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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
4章『枷咲』
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【Scene11:壊された真実】



桜蛇会・談話室。


黄ばみかけた壁紙、うなる古い蛍光灯、灰皿に山になった吸い殻。

テレビの砂嵐が、低く空気をざらつかせていた。


ソファにふんぞり返る二人の幹部が、だらしなく笑う。


「……にしてもよ、咲間、最近おかしくねぇか」


「何がだ」


「《牙の姫》にちょいと“教育”してこいって言ったらよ、鼻で断りやがった。あの忠犬が、だ」


カツ、と灰皿の縁で火が押し潰される。


「拾われた恩だなんだって、殊勝に命張ってたくせにな。

──自分の家族を殺したのが“拾い主”だとも知らねぇでよ。狐みてぇな笑顔、寒気がするぜ」


もう一人が吹き出す。


「哀れなもんだ。ぜーんぶ桜蛇の段取りだってのにな。

血まみれの廃ビルも、真冬の寒さも、“お前だけが生き残った”って見せ方も──演出だ」


その会話を、廊下の影で咲間は聞いていた。


沈黙。


いつもの薄い笑みが、音もなく剥がれ落ちる。

瞳孔がわずかに締まり、薄紅の色が深く沈む。


足音を消して、扉を押す。


「──今の話、どういうことです」


名を呼ぶ前に、二人の肩が跳ねた。


「さ、咲間……いつからそこに……」


「答えてください」


咲間の声は低い。氷の底から響くような、揺れのない響きだった。

だが、その指先だけが小さく震えている。


幹部は唇の端を吊り上げ、火の消えかけた煙草を咥え直す。


「今さらだろ。お前にゃ関係ねぇ話だ。お前は最初から“道具”。

家族なんざ、忠誠植えつけるための材料だ」


もう一人が肩をすくめる。


「“拾ってやった”のも脚本さ。王の指示でな。

お前の涙も、震えも、全部予定調和。上等な操り人形だったってだけの話だ」


表情が、消えた。


咲間は一拍、何も言わなかった。

静寂の中、袖口の内側で鍵の金属が、かすかに当たって鳴る。


そして、ぽつりと落とす。


「……どうでもよくは、ない」


幹部の笑いが止まる。咲間はゆっくりと視線を上げた。


「“俺”は、ただの道具じゃない」


怒鳴り声でも、啖呵でもない。

それは、咲間という青年がこの世界に向けて初めて放った、自分の言葉だった。


「返してもらう。俺の人生を」


淡々と告げると、咲間は踵を返す。


背中で蛍光灯が、チリ、と微かな音を立てて瞬いた。



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