息を吐く。


「……そうか」


銃口がわずかに下がる。


奥からアリステアが現れ、二人を一瞥して足を止めた。


「……君が拾ったのか」


ウィステリアは小さく頷く。

アリステアは咲間の前に進み、静かな声で問う。


「これからどうする。〈牙〉に来るのか、それとも──」


咲間は頭を垂れ、短く答えた。


「俺は、“在る”ことを選んだだけです」


その静けさに、アリステアは一拍置いて頷く。


「了解した」


その時、廊下の奥から複数の足音。クロノとヨルが合流する。

クロノがタブレットを操りながら低く告げる。


「警備は乱れ始めている。南西の通気ダクトから地上へ──今なら三分は死角だ」


「案内は任せろ」

レインが位置取りを変え、先導へと回る。


ヨルが一歩遅れて咲間の手元を見て、ぽつりと呟く。


「……目、変わったな」


咲間は返さない。ただ、ヨルと目を合わせ、ほんのわずかに首を傾けた。

薄紅の瞳には、はっきりと新しい色が宿っている。


視線が交わり、全員が無言で頷く。

《牙》は動き出した。


失ったもの、拾い上げたもの──それぞれの“今”を背負って。

通気ダクトへ、音もなく駆け出す影たち。


静かだが確かに、自分たちの生き様を示しながら。



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