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Tokyo Dusk  作者: 藤宮 柊
4章『枷咲』
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【Scene10:割られた檻】



桜蛇会・地下施設。

重たい金属扉が、湿った空気を押し分けて軋む。


入ってきたのは幹部の一人。朱のレンズをかけた大柄な男が、黒い袋をぶら下げ、床にわざと足音を散らす。


「おやおや、まだ“お姫様”はおねんね中か?」


鼻で笑い、袋から金属の器具を取り出して机に放る。

ギラリ──鈍く光る、目的のはっきりしすぎた道具。


その気配に、壁際で控えていた咲間が、静かに立ち上がった。


「……そのご指示は、正式には下りておりません」


「ん? “適度に教育しとけ”って話だよ」

幹部は歯をむき出しに笑う。「気位の高い姫も、少し痛みを教えりゃ大人しくなる」


咲間の指が、鞘の柄に触れる。抜かない。ただ、そこに“意志”があることだけ示す。


「この方に、無意味な暴力は不要です」


「……あァ?」

幹部が数歩踏み込む。だが咲間は目を逸らさない。


「指示があるなら文書で。以後の独断は、組に対する越権と見なします」


短い沈黙。

幹部は舌打ちし、咲間の“異常”を思い出したように肩をすくめた。


「ちっ……じゃあ好きにしろ。どうなっても知らねぇぞ」


ギラついた道具を残し、男は足音だけを置いて出ていく。

扉が閉まると、地下の低い唸りだけが戻ってきた。


咲間はしばし無言のまま立ち尽くし、天井隅の監視灯に一礼する。

「処置は私が引き受けます」──聞こえよがしに、報告の形を整える。


それから机に向かい、器具を一つずつ、布で覆い、箱に戻す。

金属が布に触れるたび、乾いた音が柔らかく吸い込まれる。最後の一つを収め、鍵を回す。

鍵は袖口へ滑らせ、音を立てずに隠した。


その一連の動きが終わるころ、ベッドの影で瞼が震えた。

ウィステリアが薄く目を開け、低く笑う。


「……拷問具を片づけるなんて。随分、よくできた“道具”ね」


咲間は振り返り、穏やかに微笑んだ。


「どうやら──私はもう、壊す側には戻れそうにありません」


静かな声だった。

けれど、その顔に宿ったものは確かだった。


檻の鍵を、内側から壊した者の、それだった。



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